元ヤクザのジジイたちが詐欺集団を相手に大暴れする
一大エンターテインメント作「龍三と七人の子分たち」。
主演の藤竜也をはじめ、近藤正臣、中尾彬、小野寺昭らが名を連ね、
主要キャストの平均年齢はなんと72歳!
若い者には負けられんと奮闘する姿は爽快で、
名優らのまさかの演技につい笑いがこみあげる。
メガホンを握るのは、「アウトレイジ」シリーズなど
数々のヒット映画を手がけ、国内外で評価を集める北野武。
各方面から注目を集める最新作について話を聞いた。
「ストーリーを真面目に演じれば
笑えるように作った」
――今回は主演に藤竜也さんを迎えましたが、なぜ藤さんをキャスティングされたんですか
「お笑いっていうのは落差なんだよね。オチるときに、その落差が大きければ大きいほどいい。今回みたいなお笑いの映画を撮るとなると、強面でちゃんと演技ができる人が主演じゃないと。 だから、藤さんくらいの人じゃないとダメだったんだよ。こういう映画でコメディアンをキャスティングするのが、一番やっちゃいけないことだね」
――藤さんにコミカルな作品というのは意外でしたが、いわゆるコメディ的な演技はしていないんですよね。なのに笑いがこみ上げてきました。
「今回は、ストーリーを真面目に演じてくれれば笑えるようになっているから、コメディアンみたいな、俺が、俺が!っていう演技はいらない。藤さんはやっぱりカンがいいから、このスジだからこういう笑いになるっていうのは台本でわかってて、その上で、ストーリーがこうだから笑ってしまう、っていう感じに演じてくれてた。出過ぎないようにやってるんだよ。それは本当に期待通りで、上手いな、と思ったね」
――動きや表情で笑わせるのではなく、ストーリーでしっかり笑えるように作ってあるんですね。
「そう。でもそのためには、掛け合いのセリフなんかを漫才のテンポにしなきゃいけない。そのために撮影のときに余白を作っておいたり、繋ぎやすいカメラワークにしたりして撮るんだよ。あとから編集で漫才のテンポにしていくから。編集であわせられるような撮り方で、撮影しておかないといけない」
――撮影で印象に残ったのはどのシーンですか?
「それはやっぱりバスのシーンかな。商店街の狭い道を、バスで屋根とかをぶっ壊しながら走らせたから。いけねー、ジジイみんな乗せたまま撮っちゃったよ、ってね(笑)。藤さんなんか、詰めた指が映らないように手を握ってるから、手が痺れたなんて言ってたよ」
――あのシーンは本当に迫力の映像でした。
「名古屋のフィルムコミッションが、休日の商店街を使えるようにしてくれて。本当に良くぞ貸してくれましたって思うよ。俺はさ、ハリウッドのCGなんて大嫌いでさ。車が飛んでひっくり返ってなんて、ありえない映像だろ。あんなのはつまらない。やれるところはCGを使わないほうがいいんだよ。アナログの面白さがあるからね」
「昔の作品を思い返してみても、
今回が一番難しい」
――最新作の公開にあわせてJ:COMでは過去作品も放送されます。自身の監督作品で思い出に残ってることはありますか?
「『座頭市』の時は、勝新太郎さんのスポンサーの人が『どうしてもやってくれ、あとはお前に任せた!』なんて言われて。でも『座頭市』は勝さんのもので、誰がやったって敵いませんよ、って返したんだけど、『座頭市』の名前でさえやればいいからって言うもんだから。じゃあ本当にムチャやりますよって、金髪で派手な格好して、タップまでやっちゃったんだよね。そしたら思いがけずヒットしちゃって。俺の監督作品では一番の成績なんじゃないかな。
あと、悔しかったのは『菊次郎の夏』ね。『HANA-BI』のあとに撮った作品で、カンヌ映画祭で上映した後、10分以上の圧倒的なスタンディングオベーションがあったんだよ。ベネチア国際映画祭の「HANA-BI」のときよりも凄かった。それでレストランに食事に行けば、映画を観たピアニストがあのテーマ曲を弾いてくれたりもしてね。
結局は何の音沙汰もなく、誰もノーマークだった作品が獲った。あとで思えば、その当時の世界の情勢なんかが賞なんかにも影響してるんだな、って諦められたけど。でも、そんなだったら賞をナシにしたほうがいいんじゃないかって思うね」
――そんなエピソードがあったんですね。そういう過去作品とも見比べつつ、今回の映画も楽しんでもらえたらと。
「そうだね。いろいろ思い出すけど、今回の映画が一番難しい。自分の裸をさらすみたいなところがあって、コメディアンとしての要素を使った映画を撮ると、失敗すると『なんだあいつ』ってなるから、それが恐い。
そういう意味では『アウトレイジ』みたいな暴力映画なんかは楽だったりもするんだよ。けど、これは失敗するとテレビにも影響がある。でも、映画はベタなネタのほうが絶対ウケる。テレビは細かいネタを仕込んだほうがいいんだけど。そういう意味では、今回の映画は自分の不得意な分野に挑戦して、いい感じに仕上がったっていう感じかな」
撮影:渡部孝弘 / 取材・文:宮崎新之
4月25日(土)全国公開
70歳の高橋龍三は、かつて“鬼の龍三”と畏れ慕われた元ヤクザ。だが、現在は息子家族にも邪険にされ社会からも相手にされず、世知辛い世の中を嘆くばかりだった。そんなある日、オレオレ詐欺に引っかかり詐欺集団・京浜連合と因縁めいた関係になった龍三は、勢いで昔の仲間を集めて「一龍会」を立ち上げる。
監督・脚本・編集:北野 武
音楽:鈴木慶一
出演:藤竜也、近藤正臣、中尾 彬、品川 徹、樋浦 勉、伊藤幸純、吉澤 健、小野寺昭、他
配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
公式サイト://www.ryuzo7.jp/
©2015「龍三と七人の子分たち」製作委員会