ライブこそが自分の生きる場所--凜とした眼差しにそんな矜恃が映る。チェッカーズ時代は社会的現象にまでなった人気で歌番組全盛時代を駆け抜け、ソロアーティストとしてはJ‐POPシーンのオリジネイターとして多大な足跡を残してきた。10月のM‐ON!「オトナLIVE」では藤井フミヤの伝説的ライブをオンエア。"大人ロック"を掲げ、円熟した歌を聴かせる彼がライブにかける想いを語る。
――「オトナLIVE」に満を持しての登場となります。フミヤさんの最新アルバムのタイトルも『大人ロック』。“大人”というキーワードが響き合っていますね。アルバムタイトルに「大人」とつけた意味合いは?
「いまの音楽シーンってまるでまだ付き合ったことのない男女の恋愛みたいな歌が多すぎるじゃないですか。ただ“好き”だの“キライ”だの“会いたい”だのって。それだけじゃ歌えないことって世の中にはいっぱいあるんですよね。恋愛を歌うにしたって、幼少期に往年のムード歌謡なんかを聴いて育った僕にはどこか物足りなくて。だって、当時はアイドルだった(山口)百恵ちゃんがあんな大人びた歌を歌っていたんですよ。ああいう歌はどこへ行っちゃったんだろう、と思っていて。そういう世界観や匂いも含めて、大人にしか分からないロックをやろう、と」
――サウンド面でもフミヤさんはずっと“ポップ性のある音楽を目指している”とおっしゃってきました。
「ポップって大衆性があるということですからね。ロックでもゴリゴリのものじゃなくてポップなものが好きだし。たとえばT‐レックスみたいな。レッド・ツェッペリンでもメジャーになった曲は好きですけど。ティーンエイジャーだったころってハードロック全盛時代だったんですけど、僕はむしろ50'sやモータウンとかが好きだったんです。きっと中学生だった自分にはファッションが無理だったんでしょうね(笑)」
――ハードロックの長髪にベルボトム、ロンドンブーツみたいな。で、ロカビリーやドゥワップなどの影響のもとにチェッカーズを結成して。
「デビューしたらアイドルになっちゃいましたけどね(笑)。でも、自分なりのロックというものは持っていたと思うんです。当時はイギリスのロックを聴いていたんですけど、チェッカーズが解散したあたりから今度はアメリカのロックばかり聴くようになって」
――それは大きな変化ですね。
「一番の理由は夜の生活から昼の生活になったことだと思うんですけど。クラブ通いもしなくなったし。さんさんと降り注ぐ陽の光が似合うサウンド…太陽の下で聴けるアメリカのロックを聴くようになったんでしょうね。だから「TRUE LOVE」はカントリーロック寄りの曲。実際、アコギで作曲しましたし。それ以降、いろんな試行錯誤を重ねていまの“大人のロック”にたどり着いたんです」
――長いキャリアのなかで数多くのライブを重ねてきました。デビュー当時といまではライブに対する思いに変化は?
「若いころは“ノドが潰れたってパフォーマンスができればいいや”と思っていたんです。見せるライブということを意識していましたね。いまはむしろ“声さえ出ればいい”“歌をしっかり聴かせたい”という感覚。“たとえ脚が折れても歌えればいいや”と。最近はオーケストラとコラボすることも多くて、アコギ1本でもフルオーケストラでも歌えるシンガーという感じになりましたね」
――簡単にそうおっしゃいますが、難しいことなのでは?
