1995年、ウィンブルドン選手権でベスト8に進出するなど、
日本を代表するテニスプレイヤーとして活躍した松岡修造。
現在は、スポーツキャスターとして活躍する一方で
彼は日本テニス界の発展にも尽力してきた。
現在は日本テニス協会の理事であり、強化本部副本部長という立場になり、
大きく日本テニス界の今後を見据えながら、後進の指導に当たる日々。
その松岡の見出したプレイヤーの一人が、錦織圭だ。
今や世界のトッププレイヤーとして活躍する錦織だが、
小学生のとき松岡が主宰する修造チャレンジトップジュニアキャンプに参加し、
その経験をステップに世界へ羽ばたいていった。
そして迎えた今年の全米オープンテニス。
大きな飛躍を遂げた錦織は優勝を狙うプレイヤーとして、
そして松岡は錦織のプレーを見届ける解説者として大会に挑む。
全米オープンテニスは、
“祭り”のような活気がある
――2015シーズン最後の4大大会(グランドスラム)、全米オープンテニスがアメリカ・ニューヨークでいよいよ開幕! 昨年、錦織選手が準優勝をしたこともあって、例年以上に日本でも注目度が高まっていると思います。まず、この大会の特色を教えていただければと思います。
「錦織選手の活躍で日本の皆さんはテニスを見る機会が格段に増えたのではないでしょうか。それに伴いテニスの4大大会それぞれの文化や歴史も伝わり始めているように僕は感じています。テニスを愛する者としては非常にうれしいですね。各大会の特色をひと言で言い表すなら、会場の雰囲気を当てはめると分かりやすいかもしれません。全豪はオープンでフレンドリー、全仏はファッショナブル、ウィンブルドンは伝統的で格式高い。全米はと言うと、祭典。祭りのような活気と熱があります。
会場となるのは、2万3千人が観戦できる世界最大級のテニス専用競技場アーサー・アッシュ・スタジアムを有するUSTAビリー・ジーン・キング ナショナル・テニス・センター。この巨大な会場にまずは驚かされます。
また、スポーツの盛んなアメリカらしく、お客さんの反応もほかとは違う。テニスのスポーツの側面とエンターテインメントの側面が存分に味わえるような気がします」
――その中で日本人としてはやはり錦織選手への期待がかかります。
「今、世界のテニス界はノバク・ジョコビッチ、ロジャー・フェデラー、アンディ・マレー、ラファエル・ナダルの君臨したBIG4の時代から、新たな勢力図が形成されつつあるとき。だからこそ誰が勝つか分からない。その新勢力のトップにいるのが圭。それは世界が認めています。
ただ、圭はグランドスラムの壁だけがまだ乗り越えられていない。実は、その壁を日本人で乗り越えた人はまだ誰もいないんです。僕も伊達公子さんも越えられなかった。圭はいまそこで戦っている。この壁をジョコビッチにしても、ナダルにしても乗り越えてきた。その壁を乗り越えたとき、初めてグランドスラムへの扉が開かれるのだと思います」
――では、グランドスラム制覇に向け錦織選手には何が一番必要でしょうか?
「僕が思うに、メンタルの強さですね。ジョコビッチにしても、ナダルにしても絶対的なメンタルの強さを持っている。彼らと比べたとき、圭のメンタル面は疑問が残ります。テニスの技術に関してはもうトップの域に達しているので、あとはグランドスラムを勝つための心を圭自身が見つけるしかない。それさえ見つけたら、と思います。それぐらいグランドスラム制覇が夢ではない位置にまで圭は来ているんです。だから、実は今回の全米オープンテニスも圭にはすごく大きなチャンスなんです。
圭を一人のテニスプレイヤーとして冷静に見たとき、僕は今こう思っています。“この2年の間にグランドスラムを1つでも圭が獲れたら、4大大会制覇も夢ではない”と。一方で、こうも危惧します。“この2年でグランドスラムを1つでも獲れなかったら、今の圭のような若手が台頭もしてきて、壁はより大きいものになってしまうだろう”と。だからこそ、今回の全米オープンテニスで圭がどんなテニスを見せるのかに注目してほしいですね」
全米オープンで圭がその勇姿を
見せてくれると信じています
――すでの周知の通り、錦織選手はウィンブルドンの2回戦をケガで棄権しました。ケガが回復するのか、心配されます。
「ウィンブルドンのセンターコートに立つというのはすべてのテニスプレイヤーにとっての大きな夢と言っていい。それを棄権するというのは、ものすごい勇気がいることなんです。普通だったらケガをおし、無理をしてコートに立っても不思議ではない。おそらく僕だったら100%立っている(苦笑)。
でも、圭はそこを冷静に判断して、“棄権”という勇気ある決断を下しました。この知らせを聞いたとき、僕は正直安心しました。というのもその前の戦いを見て、“ケガが再発したか”と思ったし、ジョコビッチらに太刀打ちするにはもうワンランク上の動きが必要で、あのケガの状態だとそのパフォーマンスをするのは無理だった。おそらくあそこで無理をしたら、ケガを悪化させて復帰まで3ヵ月ぐらいかかったかもしれない。なので、僕は正しい決断だったと思います。
逆を言えば、圭はあの時点でケガの治療に専念して、全米オープンに万全の状態で出れるように標準を合わせたということ。僕は全米オープンで圭がその勇姿を見せてくれることを信じています」
――ほかに松岡さんが全米オープンで注目している部分はありますか?
