サラリーマンをリストラされ、コンビニバイトをしているうだつの上がらないフリーター、中津。彼は驚異的な身体能力を誇る謎のニート・土志田、なぜか情報収集能力に長ける女子高生・カオリ、定年間近のサラリーマンと若者殴り魔の2つの顔を持つ日下と出会い、町を守る自警団を結成。やがて、自警団は市民の賛同を得て大きな組織へと成長していく。
「桐島、部活やめるってよ」で俳優に転身して以来、
数々の作品でその風貌に違わぬ二枚目の役を多く演じてきた東出昌大。
だが、今回の映画で彼が演じるのはヘタレでダメダメな青年・中津という、
これまでのキャリアにない三枚目の役どころだ。
福満しげゆきの人気コミック「生活【完全版】」を実写映画化した、
新感覚のアクション・コメディで、
今までに見たことのない東出昌大がスクリーンに描き出される。
© Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
――今回演じられた中津という役どころは、今までの東出さんにはないキャラクターだったと思います。演じることが決まったとき、率直にどのように感じましたか?
「オファーをいただいて、まず豊島圭介監督の作品にまた出演できることに喜びを感じました。以前ドラマでお世話になって、また豊島監督の作品に出たいと思っていたので。その後、原作を読んだのですが、福満さんの漫画の世界って、ホワホワしているのに毒づくところは毒づいていて、独特なんですよ。それを映像化するにあたって、いろんなやり方がある中で豊島監督はどうやるんだろう?と、すごく楽しみになりました」
――ヒーローとして荒れた街を正していこう!と言う割に、中津はヘタレでいつもダメダメでした。自身にとって初めてのキャラクターを演じる上で難しかったところは?
「今回の役に限らず、演じる難しさはどんなときも感じています。ただ"やる気の無い顔"をするにしても、コメディの中でのやる気の無い顔はまた違うと思うんです。やる気の無さを出すためには、もっと具体的に変な顔をしたほうがいいのか、そういう加減の難しさが中津という役にはありました。でも『その役を生きる』という意味では、ほかの作品と根底は同じだと感じています。なので、わざとらしくコメディっぽく演じるよりも、中津が精一杯で生きた結果がフフッと笑える、という形になるように演じましたね」
――役作りについて監督ともお話はされましたか?
「豊島監督からは『走り方研究しておいて』と言われました。多分、中津って体育の成績が1か2だと思うんですよ(笑)。大きな体でドタバタ走るんですが『情けなく見えるように走る』というよりも、『そもそも情けない人物が走っている』となるように研究しました。人に土下座するのも初めてだったので、土下座の仕方を研究したり。僕は初めてでしたけど、中津は土下座し慣れているはずなんです。なので、拳の形だったり、首が折れ曲がっていたり『もう、煮てでも焼いてでも好きにしてくれ!』っていう土下座にしようと監督とも話していました(笑)」
――中津らしさを、監督としっかりと組み上げていかれたんですね。
「現場ではいつもヘタレで居よう、と思っていました。面白い脚本だったので、台本の通りに演じるだけじゃなくて、そのときの中津の気持ちを大事に演じたかったんです。例えば、チンピラにお金を巻き上げられた後に、お金を取り返す場面では、中津だったらムカついて1発殴っちゃうだろうから1発入れちゃう、みたいな。中津の精一杯でいつも居ようと心がけていましたね」
© 2014青木雄二プロダクション・及川コオ・西田真二郎/徳間書店・「ナニワ銭道」フィルムパートナーズ
© 2012「桐島」映画部 ©朝井リョウ/集英社
――今回の作品はコミカルではありますが、アクションにも見応えを感じました。
「アクションに関しては、僕はやられ役に徹するだけ。体力ギリギリのサモ・ハン・キンポーみたいな感じです(笑)。そういう部分では、ジャッキー・チェンは窪田(正孝)くんですよね。アクション部の方は『クローズ』の頃からの信頼できる方々だったので、アクションは生き生きと、泥っぽくやってました」
――窪田さんとの共演シーンが多かったですが、彼の印象は?
「本人にも言ったんですけど、窪田くんは職人ですね。そのときドラマの撮影と被っていたので時間的にも体力的にも本当に忙しかったと思うんですが、ドラマの役柄もやりながら土志田として決めるところはキッチリと決める。現場でもすごく明るく振舞っていて、同年代の役者の中でも尊敬できる俳優です。でも、一緒に食事に行ったときに、お店の人が『体に毒だよ』と止めに入るくらいお肉をずーっと食べてて(笑)。そういうところがまた、可愛げあっていいんですよね」
――窪田さん以外にも「吊るし魔」の面々は、小松菜奈さん、片岡鶴太郎さんと、魅力的なキャストが揃っていますよね。
「小松菜奈ちゃんは、すごいギャグセンスがあるんですよ。撮影での表情はとても大人っぽくて妖艶なのに、普段はちょっと子どもっぽかったり、いい意味でフザケていたり。本当に多面的で魅力的な女優さんでした。片岡鶴太郎さんはフランクな方で、たくさん話しかけてくださいました。アクションシーンは深夜になることが多かったんですが、そんな中でも緊張を切らすことなく、笑いの線も含めてキッチリと決める。本当にすごい方でした。僕ら若い俳優を親のように見守ってくださいました。あと、鶴太郎さんはアドリブをバンバン入れるんです。そういうところも面白かったですね。けっこうアドリブがそのまんま使われているんですよ。"中津ホモ説"のシーンとか(笑)」
――そんな4人が楽しげに一緒に居るシーンは、ちょっと素なんじゃないかと思うくらい素敵なシーンになっていました。
「4人でのシーンは、中津の人生において一番生き生きしている時なんです。自分の過去の出来事などはすべて忘れて、あの瞬間はヒーローになりきっていた。中津の“嬉しい”という感情のまま、演じていましたね」
――最後に、映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。。
「この映画の脚本を読んだときも、映画を観終わったときも、嫌な気分がひとつも無かったんです。ヤンキー映画を観て劇場を出た後に、ちょっと強くなった気持ちになることってありますよね。そういう感じで、この映画を観た後はちょっとだけおおらかな気持ちになれる。ほんの少しだけ、そういう優しい気持ちを持ち帰ってもらえたら嬉しいですね」
撮影:渡部孝弘
ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリング:檜垣健太郎(little friends)
取材・文:宮崎新之
(C)福満しげゆき・講談社/映画「ヒーローマニア-生活-」製作委員会
出演:東出昌大、窪田正孝、小松菜奈
山崎静代(南海キャンディーズ)、船越英一郎、片岡鶴太郎
原作:福満しげゆき「生活【完全版】」(モーニングKCDX/講談社刊)
監督:豊島圭介
脚本:継田 淳
配給:東映/日活
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