まだ戦後の空気が色濃く残る1947年。詩誌「荒地」を創刊するために、戦後日本の現代詩運動の中核となる面々が集まっていた。それから28年。その創刊に携わった北沢太郎は、新聞社の校閲部に勤務しながら細々と詩作を続け、妻子と穏やかな家庭を築いて平凡な幸せをかみ締めていた。だが、同じく創刊メンバーで親友の三田村貴一の妻・明子と関係を深めるようになる。そして仕事を捨て、家族を残して明子と暮らすようになり…。
直木賞作家・ねじめ正一の長編小説が、豊川悦司の主演でドラマ化される。
戦前、戦中を生き抜いたある詩人が、50代で陥った親友の妻との「禁断の愛」。
許されざる関係が深まるほど、詩人としての言葉は研ぎ澄まされていく。
その特異な生き様を、豊川はどのように演じ切ったのだろうか。
――今回はねじめ正一さんの小説が原作ですが、どのような経緯で今回の役を演じることになったんでしょうか?
「お話をいただいたのはすごく前で、4~5年前にはこの原作をやりたいと渡邊孝好監督から聞いていたんです。渡邊監督がずっと昔から温められていた企画なので。なので、シナリオができる前からやるとお返事していました。今回、WOWOWのドラマという形に落ち着きましたが、監督は当初、映画を想定していたんです。ですが、どのような形になっても演じさせていただくつもりでした。鈴木京香さんも、同じように渡邊監督から聞いていたようで、パーティなどでお会いする機会があったときに、話題にのぼることもありましたね」
――渡邊監督は、豊川さんのデビュー作の監督だったそうですね。監督作への出演は約22年ぶりとのことですが、ひさびさの監督の現場で何か印象に残ったことはありますか?
「現場はシリアスなシーンでも楽しい現場でしたよ。監督がそういう雰囲気づくりをしていたというのもあると思います。何かの映画のシーンに例えて段取りするような。(共演した)京香さんにも『このシーンはこの映画の誰々みたいな感じで!』とか、『今日の京香さんはジャンヌ・モローだね』とか、『今日はベアトリス・ダルなんだよ』とか撮影ごとに言っているのが面白かったですね。それで現場もすごく和むんです」
――監督の中ではかなりいろんな作品を彷彿とさせるイメージがあったんですね。
「でも、考えてみると今回の話って全5話の中にそれだけのイメージが入っているってことなんですよね。普通の映画ならひとつのエピソードを抽出して作品にするんだけども、この物語には『老いらくの恋』から『駆け落ち話』、『家庭崩壊のようなホームドラマ』、『芸術家たちの物語』といろいろと詰まっている。監督も長い映画のつもりで撮っていると話をしていました。一人の男の半生を通じて、時代を描いていくという形としては、ほんの少し大河のような雰囲気がありましたね。現場の手ごたえでは、すごく面白いものになるんじゃないかと思っています」
インタビュー後編につづく
――今回演じられたのは北沢太郎という詩人でしたが、演じられてみて北沢はどんな男でしたか?
