文=TBSテレビ『バース・デイ』プロデューサー菊野浩樹
2014/11/13掲載
苦境のときこそ垣間見える、真のリーダーの資質とは
(C)読売新聞/アフロ
守備妨害―――。プロ野球史上に残る、前代未聞の幕切れとなった2014年の日本シリーズ。
ソフトバンクホークスが、秋山監督の有終の美を飾る見事な日本一を成し遂げた。
一方で、阪神タイガースに7ゲーム差をつけてペナントレースを制した原・巨人と秋山・ホークスの戦いも見てみたかったというのは、やはり禁句なのだろうか・・・。
クライマックス・シリーズよもやの4連敗で、今年の原・巨人のセ・リーグ優勝の記憶が忘れ去られてしまったかのようであるが、原監督の手腕への評価は決して下がるものではないと私は思っている。
今年のジャイアンツは、チーム打率2割5分7厘でリーグ5位。 規定打席に到達したバッターで打率3割を超えた選手はいない、投手陣も全幅の信頼のおける投手が菅野しかいない、という大変厳しい状況の中での戦いだった。
そんな苦しい戦いを象徴するかのごとく、原監督はリーグ優勝の祝勝会で選手達を前に壇上でこう言い放った。
「このチームでよくペナント勝ったね。俺はもう今年はどうなることかと思ったけど」
思わず出た原監督の本音なのかもしれない。
しかし、こうも考えるのである。
原監督はこの苦しい状況を楽しんでいたのではないか?
いや、この言い方は誤解を与えるかもしれない。
好んで苦しい状況を受け入れる者などいない。しかし、リーダーは、真のリーダーとしての資質を持つものは、どんな苦しい状況に陥っても、その状況を"楽しめる"器がないと、そもそもその資質がない。
そんなリーダーの資質を考えながら、今回のコラムのテーマとした言葉の意味を考えたい。
「どんな状況でも、勝ち方ってあるような気がする」
実はこれは、今年8月、巨人がペナントレースの厳しい戦いの中で苦しんでいたときに原辰徳監督が呟いた言葉だ。
この頃のジャイアンツは、阪神、広島との熾烈なペナントレース優勝争いの中で13勝13敗1分けと、なかなか波に乗れないでいた。
「野球って考えれば考えるほど面白いよ。どんな状況でも、勝ち方ってあるような気がする。だから(勝ち方が)あるなら、ギリギリまで探さないといけない」
原監督は毎日ギリギリまで、勝ち方を探していた。指揮官として決断の連続だった。
日替わり打線といわれた今年のジャイアンツは実に113通りの打線を組み、4番打者には計8人を起用した。
毎日メンバー表をうめるのにどれほど頭を悩ましたか、想像に難くない。
原監督の今年の戦いを見ていて、司馬遼太郎のこんな文章が思い浮かんだ。
「しかない、というものは世にない。人よりも一尺高くから物事をみれば、道はつねに幾通りもある。」(『竜馬がゆく』第八巻・坂本龍馬の言葉より)
コラム作者プロフィール
菊野浩樹
1968年 5月14日 生まれ
1992年 TBS 入社
「バース・デイ」(TBS系にて毎週土曜夕方5時~5時30分に放送中)企画・プロデューサー。
これまで「プロ野球戦力外通告」「石橋貴明のスポーツ伝説」「SASUKE」「モニタリング」「サワコの朝」などを担当。2012年には「劇場版 ライバル伝説~光と影」の総監督を務める。現在はTBSテレビ編成局編成部 長期戦略担当部長。
12月30日、夜10時~「プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男たち」
2015年1月3日、夜9時~「独占!長嶋茂雄の真実」
をTBS系列にて放送。
番組タイトルの『バース・デイ』とは、毎年、巡ってくる誕生日のことではありません。
夢を抱き、戦いに挑み、過酷な現実に直面した者たちに
訪れる、"人生に刻まれた、忘れられない大切な一日"その忘れられない一日を番組では『バース・デイ』と呼び、毎回、番組で取り上げる主人公が新しい自分に生まれ変わる瞬間を紹介していく番組です。
TBSテレビ『バース・デイ』
毎週土曜、夕方5時~TBSにて放送中!!
//www.tbs.co.jp/birth-day/