「難しいです。とくにフルオーケストラをバックに歌うのは。まぁ、アコギ1本は根性さえあれば何とかなるかな(笑)。これまでロックももちろんそうですけど、16ビートのダンスミュージックやヒップホップ的なものもやったり。節操がないといえばないんですけど、ポップスシンガーなので何でも歌ってきた。そこには自負というか矜恃を持っています。ライブに対する心構えに違いがあるとすると、会場の大きさかな。歌う体力は同じなんですけど、会場が広いとそのぶん動かなきゃいけないでしょ?ステージの端から端まで走ったりするし、でもハァハァいいながら歌えないし。その肉体的覚悟が要ります」
――なるほど。楽曲作りやレコーディング、歌番組への出演…いろいろな音楽活動があるなか、フミヤさんにとってライブとはどんなものですか。
「僕にとって音源を作るのも、歌番組に出演するのもライブをするためにやっていること。CDを出して生業(なりわい)をしているという感覚はないんです。人前で歌ってお客さんに見てもらって、というのがこれまでの人生だったし、今後の人生でもあるんでしょうね。運のいいことに僕のライブに来てくれる人は減っていないんです。きっと、中高生のころからライブの楽しさを教えたからじゃないかな。ライブに行くクセを付けたというか。“フミヤさんのライブに行くために初めて新幹線に乗りました”とか“初めて県外に出ました”とか。しかも親に内緒で(笑)。そういうファンの人たちが多いんです。子どもも大きくなったし、家事はパパに任せてライブに来てくれる。で、ライブの時間・空間だけはワーワー騒いで、一歩ライブ会場出ると途中で寄ったコンビニのレジ袋下げて家路に着いて。ライブって日常を離れた空間を会場のみんなで作り上げる移動遊園地みたいなものだと思うんです。“いまのは夢だったんじゃないだろうか”という」
――現在は弟の尚之さんとのユニット、F-BLOODの全国ツアーの真っ最中です。
「ビートルズ並にハモります。兄弟ならではのツインボーカル&ツインハモを楽しめますよ。やっぱり、兄弟だけあって声の倍音とかがよく響き合うんでしょうね。しかも編成は基本的にギター、ベース、ドラムの3ピースに尚之のサックスなんです。キーボードがいない。それがとてもロックっぽくて」
――いまは3ピースバンドでもライブではサポートにキーボードを入れることが多くなりましたよね。
「ロックでも4つ打ちものの曲が多くなったし、シーケンサーを入れるバンドも当たり前。オートチューンも入ったりしていてね。そのあたり今回のF‐BLOODのバンドメンバーは百戦錬磨だから!まぁ、ホントはキーボードが必要な曲もあるんですけどね。酔った席でみんなで決めちゃったんです。“ロックはキーボード要らない。できるだろう!”って(笑)」
――今回オンエアされる07年から08年にかけて行われた日本武道館でのカウントダウンライブの見どころを教えてください。
「45歳の脂の乗り始めたころの藤井フミヤのライブを楽しんでください。このときはコーラスにアマゾンズもいたりして、大所帯バンドでしたね。衣装もハデでポップなステージで。一大エンターテインメントショーという感じです。じつはこのときはマニピュレーターがついていて、MCの間もイヤモニからはクリックが流れていたんですよ。だからMCの長さもキッカリ決まっていて、そういう意味ではしっかりと構成されたステージ。いまはもっと生な感じでやっているので、そのあたりを見比べても面白いかも。」
取材・文/長尾泰
撮影/尾崎篤志
11月3日(金・祝)24:00~25:30
1983年にチェッカーズとしてバンドでデビューを果たし、1993年以降はソロアーティストとして「TRUE LOVE」や「Another Orion」などのミリオンヒットを世に送り出してきた藤井フミヤ。現在、実の弟である藤井尚之とのユニットF-BLOODでも精力的な活動を展開している。そんな彼のソロデビュー25周年を記念して、2007年12月に東京・日本武道館で開催されたスペシャルカウントダウンライブ「COUNTDOWN LIVE 2007-2008 BONEN&SHINNEN in BUDOKAN~2007.12.31 日本武道館」を放送!ファンクラブ会員のみの期間限定販売でしか手に入らなかった、藤井フミヤの通算100公演目となる記念すべきライブ!彼の澄み切った歌声と魅力あふれるパフォーマンスをお楽しみください。
M-ON! LIVE 華原朋美
「TOMOMI KAHARA CONCERT TOUR 2014 ~MEMORIES~」
11月15日(水) 1:00~2:30
M-ON! LIVE 小田和正
「小田和正カウントダウン・ライブ~ちょっと寒いけどみんなで SAME MOON!!」
11月19日(日) 21:00~22:30