あなたの「みたい」が見つかるコラム

“Kゾンビブーム”の火付け役、映画『新感染』
シリーズが描く“分厚い”人間ドラマに「沼る」

新感染 ファイナル・エクスプレス

2010年にドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」が、それまでコアなファン向けであった“ゾンビ作品”を一躍人気ジャンルに引き上げてから、さまざまな“ゾンビ作品”が生み出された。その度に、ゾンビのクオリティーや世界観、映像美、ストーリー性などがバージョンアップされ、今やメインストリームのジャンルの一つと言っても過言ではないほどに確立された。

人気があればある程度の売上の見通しが立ち、予算もかけられて製作者側もチャレンジできる。結果、良い物が多く生まれるという好循環の中にあるのが、現在の“ゾンビ作品”のポジションだろう。

そんな恵まれた状況だが、こと“製作”の側面にスポットを当てると、この14年でさまざまな手法が出尽くされ、新しい“何か”で他の作品との差別化を図るのが難しくなっていることも事実だ。加えて、見る側の目も肥えてきて、少し前まで新しく感じていたものが、既に古臭く感じられてしまうという側面も無視できない。つまり、飽和状態で打つ手がなくなってきていた…。そんな折、この飽和状態を打ち破り、“Kゾンビブーム”を巻き起こした作品が映画『新感染』シリーズだ。

同シリーズは、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年韓国 ※日本では2017年公開)と、その続編となる映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020年韓国 ※日本では2021年公開)から成る韓国のパニックホラー作品で、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭で監督賞・視覚効果賞を獲得するなど、国際的に高い評価を得た。

このシリーズの魅力といえば、やはり物語で描かれる人間ドラマが秀逸なところだろう。もちろん、パニックホラーとしてのクオリティーも高く、ゾンビによる恐怖でも存分に楽しめるのだが、韓国ならではの主人公を中心とした人間ドラマの “分厚さ”が目を引く。その人間ドラマが軸に据えられているからこそ、より感情移入に拍車がかかり、ひいては怖さも倍増してしまう効果も生み出している。

新感染 ファイナル・エクスプレス

映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、時速300㎞以上で走行中の高速鉄道の車内を舞台に、ゾンビのパンデミックによる恐怖とそれに巻き込まれた乗客たちの人間模様、そして軸にはコン・ユ演じる父親の娘への愛も描かれている。

ファンドマネージャーのソ・ソグ(コン・ユ)は妻と別居し、実母と娘のスアン(キム・スアン)と暮らしているのだが、仕事が忙しくスアンの面倒は実母に任せきりで、誕生日プレゼントもこどもの日に贈ったゲーム機を再び渡してしまうほど…。「母に会いたい」と言うスアンの望みを渋々承諾したソグは、スアンと共に朝一番のソウル発釜山行きのKTXに乗車。そのKTX車内で、「ゾンビに噛まれるとゾンビ化してしまう」というパンデミックに巻き込まれてしまう。走る高速鉄道の密室の車内で、次々と増えていくゾンビたち。ソグは自分たちだけでも助かろうと奮闘するが、乗り合わせた乗客らと心を通わせることで考え方が変わっていく、というストーリー。

この主人公のバックボーンをしっかりと描くことで、娘への愛を再確認する姿や人間的な成長、自己犠牲もいとわない親子愛など、“ゾンビ作品”でありながら人間としての普遍的なものをテーマにしているため、人間ドラマとして「刺さる」のだ。ドラマ「コーヒープリンス1号店」(2007年韓国)やドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」(2016~17年韓国)で人気を博したコン・ユの演技もすばらしく、上記の2作品では見られない父親役を情感たっぷりに表現している。

一方、映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、前作の4年後を描いており、パンデミック発生後に韓国は封鎖され、韓国人は難民と化して避難先で差別を受ける、という設定の中で物語が展開される。

新感染半島 ファイナル・ステージ

元軍人の主人公、ジョンソク(カン・ドンウォン)は香港で落ちぶれた生活を送る中、ソウルに乗り捨てられたトラックの荷台に積まれた2000万ドルの大金を回収する仕事を受けて、義兄のチョルミン(キム・ドユン)らと韓国に上陸。ゾンビたちが跋扈(ばっこ)する世界に足を踏み入れると、感染を免れながら暮らす民兵集団に襲撃される、というストーリー。

ジョンソクは、4年前のパンデミック初日、車で港へ向かう途中に遭遇した赤ん坊を抱えた家族を見捨てたこと、乗り込んだ船の中で起こった感染拡大から姉と甥を救えなかったことを引きずって暮らしているという背景があり、依頼された仕事においても気が乗らなかったが、乗り気の義兄を放っておくことができずに同行。そして韓国上陸後、民兵集団の襲撃から助けてくれたのは、4年前に見捨てた家族であることに気付く…。こちらも前作に引けを取らない“分厚さ”だ。

忘れたくても忘れられず、ずっと後悔しながら死人のように生き長らえていた4年を背負いつつ、期せずして過去の後悔と直面することになる奇跡的な邂逅(かいこう)ストーリーで、主人公の悔恨と贖罪の念を中心に心の動きを描いている。
映画『華麗なるリベンジ』(2016年韓国)や映画『MASTER/マスター』(2016年韓国)といった作品とはひと味違った、現実世界と乖離した世界の中で必死に生きる男を、ジョンソクを演じるカン・ドンウォンが熱演している。

ゾンビの存在も、「どう対処するべきか」という“対抗する対象”ではなく、「いかに見つからないように避けて行動できるか」という天災のように“避けながら共存すべき対象”へと変化しており、 “ゾンビ作品”の王道のテーマから見事に脱却し、よりドラマ性を色濃くしている。

さらに、“ゾンビもの”の概念にとらわれることなく、「どう生きるか」を問う“分厚い”人間ドラマをコン・ユ、カン・ドンウォン共に韓国を代表する演技派が、しっかりと担っているのだ。だからこそ面白いし、何度だって楽しめる。シリーズでありながら全くテイストの違う“Kゾンビブーム”に「沼って」みてはいかがだろうか。

文/原田健

放送情報

吉田拓郎 LIVE 2012

新感染 ファイナル・エクスプレス

直近の放送

7/27(土) 21:00~

WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

新感染半島 ファイナル・ステージ

直近の放送

7/27(土) 23:15~

WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

  • 放送スケジュールは変更になる場合がございます

J:COM TVシン・スタンダードで、
厳選した専門チャンネルと

Paramount +が加わった動画配信が楽しめる!

もう見逃さない!リモート録画予約 タブレット、スマホ、パソコンからカンタン予約で録りまくり!

対象:J:COM LINK / 4K J:COM Box / Smart J:COM Box

※ご利用にはFun! J:COMへのログインが必要となります
※チューナーはご加入のサービスにより異なります。ブルーレイHDRの一部機種でもご利用頂けます。
ハードディスク内蔵型でない機器をご利用の場合、別途USB-HDDのご購入が必要となります。

PageTop