過去2度オリンピックに出場した吉田愛、インカレの不完全燃焼からオリンピックを目指し始めた吉岡美帆が、セーリング470級日本代表としてリオ(リオデジャネイロ)オリンピックに出場する。セーリングの基本から、ペアを組んで3年でオリンピックに臨むまでの歩み、五輪にかける思いに加え、素顔が垣間見えるエピソードまでを2人が語る。リオオリンピックに向けて、期待が高まる!

吉岡は磨けば光るんじゃないかなって思いました(笑) (吉田) 愛さんに誘ってもらった時はうれしかったです。すごく憧れの先輩でしたから (吉岡)

――まずは、おふたりのセーリングとの出会いを教えてください。

吉田

「小学校1年生の時に、両親に連れられて子ども用のヨット、オプティミスト級の1日体験に行ったのが出会いです。それからずっと続けています。オプティミスト級の大会もあるので、大会には小学校2年生から出ていましたね」

吉岡

「私は高校生になって始めました。それまではバレーボールをしていて、高校から何か新しいことにチャレンジしたいと思って、たまたま高校にヨット部があったので入部しました(笑)」

――新しいことの中でもなぜヨット部を選んだんですか?

吉岡

「もともと、海が好きでしたし、変わったスポーツをやってみたいというのもあってヨット部を選びました」

――セーリングのどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

吉田

「自然を相手にするスポーツで、エンジンを使わないヨットで海を自由自在に走れるのが魅力ですね。競技となると、風を読んだり波を読んだりと考えるスポーツです。自然相手なので同じ状況というのがまったくなくて、昨日が良かったからといって、次の日がまた上手くいくとは限らないですし、本当に難しいですね。自分のコンディションをきっちり整えるのも考えないといけないですし、道具も使うので道具のことも考えないといけないので、すごく考えるスポーツです。ただ、読みや考えが正確だった時や先頭を走れた時は、最高にうれしくて、それで今まで続けてきました」

吉岡

「私は初めてヨットに乗った時に、すごく風が気持ちいいなと感じました。エンジンとか何も付いてない船を、人の力だけで帆を操って走らせるのがすごく楽しいなと思いました」

――セーリングの中でおふたりがしている470(ヨンナナマル)級はどんな種目ですか?

吉田

「私はオプティミスト級から始まって小さい時から1人乗りのヨットを乗ってきて、大学時代から2人乗りに乗るようになりました。それまで自分で全部やってきたのが、470級になって船も大きくなって、役割が2人に分かれて自分でやれないことを補ってもらったり、2人が意思疎通をしっかりしないと上手く走らないとか、難しくなります。そこがコンビネーションで上手くいった時には、2人でやれた、2人で走らせている感覚が得られるのが470級です」

吉岡

「2人で1つの船を操っているので、私も2人で助け合いながら走らせるのが470級の魅力だと思います」

――2人であることが魅力の470級で、おふたりは’13年にペアを組みますが、どういう経緯だったんでしょうか?

吉田

「試乗会です」

――セーリングの試乗会があるんですか?

吉岡

「はい。私は大学でヨットを終えようと思っていたんですけど、いま私たちのコーチをしてくださっている中村(健次)さんに、『女子だけが集まる試乗会があるから来てみない』って声をかけられて、参加してみたら、そこに愛さんが参加していました。その後に、中村コーチの紹介で連絡を取り合うようになりました」

――すでに2度五輪に出場している吉田選手から見て、吉岡選手に光るものを感じたのですか?

吉田

「その時は、身長が高いなというのと、ヨットが好きなんだろうなというのは感じましたが、その程度でしたね(笑)。その後、連絡を取り合うようになってから、せっかくだから江の島で一緒に乗ってみようということになって、江の島に来てもらいました。その時、いっぱい話したいと思って、私の家に泊まってもらって、いろんなことを話していくうちに、オリンピックに対する思いが強い子なんだなって感じたんです。その強い気持ちがあれば、私の求めるトレーニングにもついてきてくれるんじゃないかなって思って、私はすごく負けず嫌いなので、厳しくやると伝えたうえで誘ったら、『それでもやりたいです』って言ってくれました。その時に、この子は磨けば光るんじゃないかなって思いました(笑)」

――吉岡選手は大学でヨットを終えようと思っていたということですが……。

吉岡

「そうですね。インカレが終わったらヨットを終えようと思っていたんですけど、自分が納得できるような活動で終われなかったので、もっと上を目指したい、オリンピックを目指したいと思うようになりました。愛さんに誘ってもらった時はうれしかったです。すごく憧れの先輩でしたから」

――吉田選手は、吉岡選手の印象で身長の話をされましたが、セーリングに身長は大事ですか?

