あなたの「みたい」が見つかるコラム

“ふてほど”という愛称で人気を博したドラマ「不適切にもほどがある！」(2024年1～3月、TBS系)で主演の阿部サダヲ演じる主人公・小川市郎の一人娘・小川純子役で、父親思いの優しい一面を持つ17歳の不良少女をコミカルに演じてブレークを果たした河合優実。河合は、同ドラマが民放ゴールデン・プライム帯の連ドラで初のレギュラー出演だったため“見つかった感”があるが、実は2019年に女優デビューして以降、映画を中心に独特な輝きを放っており、映画界ではすでに存在が重要視されている若手女優で、映画やドラマ、舞台など数々の作品において主演から助演までこなす演技派だ。

これまでも数多くの話題作に出演しており、それぞれの作品でキラリと光る演技を披露。特に助演の役どころでは、主演やヒロインを引き立たせながらも印象的な演技で爪痕を残す名演で作品を支えている。

例えば、元「乃木坂46」の伊藤万理華が主演を務め、時代劇オタクの女子高生が映画制作に挑む姿を、SF要素を織り交ぜながら描いた青春映画「サマーフィルムにのって」(2021年)では、主人公のハダシ(伊藤)の幼なじみ・ビート板を熱演。内向的で他人を引っ張るようなタイプではないが、理知的で勘が良く、天才気質のハダシを友人として隣で支え、時に背中を押す重要なキャラクターを、芯の通った意志の強さがにじみ出る人物として表現。主人公と対照的な人物像を描いて、伊藤とは異なる存在感を発揮している。特に、伊藤と奏でる演技のハーモニーが絶妙で、「陰と陽」「明と暗」「太陽と月」のような、互いを引き立て合うコンビネーションは圧巻。加えて、クールだが親友にも言い出せない思いを持っていたりというコミュニケーション能力が高くない愛らしい人間的な部分もしっかりと表現しているところもにくい。河合は同作と映画「由宇子の天秤」(2021年)での演技が評価され、「第64回ブルーリボン賞 新人賞」を受賞している。

また、田中圭演じる女子高生に殺されたいがために高校教師になった東山春人が、人気教師として日常を送りながらも“理想的な殺され方”を実現するために暗躍する映画「女子高生に殺されたい」(2022年)では、メインの女子高生の一人で、少し陰のある不思議な力を持つ小杉あおいを演じている。アスペルガー症候群があり、根暗で友人が少なく人と関わることが苦手だが、親友の佐々木真帆(南沙良)にだけは心を開いているという難役を力演。目線だけでなく体の向きも変えるなど、真帆と他の人物とで関わり方に変化を持たせることで心の距離感をしっかりと表現し、あおいが抱いている真帆に対する友情を超えた“愛情”を明確に表している。この役でも、内向的な性格だが「真帆を守るためなら」という内に秘めた芯の強さを鮮明に描写している。

一方、75歳以上の高齢者に対して自らの生死を選択する権利を保障し、支援する制度「プラン75」に関わる対象者や関係者の苦悩を描いた映画「PLAN 75」(2022年)では、「プラン75」を申請したミチ(倍賞千恵子)の“その日”が来るまでをサポートするコールセンタースタッフ・成宮瑶子を演じ、日々、ミチと電話で会話していくことで徐々に心が揺れていく様を繊細に描き出している。プライベートでミチと会った時の“オフ”の雰囲気や、最後の電話でのあふれ出てくる思いを必死に飲み込んで言葉が途切れ途切れになってしまうシーンなど、仕事上での関わりしかないミチに対して無意識に寄り添ってしまう瑶子の複雑な心情を表現。

さらに、複雑な大人たちの恋愛模様が描かれる映画「愛なのに」(2022年)では、瀬戸康史演じる主人公、古本屋の店主・多田浩司に純粋に恋をする16歳の女子高生・岬を好演。まっすぐに浩司に思いを伝え、断られても何度でもトライするヒロインを嫌味なく作り上げ、岬に対して無下にできない浩司の心情に対する共感性を増幅させている。特筆すべきは、彼女のせりふ回しで、ゆっくりと紡ぐように言葉を発することで岬のピュアさを出しつつも、低いトーンで真剣さを演出。そんな中で、浩司をからかう場面では無邪気な10代らしい一面も見せてリアルさを付与している。

そんな彼女が主演を務める映画「あんのこと」が6月7日(金)に公開される。これを記念し、日本映画専門チャンネルでは「6.7『あんのこと』公開記念　俳優・河合優実」と題し、6月5日(水)、6日(木)の2日間にわたって前述した河合が出演する4作品と特別インタビュー番組を放送。河合が魅せる内向的なキャラクターながら心情を雄弁に語るビビッドな芝居に注目していただき、どれほど主演を引き立たせているかを堪能してほしい。

文：原田健