8・21広島×巨人応援企画

8月21日(金)にマツダスタジアムで行われる
広島東洋カープ対読売ジャイアンツの公式戦を、
J:COMで独占生中継!
放送を記念し、プロ野球に熱い思いを抱く
著名人のインタビューをお届けします。
野球中継の楽しみ方から、チームの注目ポイントまで、
プロ野球を愛する人々ならではの目線で迫る!

二宮清純(にのみやせいじゅん)/’60年、愛媛県出身。スポーツジャーナリスト、株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。スポーツ紙や流通紙の記者を経て、フリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。「プロ野球 名人たちの証言」「プロ野球の名脇役」「最強の広島カープ論」など著書多数。

――二宮さんが野球を好きになったきっかけは?

「私たちの世代は子どもの頃から草野球をやっていましたね。気がついたらバットとボールで遊んでいたわけですけど、9歳の頃に観た高校野球の試合は印象に残っています。あれは、1969年夏の甲子園で行われた『松山商×三沢』戦。延長18回まで戦っても勝負が付かず、引き分け再試合になったんです。松山商は私の地元である愛媛の代表校でしたから、食い入るように観ていたという記憶がありますね。おそらく愛媛の視聴率はすごかったと思いますよ。大通りなんて、犬と猫しか歩いてなかったんじゃないですかね(笑)。それぐらいみんなが応援していたと思います。松山商・井上明投手と三沢・太田幸司投手の投げ合いは本当にすごかった。二日にわたっての名勝負は強烈に覚えていますね」

――プロ野球を観始めた頃は巨人ファンだったとか?

「昔の民放は、巨人戦しか放送していませんでしたから。『巨人・大鵬・卵焼き』の時代ですよね。王貞治さん、長嶋茂雄さんが活躍していた“ON”の時代ということもあって、私の田舎では9割以上が巨人ファンだったと思いますよ。子どもたちはみんな『YG』マークの帽子をかぶっていた記憶があります。私が5歳だった1965年から『V9』が始まる強い時期でしたから、“巨人ファン以外はプロ野球ファンにあらず”のような感じでした」

――当時、好きだった選手は?

「やっぱり王さんと長嶋さん。特に長嶋さんはプレーに華がありましたよね。スローイングの時になぜか手をヒラヒラさせるんですけど、野球少年はみんなマネをしていました。当時は、あの“ヒラヒラ”の意味が分からなかったんですが、どうやら手のひらでボールの方向性を示していたらしいんですよ。だから、ボールを受けるファーストは守りやすいという話を聞いたことがあります。長嶋さんならではの高等技術だったんでしょうね。とにかく、一つひとつのプレーがかっこよかった」

――巨人の他に、ひいきのプロ野球チームはあったんですか?

「中学に入ってからラジオを聴くようになったんです。私たちが中学生の頃は、大体深夜のラジオにハマっていましたからね。愛媛にいると、広島の中国放送がよく聴こえるんですよ。そうすると、野球中継以外でも広島東洋カープ一色ですから。自然と、カープに興味を抱くようになるんです。小学生の頃は巨人戦しか観られないから巨人ファン。そして、ラジオを聴きだしたらカープの情報ばかり入ってくるからカープファン。中国放送はカープのことしかしゃべらないんですから。電波の力は大きいですよね(笑)」

――当時のカープの印象は?

「私がファンになった頃は、3年連続最下位という低迷期だったんですが、山本浩二さん、衣笠祥雄さん、三村敏之さんら若手選手が育ってきた時期でもあった。1974年に中日が優勝したことで巨人は“V9”で終わり、セリーグ6球団の力の差がなくなってきたんですよね。とは言ってもカープは最下位が続いていたわけですから、優勝なんて夢のまた夢。そんな中、ジョー・ルーツが1975年に球団初の外国人監督としてチームの指揮を執ることになるんです。この年は、ゲイル・ホプキンス、シェーン(リッチー・シェインブラム)の両外国人選手が活躍して、東映フライヤーズからトレードで入ってきたセカンドの大下(剛史)さん、阪急から移籍してきた投手・宮本(幸信)さんらの加入が大きな刺激となり、念願の初優勝。チーム生え抜きの選手たちと、助っ人外国人選手や移籍組の力が上手く絡み合った結果でしょうね。」