吉田

「私がやっているスキッパーは、座って帆を操っているので、筋力や持久力が必要で、身長はあまり関係ないですね。吉岡がやっているクルーは、体を使って船のバランスを取ったりするので、身長がそのまま効いてくるんです。日本人の女の子で、身長が170㎝以上ある子は少ないですし、背が高くてもほかの競技を選ぶんですけど、吉岡は177cmでセーリングを選んでくれた貴重な存在です。世界で戦うには、177cmっていうのは、大きな武器になります」

――今、お話に出たスキッパー、クルーの役割の違いを教えてください。

吉田

「私はスキッパーで、簡単に言うと後ろに乗っていて、舵を取っています。あと、一番大きい帆、メインセールを操っていますね」

吉岡

「クルーは前に乗っていて、前についている小さい帆、ジブセールと、スピンネーカーという3枚目の帆を操っています。あとは、風に合わせて船のバランスを取ったり、海や他の船など、周りの状況を見てスキッパーに伝えます。最終的な決定はスキッパーがしますが、いかに的確で、いい情報を伝えられるかも大事です」

吉田

「クルーからの情報と、自分が見た情報を合わせて、話し合いながら走らせています」

――コミュニケーションが大切なんですね。おふたりはペアを組んで3年ですが、どのようにコミュニケーションを取ってきたのですか?

吉田

「セーリング競技は1つのレースが長くて、1週間ぐらいあるんです。大会に臨む前には、2週間前ぐらいから現地に行って、船を受け取って、準備して、練習してと1つの遠征で1カ月近くかかります。家族以上に一緒にいる関係になるんです。ペアを組むことになって、お互いの性格も何もかも知らない状況から始まりましたが、一緒にいる時間が長くなればなるほど、理解し合って、コミュニケーションのとり方もわかってきたから、3年でここまでやってこれたんだと思います」

――今はお互いをどのように思っているのですか?

吉田

「今までの感じでわかるかもしれませんが、すごくおとなしいです。表情にも出さないので、何を考えているのかわからない時もあります(笑)。でも、そこはいいところでもあるんです。こういうインタビューで話すときでも、緊張するような舞台に行っても、表情に出ないですし、何も変わらずにいつも通り。そういう吉岡を見ていると、自分が緊張していても、なんか大丈夫かもって思えます(笑)」

吉岡

「でも、内心は緊張しています。愛さんは、とてもストイックで妥協は許さない方です。背中で見せてくれるような先輩です」

――おふたりにとってオリンピックとはどんな存在ですか?

吉田

「4年に1度、日本中から注目される大会で、やっぱり日本代表として出場している責任感を感じます。オリンピックで勝つためにやってきたので、そこで自分たちの力を出したいという思いでずっと練習してきています」

吉岡

「セーリングを始めた頃は、オリンピックに出るとは思わなかったです。日本代表として出場することになって、愛さんからもいろいろ聞いていて、他の大会とは違う特別な大会です」

――吉田選手は2度オリンピックに出場しています、それはどんな経験で、どう吉岡選手に伝えたのでしょうか?

吉田

「オリンピックでの記憶は、失敗ばかりしかないですね。だいたい初日に失敗してしまって、そこからどうにか追いかけても(北京オリンピック、ロンドンオリンピックともに)14位という成績で終ってしまいました。振り返ると、道具やレースに対する取り組みだったり、足りないものがあったという思いです。その失敗があったから、吉岡とペアを組んでからの3年間の取り組みがあるんだと思います。吉岡には、自分のクルーという仕事を的確にやってほしいです。欲が出て、あれもこれもとなると中途半端になってしまうので、まずは自分の仕事、やるべきことをやってリオオリンピックに向かっていってほしいですね」

――吉田選手のアドバイスを聞いていかかですか?

吉岡

「まだクルーとしてできていない動作とか、ミスとかも諸々あるので、リオオリンピックまでに課題を克服して、やってきたことを精一杯やって戦いたいです」

――現在の470級における世界の状況はどんなものなのでしょうか?

吉田

「北京オリンピック、ロンドンオリンピックを経験してきて、女子のレベルもすごく上がってきていると感じます。しかも、ロンドンオリンピックでメダルを取った選手とか、トップ選手の多くがそのままリオオリンピックを目指しているのもあって、どんどん上がっていますね。女子でいうと、男子と同じくらいまでレベルが高くなっている中で、私たちはペアを組み直して、3年で追いつこうとやってきたので、確実にメダルを取れるという実力があるわけではないです。平均するとだいたい5番くらい(世界ランキング5位/6月13日現在)にいる状況なので、残された時間で課題に取り組んで、コンディションもしっかり整えて、リオオリンピックに行きたいですね」

吉岡

「やっぱりレベルは高いと感じます。ちょっとしたミスでも追いつかれたり、抜かれたりしてしまうので、ちゃんと自分たちの実力が出せないと上にはいけないです。ただ、世界との差は、大きいというより、ちょっとの差だと思います」

――リオオリンピックでの戦いの舞台になるグアナバラ湾は、どんな印象、特徴がある海ですか?

