渡辺美里 J:COMスペシャルフォト・インタビュー

2015年にデビュー30周年を迎えた渡辺美里が、21年ぶりとなる横浜アリーナで開催したメモリアルなコンサート「渡辺美里30th アニバーサリー オーディナリー・ライフ祭り」。「My Revolution」など、その歩みを辿るような名曲と、30周年を超えたその先を予感させるような最新曲がちりばめられ、まさにフェスティバルのようなステージとなった。ボーカリストとしての大きな節目を、彼女はどのように感じたのか。その胸中を今、振り返る。

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来てくれた人のストーリーを私の音楽に重ね合わせてくれていることを感じました

――2016年1月9日に開催された「~オーディナリー・ライフ祭り」ですが、2015年のアニバーサリーイヤーを飾る全国ツアーを終え、年をまたいで行われた大きな節目となるコンサートだったかと思います。そのステージに向かう思いはどのようなものでしたか?

「2015年がジャスト30周年ということで、ツアーで47都道府県をすべて回ったんですが、横浜アリーナを30周年の締めくくりとして、そして、2016年の新たなスタートとしてのステージにすることができました。横浜アリーナはできたばかりの頃からやらせてもらっていたんですが、気づいたらもう21年ぶり!横浜アリーナが改修に入る前の締めくくりでもあったということで、その節目に、いいタイミングでやらせていただきました。これまで全国に届けてきた歌の種が大きな場所に集まって……花が咲く、というよりも芽吹きはじめたというような思いでしたね。10年前、野球選手が勝った時にだけ上がれるビクトリーロードを上り、新たなドアを開くような演出で20年続いたスタジアムでのライブを終えたんですね。そして、美里祭りが始まって10年。だから『10years』からライブが始まるんです」

――「10years」は歌詞が ♪あれから10年も これから10年も と、まさにぴったりですね。

「そうですね。自分でもよく、うまいことそんな曲を作ってたな、と(笑)。スタジアムから10年、美里祭りも10年、デビューが30年。そういう時間の中で、聞いてくださっている皆さんも、学生から社会人になったり、親になったり……。そういうヒストリーを1曲目から感じていただけたんじゃないかと思います。ギターで参加してくれた佐橋(佳幸)さんからは『オープニングから、アンコールみたいだね』なんてMCで言われましたけど(笑)。でも思い出だけを歌っている訳ではないんですよ。私はやっぱり、未来に向かって表現していきたい。そういう新旧を織り交ぜた、大きなストーリー全体を感じてもらえたらと思います」

――今回のステージには、ゴスペラーズやCARAVAN、WEAVERなどゲストアーティストも豪華でした。

「私は、コンサートに来てくれた人はもちろん、出演してくれた人にもハッピーだったと思ってもらいたいんですね。だから、今回ゲストで出てくれた人も最高の演出で出てもらいたい。ゴスペラーズのみんなだったら、一言もしゃべらずにパッと登場して、素晴らしいコーラスをして、サッと帰っていく、みたいなカッコよさ。CARAVANさんも、WEAVERくんも、出演してくれたそれぞれの人が一番カッコよく映っていて、演出も含めて大成功だったと思います。大江千里さん曰く、私は"女将気質"なんだそうですよ。『楽しまれてます?』みたいな感じで(笑)。そういう気づかいをすることも含めて、自分も楽しむことができた『オーディナリー・ライフ祭り』だったので、女将としての役割をちゃんと果たせました。本当はアルバムに参加してくれたみんなに出てもらいたかったんですけど、そうなるとフェスになっちゃいますからね」

――コンサートのオンエア映像は、現場に行けなかった人はもちろん、行った人も新たな視点で楽しめますよね。

「私にとって、映像になったコンサートは本当にご褒美!だって、どんなに楽しいライブでも私はステージにいて、客席側から観れないから。30年やっていて、そこが最もツライところかも(笑)。贅沢な悩みなんですけどね。来てくれた人がそれぞれ、ご自身のストーリーを持ち込んで、私の音楽と重ね合わせて感じてくれている。理屈じゃなく、人が集うということ、音が生まれていくことの喜びが、コンサートにはあると思います」