――チームカラーが「赤」に変わったのは1975年からですよね。

「監督に就任したルーツが『闘争心の色』ということで赤を取り入れたんです。でも、変えたのは帽子とヘルメットだけ。アンダーシャツは、まだ紺のままでしたね。その年のオールスター第一戦で、山本さんと衣笠さんがホームランを2本ずつ打ったんですけど、それからですよね『赤ヘル』と言われだしたのは。あのインパクトは大きかったと思います。それまで、日本のプロ野球には赤いヘルメットのチームなんてありませんでしたからね。アメリカのシンシナティ・レッズは赤がチームカラーですが、日本では画期的なこと。後に衣笠さんに聞いたら『変わった当初はチンドン屋さんみたいで恥ずかしかった』って(笑)。広島東洋カープという球団の歴史を振り返ってみると、あの年からガラっと変わったような印象がありますね」

――でも、ルーツ監督は開幕から一ヵ月足らずで辞任しましたね。

「4月のある試合でストライク、ボールの判定をめぐって審判ともめたんですよね。その時、仲裁に入った球団代表の重松(良典)さんが試合続行を支持したんです。現場に口を出してほしくなかったルーツはフロントと衝突して結果的に辞任。数試合だけ、コーチの野崎(泰一)さんが代行監督として采配を振るい、その後は同じくコーチだった古葉(竹識)さんが監督に就任しました。古葉さんは南海時代に野村(克也)さんと一緒にプレーしていましたからね。その時に、細かい野球を勉強していたので監督交代劇は結果的に良かったのかもしれません。日本シリーズで阪急相手に1勝もできなかったのは残念でしたけど……」

――その後、3位、5位、3位ときて1979年、1980年に連続優勝を果たします。

「1979年と1980年の優勝は、江夏(豊)さんの力が大きかったですね。カープの泣きどころだった抑えピッチャーが磐石になりましたから。山本、衣笠といった中心メンバーも円熟期を迎えていましたし、外国人選手もライトル、ギャレットという好打者が活躍しましたからね。カープが強い時は、助っ人の当たり年なんです。あの2年は本当に強いチームだったと思います」

――二宮さんの中で思い出に残っている「広島×巨人」戦は?

「江夏さんが広島に移籍してきた年だったと思うんですけど、早いイニングから登板して、結構長いイニングを投げた記憶がある。かなりのロングリリーフです。その時に、全盛期を彷彿させるように次々と打者から三振を奪ったんですよ。当時、テレビで観戦していたんですけど、すごいものを観たなという印象。当時の江夏さんは、南海時代に肘を痛めたりして、どこまで本来のピッチングができるのかファンも半信半疑だったんですよね。だから、あの復活劇はうれしかったですね」