吉田

「一時期話題になっていたように、去年行った時は海の汚さが目につきましたね。ただ、社会問題にもなったことで、ブラジルも取り組んで、先月行った時はすごくきれいになっていました。ゴミも引っかからないようになっていたので、セーリング競技をやるのに問題はないと思います。特徴としては、基本的に風が弱いです。海面は湾に囲まれた静かな内海と、湾の外のうねりのあるコンディションなど、さまざまな海面があるので、オールラウンドに戦えるようにしていかないといけないですね」

吉岡

「やることはあまり変わらないです。風の強弱とかについて、コミュニケーションをたくさんとって、コースを考える上でミスをしないようにしたいです」

――オリンピックという舞台は、やはりプレッシャーがかかってしまいますか?

吉田

「最初の頃は、勝たなくてはとかプレッシャーを感じていたんですが、そうなるとなかなか上手くいかないと思うので、吉岡とペアを組むようになってからは、現実を見るようにして、今の実力や課題に対して、一歩一歩積み重ねるようにしています。その延長線でいければ、プレッシャーを感じずにできるのかなって思っています」

吉岡

「私は、今はそんなに感じていないです。愛さんと同じように、今ある自分たちの課題をどう克服するかとか、上に行くにはどうしたらいいかを考えています」

――おふたりがセーリングをする上で、どんなことがモチベーションになっていますか?

吉田

「私は、すごく負けず嫌い。自分がやれる限りは選手を続けたいですし、世界を目指しているので、オリンピックでもメダルを取りたいですね。それに、やっぱりセーリングが大好きなんです。乗っていることが大好きなんで、負けて悔しくても辞めたいというより、次はどうしようと考えている自分がいる感じです」

吉岡

「私は勝ちたい気持ちが一番ですけど、家族や応援してくれる人に毎回結果を報告していて、その時にすごくうれしそうに応えてくれるのが、私もうれしくて、それも原動力になっている感じです」

――競技を続けるうえで、リラックスする時間も大事だと思いますが、おふたりはどうしているんですか?

吉田

「今は旦那さん(吉田雄悟/ロンドンオリンピック男子470級日本代表)が海外に住んでいて、電話でしかやりとりできないので、空いている時間には電話でたわいのない話をしてリラックスしています。旦那さんもヨット乗りで、(伝統あるヨットレース)アメリカズカップ出場を目指すソフトバンク・チーム・ジャパンのクルーとして、チームのベースがあるバミューダに住んでいるんです。この間、会った時は4カ月ぶりでした(笑)」

吉岡

「私は犬が大好きなので、犬に会いに実家に帰ります。シーズーとか、チワワとか8匹いて、そのワンちゃんたちと遊ぶのがリラックスです」

――リオオリンピックでセーリングを初めて観戦する人に、おふたりからアドバイスをいただけますか?

吉田

「まずはスタートのところですね。ブイとブイを結んだ想定線をスタートラインにして、決められた時間に一斉にスタートしていくんですけど、そこでのせめぎあいが大きなポイントで、しっかり前に出られれば、(コースを示す)マークも速く回りやすくなりますし、前に出ていれば相手を抑えることも、風を先に先に捉えることもできますからね」

吉岡

「次はマーク付近だと思います。速く回ろうと、マークにめがけて船が行くので、動きがあります。(マークを回ると風上、風下が変わるので)帆を張ったり、逆に下ろしたり、乗っている方もいろいろ動いていますから」

――最後にリオオリンピックに向けての意気込みをお願いします。

吉田

「私たちの実力がリオの場で発揮できれば、メダルに手が届くと思うので、精一杯頑張ります」

吉岡

「今までやってきたことを全て出し切れるように、メダル獲得を目指して頑張りたいと思います」

Photo=中越春樹
Interview=山木敦

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リオデジャネイロオリンピック2016<J:COMテレビ>

8月6日(土)~8月22日(月)
合計85時間放送!
※録画放送含む。※放送内容は予告なく変更となる場合があります。

「セーリング」競技概要

風や潮流を読んで戦略を練る
判断力と体力が勝負のカギ

セール(帆)が受ける風の力を利用して小型の船で水上を滑走する速さと技術を競う。
レース海面に設置されたブイ(マーク)を、決められた順序で回り、フィニッシュした着順で順位が決まる。
緊迫感あふれる競り合いは必見!

J:COMテレビ「セーリング」放送日時

※すべて録画放送

男子・女子RS:X級/男子レーザー級/女子レーザーラジアル級/ナクラ17級/男子・女子470級 8/13(土) 17:00~18:45
男子・女子470級/男子フィン級/男子49er級/女子49er FX級/男子・女子RS:X級 8/14(日) 17:00~18:45
男子レーザー級/女子レーザーラジアル級/男子49er級/女子49er FX級/男子・女子RS:X級 決勝 8/20(土) 17:00~18:45
男子レーザー級 決勝/女子レーザーラジアル級 決勝/男子・女子470級 決勝 8/20(土) 20:30~22:15
男子49er級 決勝/女子49er FX級 決勝 8/21(日) 17:00~18:00

※7/4時点の情報。 ※競技日程は日本時間(予備日は記載しておりません)。
※日時・内容は変更の場合があります。EPGまたはホームページでご確認ください。

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