ボーカリストとして、もっと、歌が上手くなりたい

――ツアータイトルにもなっている19枚目のアルバム「オーディナリー・ライフ」には、どのような意味が込められているのでしょうか。

「幸運なことに私はデビューの翌年からスタジアムのような大きなところでやらせてもらっていたので、スポットライトを浴びる派手な仕事ではあったと思います。でもその一方で日常は至って地味(笑)。いい楽曲が無いと、いいコンサートにならないですから。見せない部分でいろいろと準備をして、1日限りの最高の本番を迎えていく。そんな30年でした。あと先日、熊本で大きな地震がありましたが、東日本や阪神淡路の震災の時、あのようなことはもう起こって欲しくないと思いました。自分のアーティスト活動に限らず、そういういろんな日々のことを感じていく中で、お腹を抱えて普通に笑えることがどんなに奇跡のような瞬間なのかを感じたんです。もちろん、シリアスなことばかりではないですけど、そういう日々の積み重ねが、私の歌の基になっている。そんな思いから『オーディナリー・ライフ』というタイトルになりました」

――表題曲の「オーディナリー・ライフ」の中にダリアの花が出てきますが、小さな花びらが折り重なって大きな花になっているダリアが、美里さんが30年間で積み重ねてきた1曲1曲が花びらのように重なって花開いたような気がして、とても素敵だなと思いました。

「一昨年の誕生日にファンクラブの皆さんとのイベントの時にスタッフの方がダリアの花を用意してくださったんです。ダリアは私の誕生花なんですが、私に何も言わずに、そうやって用意してくれたことが心に残っていて。ダリアの花が自分の誕生花ではあるということはうっすらと思っていましたが、そんな風には思っていなかったから、密集した花びらのイメージをそう捉えてくださったのは嬉しいですね。聴く方によって、花の色を思い浮かべたり、香りを感じたり、風に揺れる情景だったりいろいろな感じ方があると思います。決められた形としてでなく、そういう言葉の広がりをもって聴いてもらえたら嬉しいです」

――31年目の新たなステージとなる2016年に入られてからは、オーケストラと共演するコンサートが続いていますね。

「何年か前からお話しをいただいていたんですが、30周年のこともあってなかなかできず、今年になったんですね。そしたら、巡り巡って今年はそういう機会がたくさんあって、オーケストラ祭りになりました(笑)。オーケストラはロックのコンサートとは違う表現ができるので、やみつきになるんですよ。今まで何度も歌ってきた楽曲が、オーケストラになると、映画のように、絵巻物のように感じられるんです。時には、墨を落とした水墨画のように聴こえたりとか。音で五感を刺激して、今、花びらがフワッと落ちたなとか、風がスーッと流れたなとかが感じられる。そこがオーケストラの醍醐味だと思っています」

――今後、渡辺美里はどんなところを目指していくのでしょうか。

「『My Revolution』の中で『自分の生き方 誰にも決められない』なんて歌っていましたが、やっと自分らしいペースで自分らしく、という心地になってきたんですね。30年目にして何を言ってるんだって感じですけど(笑)。このペースで今後もやっていきたいと思います。あと、偶然声をかけてもらって実現したミュージカルもとてもいい経験だったので、また自分に合う役柄があれば挑戦したい。あとは、そうですね…もっと、歌が上手くなりたい。声が良く出る!とかじゃなくて、お酒やお茶なんかを飲んだ時に思わず『いいよねぇ』って言葉が零れ出てしまうような感じの歌。そんな歌をこれからもっと歌っていきたいと思います」

撮影:渡部孝弘
取材・文:宮崎新之

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