
練習ではうまくいくんだけど、本番になると緊張しすぎて結果が出ない。ウチの子は勝負弱いのではないか――。そう嘆く親御さんに、よく出会います。改善策はないのでしょうか。
「私は本番の試合前、必ずトイレに2回行かないと試合に出られないというくらい緊張するタイプでした」
そう語った選手がいます。2012年ロンドン五輪卓球女子団体銀メダリストの平野早矢香さんです。
平野さんの現役時代のニックネームは“卓球の鬼”。強靭なメンタルの持ち主だとばかり思っていたので、これは意外でした。
「私は高校卒業後、実業団のミキハウスに入ったのですが、練習試合ですら、試合前には緊張しすぎてトイレに行きたくなるタイプ。だから私自身、“メンタルが強い”という意識は、まるでありませんでした」
平野さんによると、人間、緊張しすぎると動きが早くなるといいます。言われてみると、確かにその通り。会合で突然スピーチを頼まれ、緊張のあまり早口になってしまった経験は、誰にでもあるはずです。
一方で場慣れしている人は、周囲を見渡しながらゆっくりと話します。誰が参加していたか、誰が参加していなかったかまでわかるといいますから、それだけ気持ちに余裕があるということでしょう。
昔の子どもは、緊張をほぐすおまじないとして、おとなからスポーツ大会や習い事の発表会の前など、「手のひらに“人”の字を書いて飲め」とよく指導されたものです。「相手を飲んでかかれ」という意味なのでしょうが、どのくらい効果があったかは、いささか疑問です。まあプラシーボ効果を期待するのなら、やらないよりはやった方がよかったのかもしれませんが……。
多少の緊張はいいのかもしれません。しかし、緊張しすぎると、本来の力が発揮できなくなります。
エヌキ ミカ / PIXTA(ピクスタ)
では、どうすれば平常心を保つことができるのでしょう。
平野さんは、いろいろなことを試した末に「メンタルを整えるためには、まず体から」という考えにシフトしたそうです。
「緊張しすぎると、“地に足がついていない”状態になります。極端な話、自分の体の重心が、足の裏のどこに乗っているかさえもわからなくなる。ならば、その逆をやればいいんです」
――具体的にいうと?
「試合前の入場で、しっかり地に足がついているかどうかを確認する。地に足がついていない、と感じた時は、わざと呼吸をゆっくりする。そうすることで気持ちが落ち着き、自然に体の軸が足の裏に乗ってくるようになるのです。要するに、まずは心地のいい体をつくってあげること。メンタルは急に変えられなくても、体の調整ならいつでもできます。結果的には、それが緊張や不安を取り除いてくれるのです」
よくジュニアの大会で「落ち着け!」「緊張するな!」と大声で指示を飛ばしているコーチを目にします。ここで大事なのは、「落ち着く」ための策や、「緊張しない」ためのアイデアを具体的に提示することです。その一例が「歩き方」だったり「呼吸法」だったりするのです。
また試合には例外なく「流れ」というものがあります。いい「流れ」の時もあれば、そうじゃない時もあります。問題は「流れ」が悪くなった時です。
平野さんは言います。
「悪い流れの時は、できるだけゆっくり動くことを心がけるべきです。(ラケットを)ゆっくり握ったり、ゆっくり歩いたり……。で、こちらに流れが戻ったら、いつも通りにプレーする。悪い流れを断ち切ろうとして、速く動くとマイナスに作用することの方が多いですね」
自らの体を制するものがメンタルを制する――。メダリストの金言です。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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