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2023年、時代小説の大家・池波正太郎の生誕100年を記念して、豊川悦司主演の映画『仕掛人・藤枝梅安』二部作が製作され公開された。しかし、生誕100年企画として新たに生まれ変わったのは「仕掛人・藤枝梅安」だけではない。池波正太郎の代表作の一つに挙げられる「鬼平犯科帳」も松本幸四郎を迎えて、新企画が進行していた。すでに、『仕掛人・藤枝梅安』二部作のラストシーンで松本演じる長谷川平蔵が登場し、期待感をあおった。

「鬼平犯科帳」は、実在の人物である火付盗賊改方長官・長谷川平蔵が主人公の捕物帖で、「仕掛人・藤枝梅安」「剣客商売」と並ぶ池波作品の代表作。火付盗賊改方（ひつけとうぞくあらためかた）とは、江戸時代において重罪だった放火や強盗、さらには賭博などを取り締まる役職で、鋭い推理力と観察眼を持ち、厳しく取り締まる平蔵は、悪党たちから鬼の平蔵、「鬼平」と呼ばれて恐れられる存在だった。これまでに何度も映像化され、さいとう・たかをが作画を手がける劇画も人気が高い。

映像化作品では、1969年から1972年にかけて八代目松本幸四郎（初代松本白鸚）が、1975年には「キイハンター」や同時期にスタートした「Gメン’75」にも出演していた丹波哲郎、1980年から1982年まで「子連れ狼」などでおなじみの萬屋錦之介、そして1989年から2016年まで、二代目中村吉右衛門が平蔵を演じた。

二代目中村吉右衛門は、40歳の時に原作者の池波正太郎から直々に四代目・平蔵役に推薦されたが、その時はまだそれまでに作り上げられた平蔵のイメージを払拭できないと思い、役を引き受けることはしなかった。しかし、45歳の時に再び話をもらい、小説の中の平蔵が火付盗賊改方になったのも同じ45歳だったこともあり、平蔵役を受けることを決めた。中村吉右衛門版ドラマ「鬼平犯科帳」はシーズン９まであり、見応え十分。吉右衛門が齢を重ねるのと同じように、演じる平蔵も経験を積んで成長していく。一心同体といった感じで、まさしくハマり役。仕事に厳しいが、密偵を含めたチームを大切にする平蔵は、みんなから付いていきたいと思われる存在で、「理想の上司像」と言われることも多い。

テレビドラマのシリーズ以外に、スペシャル版も数多く放送された。第一弾となる「鬼平犯科帳スペシャル　山吹屋お勝」では、お勝役の床嶋佳子をはじめ、吉田栄作、橋爪功らが出演。続く2006年に放送された「鬼平犯科帳スペシャル　兇賊（きょうぞく）」では、第１シリーズの第9話「兇賊」をリメイクするという試みも。おなじみの密偵たちが総登場したり、クライマックスで平蔵と兇賊たちの激しい斬り合いが行われる料亭は、この作品のために建てたセットだったり、さまざまな部分がスケールアップしてスペシャル版ならではの力の入れようが感じられる。

そして、「鬼平犯科帳 THE FINAL 前編 五年目の客」「鬼平犯科帳 THE FINAL 後編 雲竜剣」は、中村吉右衛門版の最後の作品ということもあり、渾身の殺陣が見られるほか、善に優しく、悪に厳しい鬼平らしさが感じられ、感慨深いものがある。

中村吉右衛門版の鬼平もなじみ深いものがあるが、新たな平蔵の魅力を見せてくれる松本幸四郎版の鬼平にも注目。5月10日(金)に劇場版『鬼平犯科帳 血闘』が公開されるが、それに先駆けて鬼平役の幸四郎が自ら「鬼平犯科帳」の魅力や、舞台裏のエピソードなどを語り尽くす特別番組と“新たな鬼平”の記念すべき第一弾「本所・桜屋敷」、さらに同じエピソードを幸四郎の祖父・初代松本白鸚の鬼平で楽しめる「鬼平犯科帳'69」第6話「本所、桜屋敷」も映画を見る前にチェックしてほしい。

文／田中隆信