――実は、今回中継する「広島×巨人」の解説は広島OBの江夏豊さんと巨人OBの元木大介さんなんです。

「あ、そうなんですか。江夏さんは、先発でも抑えでも成功した大投手。先発時代は、球が速くてコントロールも抜群。頭も良かったですから完成されたピッチャーでしたよね。過去にも、名投手と呼ばれる選手はたくさんいますが、私が実際に見たピッチャーの中では、やっぱり江夏さんがナンバーワンです。『江夏の21球』をはじめ、ドラマを作ってくれる選手という意味でもすごい。シーズン奪三振記録を巨人戦で達成しているんですが、その時に『どうやって三振を取らないように投げるか』ということを考えていたらしいんですよ。なぜかと言うと、その記録の三振は王さんから奪いたかったんです。だから、それまでに記録を達成したくないと。一番難しかったのは巨人の先発投手だった高橋(一三)さんをどう打ち取るかということ。三振させるわけにはいかないから、高橋さんがバットにボールを当てやすいところに投げたらしいんですよ。結果は内野ゴロ。世界中にはいろいろなタイプのピッチャーがいると思いますが、どうやったらバットにボールを当ててもらえるかということを考えながら投げた人は江夏さんだけだと思いますよ(笑)。それだけ、江夏さんにとって、王貞治というバッターはライバル的存在だったんでしょうね。以前、王さんにお話を伺ったことがあるんですけど『これまで対戦した中で最高のピッチャーは江夏だった』と仰っていました。阪神の村山(実)さんは、長嶋さんをライバルだと思って戦っていましたからね。江夏さんは村山さんから『お前は王をライバルにしろ』と言われたらしいですよ。二人の対決は見ごたえがありましたよね。 元木さんもいい選手でしたよね。彼に話を聞いたことがあるんですが、甲子園で隠し球をした時に苦情が殺到したらしいんですよ。『なんて卑怯なことをするんだ』って(笑)。まぁ、あれもプレーの一つと言いますか芸のうちなんですけどね。現役時代は長嶋監督が“クセ者”と呼んでいたぐらいですから、何をするのか分からない不気味さがあったし、野球をよく知っている選手だったと思います。高校時代は4番を打っていたけど、プロではそんなにホームランを量産できないと思った時に、自分の生きる道は何かということを考えたんでしょうね。もともとバットコントロールが上手いバッターですから、対戦するチームにとってはいやらしい存在。内野はどこでも守れたから重宝がられたんじゃないでしょうかね」

――今回の「広島×巨人」戦は、CMが全く入らない完全中継が見どころの一つなんですけど、二宮さんの注目ポイントは?

「マツダスタジアムの試合なので、ぜひ天然芝のグラウンドに注目してほしいですね。屋外の球場ということで、前日や当日の天候に影響されますから。芝や土の状態などが分かるような中継をしてくれると、すごく参考になるんじゃないかなと思いますし、元木さんは内野手出身なのでグラウンド状態を絡めた解説をしてくれると面白いでしょうね。人工芝と違って打球が不規則な動きをすることも多いでしょうから、選手たちの守備も見どころの一つ。特に広島のセカンド・菊池涼介選手は、本当に上手いプレーヤー。身体能力や技術もズバ抜けていますけど、読みも良い。バッティングの時だけではなく守りにも“読み”が必要なので、その能力に長けている彼はプロ野球史上最高のセカンドになれるんじゃないかなと思っています。菊池選手のプレーを追うだけでも観る価値はありますよ」

――今年の広島と巨人の印象は?

「広島は1点差勝負に弱い傾向がありますよね。もったいない試合が多い。ただ、もともと前田(健太)投手、ジョンソン投手、福井(優也)投手、黒田(博樹)投手ら先発陣はセリーグナンバーワンですから、ここにきて中継ぎと抑えもしっかりしてきたので、大崩れすることはないかなと。あとは接戦をものにできるかどうか。一方の巨人は1点差試合に強い印象。試合運びの上手さは目立ちますよね。でも、かつての爆発力は少し影を潜めているかな。原(辰徳)監督も我慢しながらやっているんでしょうね。広島と違って、優勝経験がある選手が多いという点も大きなアドバンテージ。広島の投手力と老獪な野球をしてくる巨人の戦い方に注目したいですね。いずれにせよ、今年のセリーグは混戦。今の状態は9月に入っても続いて、最後までもつれるんじゃないかな」

――番組内で、最初にヒットを打つのは誰かを当てるクイズ企画があるんですけど、ズバリ二宮さんの予想は?

「やっぱり、1番と2番の打者が有利でしょうから、菊池選手か丸(佳浩)選手あたりにチャンスがあるんじゃないでしょうか。当日の打順次第ですけどね」

――ちなみに、対する巨人の中で注目する選手は?

「坂本(勇人)選手は要注意でしょうね。大事な場面で打っている印象が強いです。まぁ、巨人の場合は坂本選手に限らず勝負どころを知っているプレーヤーが多いですよね」

撮影:松本健太郎
取材・文:小池貴之

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