「僕が演じた北沢太郎は、若いときに追いかけていたものを生活のために封印したところがあるんですね。でも、ほかの仲間はそれを続けていた。そういうコンプレックスのような部分が北沢の中にはあって、それが明子との出会いによってどうしても抑え切れなくなっていく。出会いによって変わっていくさまは、人間ドラマだな、と思います。あと、今の時代の同じくらいの世代に比べて、強さのようなものを感じますね。意思が強い。戦争というキーワードが大きく出てくることは無いですが、背負っているものが違うんだと思います。彼らは実際に兵隊として行っていた過去をもっているわけですから。植えつけられたものなのかも知れないですが」
――そういう中で、北沢はどんどん詩の才能を開花させていきます。
「これまで詩というものを熱中して読んだりしたことは無かったんですが、今回の役を通してすごく面白いと思いました。このひと言で思いもよらない表現ができてしまう。そして、その言葉が前の言葉と数行あとの言葉とつながっている。詩って、そのときの気持ちを流れで書き留めているわけじゃないんですよ。原稿には赤がいっぱい入っていて、何度も何度も咀嚼して出来上がるんです。漢字ひとつに汗のあとが滲んでいるんですね。とはいえ、彼らがやっていることはちょっと現代では考えられないんですけど。今だったら、確実に炎上して祭り上げられちゃうでしょうね。今は、こういう人たちが出にくい時代になっているんだと思います」
――ちょっと現代では考えられないような濃密な関係が、見どころのように感じます。
「彼らは許容範囲が大きいんですよ。自分の妻と親友ができてしまったとしても、それはそれとして、そのことを責めずに今後どう付き合っていくかを考えるような。なんかもうグチャグチャなんですよ。4種混ざっているピザのような感じ。ちょっと僕らの感覚じゃついていけないような部分も、彼らは乗り切っている。そこに、昭和の男たちの妙な強さというか、開き直り感があって、すごくドラマチックになっていますね」
――主人公の北沢だけでなく、そのほかのキャラクターもそれぞれに見ごたえがありますよね。
「北沢はどう生活していくべきか、どう生きるべきかを考えている。かたや、親友はどう死ぬべきかを考えているんですね。それって、同じことを考えているようでぜんぜん違う。そういうところは、人間っていろんな顔があって面白いなと思います。なので、今回の作品は群像劇としても楽しんでほしいですね」
撮影:中川有紀子
ヘアメイク:山﨑聡
取材・文:宮﨑新之
2016年1月9日(土)
WOWOWプライムにて放送開始
毎週土曜午後10:00~(全5話)
WOWOWプライム 第一話無料放送
©WOWOW
まだ戦後の空気が色濃く残る1947年。詩誌「荒地」を創刊するために、戦後日本の現代詩運動の中核となる面々が集まっていた。それから28年。その創刊に携わった北沢太郎は、新聞社の校閲部に勤務しながら細々と詩作を続け、妻子と穏やかな家庭を築いて平凡な幸せをかみ締めていた。だが、同じく創刊メンバーで親友の三田村貴一の妻・明子と関係を深めるようになる。そして仕事を捨て、家族を残して明子と暮らすようになり…。
©フジテレビジョン
©2007「犯人に告ぐ」製作委員会
©1994 フジテレビ/ポニーキャニオン
直木賞作家・ねじめ正一の長編小説が、豊川悦司の主演でドラマ化される。
戦前、戦中を生き抜いたある詩人が、50代で陥った親友の妻との「禁断の愛」。
許されざる関係が深まるほど、詩人としての言葉は研ぎ澄まされていく。
その特異な生き様を、豊川はどのように演じ切ったのだろうか。
――今回はねじめ正一さんの小説が原作ですが、どのような経緯で今回の役を演じることになったんでしょうか?
「お話をいただいたのはすごく前で、4~5年前にはこの原作をやりたいと渡邊孝好監督から聞いていたんです。渡邊監督がずっと昔から温められていた企画なので。なので、シナリオができる前からやるとお返事していました。今回、WOWOWのドラマという形に落ち着きましたが、監督は当初、映画を想定していたんです。ですが、どのような形になっても演じさせていただくつもりでした。鈴木京香さんも、同じように渡邊監督から聞いていたようで、パーティなどでお会いする機会があったときに、話題にのぼることもありましたね」
――渡邊監督は、豊川さんのデビュー作の監督だったそうですね。監督作への出演は約22年ぶりとのことですが、ひさびさの監督の現場で何か印象に残ったことはありますか?
