あなたの「みたい」が見つかるコラム

新たなキャストで始動した「鬼平犯科帳」新シリーズ。現在公開中の劇場版「鬼平犯科帳 血闘」のカギを握る密偵・おまさを演じた中村ゆりさんに鬼平の魅力を語ってもらった。

撮影/三好宣弘

過去をなぞっても仕方がない。私なりの「おまさ」を見つけようと思いました。

“鬼平”は時代劇の中でも誰もが知るタイトルで、長谷川平蔵をはじめ、登場人物を歴代さまざまな役者さんが演じてこられた歴史もあります。そんなすごい作品のオファーをいただいた時点で、プレッシャーをかなり感じました。製作発表後、いろいろな方に声をかけられて、“鬼平”って根強いファンの方がこんなにもいるのだなとプレッシャーがより一層リアルになって…。ちゃんと務め上げなければいけないと不安が大きくなりましたが、過去の「おまさ」をなぞっても仕方がない。自分が再解釈して、歴代の方をなぞるのではなく、私なりの「おまさ」を見つけていこうと思いました。

多感な年頃に銕三郎と出会った「おまさ」。彼女の“人間らしさ”を深掘りしたかった。

「おまさ」は感情をあまり表に出さず、ミステリアスで冷静なイメージがありますが、私が演じる際にはもう少し人となりというか、人間らしさも深掘りできたらと思いました。多感な年頃に銕三郎と出会ったことが「おまさ」の人生にどれだけ影響を与えたのか。身分が違う相手なのに、一人の人間として丁寧に扱ってくれた。そんな感謝の気持ちを大事にしながらキャラクターづくりをしました。時代劇は普段の自分たちの生活とは違うシチュエーションなので、役づくりでは所作や決まりごとを自分の中に落とし込むことを意識しました。着物に着慣れておくことは一つの課題で、また所作一つとっても「こうやって開けてください」と指導の先生から言われても、そのシーンが急いでいるのか、感情的なのか、そんな細かな所まで相談しながら演じました。とはいえ、所作を意識しすぎると気持ちで芝居をすることができなくなってしまうので、良いあんばいで表現できているかどうかを大事にしました。生まれたところの恵まれなさというか。裏の世界でしか生きられないけれど、「おまさ」には自分の中に美学やプライドがあって、悪には染まらない強さがあります。そして、叶わぬ恋をずっとしている一途なところの切なさ、儚さ（はかなさ）も魅力なのではないでしょうか。そんなところが、ファンの方たちが感情移入できる点かなと思います。好きな人…平蔵さんのためなら命を捧げても構わないと思うのは、並大抵のことではないですから。

幸四郎さんがつくってくれたとてもリラックスできる現場でした。

幸四郎さん自身は、普段はとてもほんわかとされている方で、壁を全く感じさせないんです。でも、それが幸四郎さんの座長としてのスタンスだったんです。みんなにプレッシャーを与えず、リラックスできる環境づくりをしてくださいました。そういう気遣いの一面もありながら、製作発表の時も、クランクアップの日にも幸四郎さんは涙を流されていました。それだけの強い思いの中で、新たな鬼平を演じていらしたということを目の当たりにしました。ものすごいプレッシャーを抱えていらっしゃっただろうし、やっぱり自分にとって、御祖父様、そして叔父様が演じてこられたものを受け継ぐという中で、いろいろ思い出もよみがえってきたんだと思います。幸四郎さんの内側にはとても熱いものがある、それが幸四郎さんのさらなる魅力だと感じました。

劇場版「血闘」のクライマックスで、平蔵におぶられるシーンは今でも心に残っています。決して叶わぬ恋心を抱いた相手の背中に初めて触れる「おまさ」の心には、さまざまな思いが渦巻いていたのだと思うんです。切なくて悲しくて…、このシーンで、そんな思いをみなさんに感じていただけたらうれしいですね。

文／前田かおり　ヘアメイク／藤田響子　スタイリスト／小川未久