ローカル地域を発信地として公開される作品を生み出す「Mシネマ」製作の第2弾は、松井玲奈と新川優愛のW主演で送るヒューマンドラマ。職場でいじめられ、家庭では母親に存在を否定されてしまう理華(松井)と、彼女と同じ環境を克服したセラピスト・ラブ(新川)の不思議な関係を描いていく。映画やドラマ、舞台などでさまざまな役に挑戦している松井は不器用な生き方しかできない女性を見事に体現。自身の過去を振り返りながら、役と向かい合う中で試行錯誤が続いたという撮影秘話を語ってもらった。
――理華を演じてみていかがでしたか?
「理華は、いろいろな葛藤を抱えている女性。世の中だったり、家庭の中で上手く息ができなかったりするような感覚は全部理解できるわけではないですけど、分かる部分もありました。私自身も、中学や高校時代は決して明るいタイプではなくて…。学校に行きたくないと思った時期もありました。理華を演じる時は、あの頃の自分の思いを引っ張り出しながら役と向き合っていった感じです」
――役作りで心掛けた点は?
「理華は不器用な性格と言いますか、日常の中で溺れてしまっている子なのかなと。生きていく“泳ぎ方”が下手なんだなと思っていました。自分の感情の出し方が分からないから、他人といる時にどこかぎこちなくなってしまう。相手によって距離感が全く変わるタイプですよね。理華と関わる人々との距離の取り方を意識ながら演じていました」
――新川優愛さんが演じるラブは、どんな風に映っていましたか?
「とにかくキラキラしていましたよね。理華とは正反対のキャラクター。自分の生きたいように生きていて、すごくかっこいい。新川さん自身が、とても芯のある女性なんです。自分が思っていることをはっきりと相手に伝えるし、自分なりの考えをしっかり持って撮影現場にいる姿はラブと重なるところがありました」
――ラブと理華の関係が無理なく作れた感じですか?
「劇中で、ラブが理華に対して『そのワンピース、すごく似合うじゃん』とか『私たち、双子みたいだね』と話し掛けるセリフがあるんですけど、リハーサルの時から『そんなの嘘だよ!』って、ずっと思っていました(笑)。理華は自分に自信がないから、ラブがキラキラ輝けば輝くほど、気持ちが後ろ向きになってしまう。ラブには悪気がないんですけど、コンプレックスを抱えている理華にしてみれば、こんなにキラキラしている子と同じフィールドに立てるわけがないと思ってしまうんですよね。新川さんがラブそのものでいてくれたので、私も自然と理華でいられたし、いろいろなものを引き出された感じ。その何とも言えない感覚は、演じていてすごく面白かったです」
――理華は、精神的に追い詰められるシーンが多かったですよね?
「撮影中は、とてもしんどかったです(笑)。シリアスなシーンが多かったので、ずっと落ち込んでいました。自然と口数が減って、現場でもあまりしゃべらなかったような気がします。ずっと、理華と向き合っていましたね。彼女だったらこの時にどう考えるのか。どう動くんだろうってことを、監督と話し合いながら撮影に臨んでいました」
――宮岡太郎監督とは前作の「gift」でもタッグを組んでいましたが、今回の作品で印象に残っているやりとりはありましたか?
「すごく難しいなと思ったのが、笑顔が顔に貼り付きながらしゃべったり、受け答えをしたりするというお芝居。見ている方たちが辛いと感じれば感じるほど、ラブと出会ってからの理華の変化がより伝わってくると言われて。自分の感情を飲み込むんだけど、やっぱり飲み込み切れない部分が顔に出てしまうという表情の作り方に苦労しました。演じている時は自分がどういう顔をしているのか分からないので、モニターでチェックして『あ、私こんな顔をしてたんだ』って、気付かされたことがたくさんあったような気がします」
――ラブと出会って変わっていく理華の心情については?
「ラブが言っていることは正しいなと思えたし、理に適っている。だからこそ、どれだけ自分の意志に従っていいのか、思うように生きていっていいのか、理華自身が葛藤し始めるんです。ラブの言うことを全部信じてもいいのか分からなくなってしまうんですよね。そんな理華の心の揺れは理解することができました。ラブとの接し方に悩んだからといって、元の自分に戻るわけではない。ラブによって、違う理華の一面も表れてくるんです。その変化はとても興味深かったですね」
――理華が感情を爆発させるシーンもありますね?
「ラブと理華がぶつかる場面がありますよね。理華のことを思いながらというか、迫っていきながらラブも感情を表に出していく。あの場面では、人ってぶつかってみないと分からないことがあるんだなって思いながら演じていました。相手が自分のことをどう思っていたのかが分かる瞬間があるんですよね。お母さんと向き合うシーンもとても印象に残っています。お母さん役の筒井(真理子)さんに引っ張っていただいて、自分の感情を思いっきりぶつけることができました」
――自己主張と、一歩引いて他人の意見を聞くバランスは難しいですよね。
「今回の映画は、見た方がどう解釈するのかが大事なのかなと。物語の中で最後にたどり着く場所は理華が出した一つの答え。それを見た上で、一人ひとりが何を感じるのか。自分って何だろうと考えながら、その中から出てきた言葉とどう向き合い、自分というものを見つめ直していくのか。そんなことを投げ掛けるような作品なのかなと思います。サスペンスミステリーのようなストーリー展開も面白いので、その不思議な空気感も楽しんでいただけたらうれしいですね」
――松井さん自身は、自分の意見をはっきり言えるタイプですか?
「本当にやりたいこと、こうしたいと思うことははっきり言います。ただ、そうじゃないことに関しては人任せ(笑)。自分の中で譲れないこと、何でこうなるんだろうって疑問に感じたら、悩みながらも結果的に思ったことを言うことが多いですね。それは、仕事もそうですし、私生活でも同じ。例えば友達とどこかに行くとなった時、食べたいものや見たい場所があったら自己主張しますよ。その代わり、どっちでもいいかなって感じの時は『何でもいいよ』って思っちゃう。一番面倒くさいタイプかもしれません(笑)」
――でも、周りの人からすれば、分かりやすくていいかもしれませんね。
「そうですね。自分が『これ!』と思ったことしかやりたくない。わがままなんですよ、基本的に(笑)。昔は、自分の意見を何も言わなかった時期があるんです。周りの人たちが言うからそうしますって。ずっとそんな感じでやってきたら、段々分からなくなってきたんです。これでいいのか、このままじゃよくないぞと。自分がやりたいことを何も言わずに後悔するぐらいなら、ちゃんと意見を言って話し合う。お互いが納得した上で次に進んだほうがいいなと思うようになったんです。でも、自分の意見は言いますけど、ちゃんと思いやりはありますよ(笑)。自分の思いを伝えつつ、相手の意見にもきちんと聞く耳を持って接しています」
――作品のタイトルでもある“めがみさま”には、どんなイメージがありますか?
「みんなが憧れて、ついていきたくなるような、進むべき道をしっかりと表してくれる存在なのかなと。でも、近くにいたら、それはそれで結構怖いかも。信じすぎてもいけないような気がするし。心のよりどころぐらいの気持ちでいたほうがいいのかもしれませんね」
撮影:渡部孝弘
取材・文:小池貴之
ヘアメイク:白石久美子
スタイリスト:船橋翔大(DRAGONFRUIT)
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