「現場はシリアスなシーンでも楽しい現場でしたよ。監督がそういう雰囲気づくりをしていたというのもあると思います。何かの映画のシーンに例えて段取りするような。(娘を演じた)京香さんにも『このシーンはこの映画の誰々みたいな感じで!』とか、『今日の京香さんはジャンヌ・モローだね』とか、『今日はベアトリス・ダルなんだよ』とか撮影ごとに言っているのが面白かったですね。それで現場もすごく和むんです」
――監督の中ではかなりいろんな作品を彷彿とさせるイメージがあったんですね。
「でも、考えてみると今回の話って全5話の中にそれだけのイメージが入っているってことなんですよね。普通の映画ならひとつのエピソードを抽出して作品にするんだけども、この物語には『老いらくの恋』から『駆け落ち話』、『家庭崩壊のようなホームドラマ』、『芸術家たちの物語』といろいろと詰まっている。監督も長い映画のつもりで撮っていると話をしていました。一人の男の半生を通じて、時代を描いていくという形としては、ほんの少し大河のような雰囲気がありましたね。現場の手ごたえでは、すごく面白いものになるんじゃないかと思っています」
――今回演じられたのは北沢太郎という詩人でしたが、演じられてみて北沢はどんな男でしたか?
「僕が演じた北沢太郎は、若いときに追いかけていたものを生活のために封印したところがあるんですね。でも、ほかの仲間はそれを続けていた。そういうコンプレックスのような部分が北沢の中にはあって、それが明子との出会いによってどうしても抑え切れなくなっていく。出会いによって変わっていくさまは、人間ドラマだな、と思います。あと、今の時代の同じくらいの世代に比べて、強さのようなものを感じますね。意思が強い。戦争というキーワードが大きく出てくることは無いですが、背負っているものが違うんだと思います。彼らは実際に兵隊として行っていた過去をもっているわけですから。植えつけられたものなのかも知れないですが」
――そういう中で、北沢はどんどん詩の才能を開花させていきます。
「これまで詩というものを熱中して読んだりしたことは無かったんですが、今回の役を通してすごく面白いと思いました。このひと言で思いもよらない表現ができてしまう。そして、その言葉が前の言葉と数行あとの言葉とつながっている。詩って、そのときの気持ちを流れで書き留めているわけじゃないんですよ。原稿には赤がいっぱい入っていて、何度も何度も咀嚼して出来上がるんです。漢字ひとつに汗のあとが滲んでいるんですね。とはいえ、彼らがやっていることはちょっと現代では考えられないんですけど。今だったら、確実に炎上して祭り上げられちゃうでしょうね。今は、こういう人たちが出にくい時代になっているんだと思います」
――ちょっと現代では考えられないような濃密な関係が、見どころのように感じます。
「彼らは許容範囲が大きいんですよ。自分の妻と親友ができてしまったとしても、それはそれとして、そのことを責めずに今後どう付き合っていくかを考えるような。なんかもうグチャグチャなんですよ。4種混ざっているピザのような感じ。ちょっと僕らの感覚じゃついていけないような部分も、彼らは乗り切っている。そこに、昭和の男たちの妙な強さというか、開き直り感があって、すごくドラマチックになっていますね」
――主人公の北沢だけでなく、そのほかのキャラクターもそれぞれに見ごたえがありますよね。
「北沢はどう生活していくべきか、どう生きるべきかを考えている。かたや、親友はどう死ぬべきかを考えているんですね。それって、同じことを考えているようでぜんぜん違う。そういうところは、人間っていろんな顔があって面白いなと思います。なので、今回の作品は群像劇としても楽しんでほしいですね」
撮影:中川有紀子
ヘアメイク:山﨑聡
取材・文:宮﨑新之
WOWOWプライム 第一話無料放送
©WOWOW
まだ戦後の空気が色濃く残る1947年。詩誌「荒地」を創刊するために、戦後日本の現代詩運動の中核となる面々が集まっていた。それから28年。その創刊に携わった北沢太郎は、新聞社の校閲部に勤務しながら細々と詩作を続け、妻子と穏やかな家庭を築いて平凡な幸せをかみ締めていた。だが、同じく創刊メンバーで親友の三田村貴一の妻・明子と関係を深めるようになる。そして仕事を捨て、家族を残して明子と暮らすようになり…。
©フジテレビジョン
©2007「犯人に告ぐ」製作委員会
©1994 フジテレビ/ポニーキャニオン