「これまでテニス界は22歳ぐらいで才能を開花させる選手がほとんどでした。それが圭の登場ぐらいから変わりつつあって、10代でトップに入ってくる選手が珍しくなくなってきている。僕が考えるに、圭が選手としてピークを迎えるのはこれから3~4年後。その頃、おそらく脅威になるのは10代の若い選手たちなんです。その先まで見据えるためにも、どんな若い選手が台頭してきているのかはしっかりとチェックしたいと思っています。
あと、車いす部門で国枝慎吾選手と上地結衣選手が全米シングルス連覇を懸けて出場します。これも日本人として誇るべきこと。国枝選手の勝率はフェデラー以上で、車いすテニス界では無敵の存在。彼らの活躍はもっと日本の皆さんに知ってほしいし、もっと多くの人に見てほしいです」
――最後に今回、松岡さんが解説を務めるテレビ中継の見どころを教えてください。
「現地に行く身としてはこう言ってはいけないかもしれないんですけど、僕も実はテレビで見たい(笑)。というのも現場で、生で見ることもかけがえのない体験ではあるのですが、テニスをより細かく見ようと思うとテレビ中継が最高なんです。
その最も良い点がスローを何度もリプレイで見れること。普通の会場で見るとスローはほとんど見ることができない。スローの映像で振り返ることで実にいろいろなことが確認できる。その映像から見えたことを説明するのが解説者。それが今回の僕の役目です。今どんなことが起こったのかしっかりと解説したいと、まず思っています。
それプラス、僕は予測もします。“たぶん次はこうなっていく”と。それで、その僕の予想はおそらくほとんど外れない。なぜなら、テニスプレイヤーだからだいたい分かるんです。でも、そうならないときがある。実はそれはとんでもないことが起きているということ。その選手にメンタルで何かが起きたり、体力に限界がきていたり。このように、トッププレイヤーの技術を伝えるとともに、メンタルの面にも迫って伝えていきたいと思っています。期待してください」
撮影:中川有紀子
取材・文:水上賢治
8月31日(月)~9月14日(月)連日生中継
※初日無料放送
(写真右より)錦織圭 写真:アフロ、ノバク・ジョコビッチ 写真:ロイター/アフロ、ロジャー・フェデラー 写真:アフロ、ラファエル・ナダル 写真:ロイター/アフロ、アンディ・マレー Getty Images
2015シーズン最後の4大大会の一つ、全米オープンテニスがアメリカ・ニューヨークで開催される。WOWOWでは、2014年大会で準優勝に輝き、4大大会初優勝を目指す錦織圭の戦いなど、現地の感動と興奮を連日生中継でお届け。WOWOWなら錦織戦は全試合独占生中継!また、全仏オープン、ウィンブルドンに続き、車いす部門も放送する。
収録場所/アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク USTAビリー・ジーン・キング ナショナル・テニス・センター
公式サイト://www.wowow.co.jp/tennis
(写真右より)錦織圭 写真:アフロ、ノバク・ジョコビッチ 写真:ロイター/アフロ、ロジャー・フェデラー 写真:アフロ、ラファエル・ナダル 写真:ロイター/アフロ、アンディ・マレー Getty Images
全米オープンテニス2015総集編
9月20日(日) 14:00~15:00 他
ニューヨーク市郊外にある、フラッシング・メドウのUSTAナショナル・テニス・センターを舞台に行われた、全米オープンテニス。14日間に及ぶ熱戦の模様を振り返る。今年最後のグランドスラムを制したのは果たしてどの選手か!?