
2025.8.25
©川俣町フェンシングスポーツ少年団
フェンシングは、第1回近代五輪(1896年アテネ大会)で正式に採用されて以来、連綿と続く伝統ある競技です。ルーツ国フランスの競技人口は約6万人。日本は10分の1程度の6000人といわれいています。
フェンシングには、エペ、フルーレ、サーブルという3つの種目があります。いずれも試合は15本を先取(3分×3ピリオド)した方が勝ちで、得点は電気審判機により判定されます。
五輪において、日本で最初にメダル(銀)を獲得したのは2008年北京大会フルーレ個人の太田雄貴さん。太田さんは12年ロンドン大会(フルーレ団体)でも銅メダルを獲り、フェンシングブームの火付け役となりました。
そして21年の東京大会では男子エペ団体(加納虹輝選手、見延和靖選手、山田優選手、宇山賢選手)で金、24年のパリ大会でも、男子フルーレ団体(松山恭助選手、飯村一輝選手、敷根崇裕選手、永野雄大選手)と男子エペ個人(加納選手)で金メダルを獲得するなど、今や日本フェンシング界は黄金期の様相を呈しています。
しかし、競技人口は、少子化の影響もあり、19年=約6000人、20年=約4000人、21年=約5800人と右肩上がりとはいかないようです。先述したようにフランスと比べると10分の1程度ですから、まだマイナースポーツの域を出てはいません。
そんな中、競技普及の一環として登場したのが「スマートフェンシング」です。24年12月の時点で、のべ11万7000人が体験しています。
これを考案した天利哲也さんは、大日本印刷株式会社の社員でフェンシングの審判員。「誰でも簡単、安全に楽しむ」ことができるのがミソです。
用具はシンプルです。使用する剣はウレタン製、選手は導電性のあるジャケットを身に付けます。判定はスマートフェンシング用のアプリが行います。
このプロジェクトには東京五輪エペ団体金メダリストの宇山さんも加わっています。
「2021年に競技を引退したタイミングで、自分が関わりたかったのは強化よりも普及でした。裏方としてフェンシングの審判機の配線をいじって設定するといった作業も行っていました」
©川俣町フェンシングスポーツ少年団
金メダリストが裏方の仕事もするとは、何とも豪華な体験会といっていいでしょう。
取材した際、私もウレタン製の剣を持たせてもらいました。不意に子どもの頃に夢中になったチャンバラごっこを思い出しました。
言うまでもなくスポーツの語源である古代フランス語の「desport」とは、気晴らしや娯楽、遊びを意味します。
近年の子どもたちは、体を使った遊びをあまりしなくなったと言われています。遊び場の減少に加え、スマホなどの普及により、ゲームに興じる子どもが増えてきました。
その是非はともかく、体を使わないことの弊害は、子どもたちの体力の低下にはっきりと表れています。文部科学省が実施する体力テストでは、小中学生ともに2019年から連続して低下していることが報告されています。
そればかりか近年では、靴ひもが結べない子ども、スキップができない子どもなど、自分の体を上手に操作することのできない子どもの例も報告されています。
宇山さんから、こんな話を聞きました。
「最近ラジオ体操でもケガをするからやめようという話があると聞きました。ジャンプ時に捻挫したり、“体を大きく回しましょう”となった時に転倒するケースもあるそうです」
話を「スマートフェンシング」に戻しましょう。私も体験しましたが、危険性はゼロで老若男女、誰もが楽しめます。親子のチャンバラは、コミュニケーションの機会創出にもつながります。
遊びを入り口にして、未来のオリンピック剣士を育てようという天利さんたちの考えは、斬新にして画期的です。何事も「急がば回れ」です。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

理想の生活を
J:COMで
多彩なサービスで暮らしを
もっと楽しく便利に。
J:COMなら、自分にあった
プランが見つかる。