あなたの「みたい」が見つかるコラム

日本初の女性弁護士となった女性を主人公に情熱あふれる法曹たちの物語を描くNHK連続テレビ小説「虎に翼」で主人公を演じている伊藤沙莉。2003年に9歳でドラマデビューして以来、地道に活動の場を広げ、作品に安定感と程よいアクセントを残してきた。子役時代から研さんを重ね、2021年には第45回エランドール賞新人賞と第63回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。そして今年、いよいよ朝ドラヒロインを務め、今まさに旬の女優へと成長を遂げた。

彼女の出演作は数多くあるが、近年の注目作の一つに池松壮亮とＷ主演を務めた『ちょっと思い出しただけ』（2022年）が挙げられるだろう。本作は、人気バンド・クリープハイプの尾崎世界観が名作映画に着想を得て書き上げた楽曲を受け、『くれなずめ』（2021年）などで知られる松居大悟監督が描く初の完全オリジナルラブストーリー。照明スタッフの照生とタクシードライバーの葉を主人公に、2人が別れてしまった後から過去へと1年ずつさかのぼり、照生と葉の恋の始まりや出会いの瞬間が丁寧に描かれる。伊藤が演じるのは、照生と恋に落ちる葉。独特のハスキーボイスとリアルな質感で、日常の雰囲気や変化していく距離感、余韻を残す切ない想いも表現する。過去を生きてきた今、ちょっと思い出しただけ。不器用な彼らの二度と戻れない愛おしい日々がエモーショナルに映し出された。

伊藤が朝ドラに出演するのは、2017年のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」以来2回目。同作で注目を集め一躍ブレークを果たすが、本人が役者人生の第1章と位置付けるブレーク前にも話題作にキャスティングされていた。サイコ・ホラー映画『悪の教典』（2012年）がそうだ。本作は、人気作家・貴志祐介による同名小説を原作に、鬼才・三池崇史監督が映画化。メガヒットシリーズ「海猿」をはじめ熱血ヒーローのイメージが強い伊藤英明が、真逆の“絶対的悪”である生まれながらのサイコパスの高校教師・蓮実聖司を意欲的に演じた。生徒から絶大な人気を誇るも、自らの目的のためには殺人すらもいとわない蓮実は、周囲を自由に操り学校中を支配しつつあった。小さなほころびから露呈した自らの失敗を隠滅するため、クラスの生徒全員を惨殺していくというストーリーは、賛否両論を呼んだ。蓮実の生徒役には、二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、松岡茉優ら実力派が多数出演。彼らと並んで、伊藤も等身大の高校生役で作品に溶け込んでいる。

そして昨年、役者として20周年を迎えた伊藤は、映画のほかドラマでも存在感を発揮してきた。月9枠で放送され人気を博した2022年のヒット作「ミステリと言う勿れ」に出演。本作は、累計発行部数1800万部を突破した田村由美による大人気漫画を映像化した作品。菅田将暉演じる天然パーマがトレードマークの主人公・久能整（ととのう）が、究極の会話劇で事件の謎も人の心も解きほぐしていく新感覚ミステリーだ。伊藤は、男社会の警察組織で独り立ちできず、心が折れそうな日々を送っている新人刑事・風呂光（ふろみつ）を演じる。初の刑事役となったが、整との出会いによって初心を取り戻し、懸命に仕事に取り組み成長する女性を好演した。

ジャンルの異なる作品でも自然体で魅力を放つ個性派女優・伊藤沙莉。朝ドラヒロインとして改めて注目を集める今、彼女の多彩な出演作の数々を見返してほしい。

文：中川菜都美