写真:二宮清純

二宮清純コラム銀盤のカーテンコール

毎月第3月曜更新

2022年8月15日(月)更新

羽生結弦、世界とつながる“新しい場所”
同い年の同志・大谷翔平との“心の絆”

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 プロに転向してからも2014年ソチ五輪、18年平昌五輪金メダリスト・羽生結弦選手の話題が途切れることはありません。さる7日には自身の公式You Tubeチャンネルを開設し、平昌五輪で披露したプログラム「SEIMEI」を披露しました。

ノーミスのSEIMEI

 チャンネル名は「HANYU YUZURU」。YUZURU HANYUにしなかった理由について、本人は「少しでも日本人らしさ、自分らしさを出したいから」と語っていました。

 羽生選手がYou Tubeチャンネルを開設すると聞き、思い出したのがプロ転向記者会見での次のコメントです。
「もっと今の時代に合ったスケートの見せ方があると思う。ファンの方々はもちろん、スケートを見たことがない方々でも、これなら見てみよう、と思ってもらえる“場所”をつくりたい」

 未来のファンも含め、自らのサポーターたちと交流する“場所”のひとつが自身のYou Tubeチャンネルということでしょう。10日、「Share Practice」と銘打ったライブ配信は、予定の時間より30分ほど早く始まりました。動画では通路でのイメージトレーニングやウォーミングアップの様子も公開されています。そして配信開始から約1時間30分が経過したところで、羽生選手の代名詞とも言える「SEIMEI」が披露されました。このプログラムは五輪同様8つのジャンプ構成でした。

 序盤から4回転サルコウ、4回転トウループ、3回転フリップと順調な滑り出しを見せた羽生選手、4つ目の「4回転サルコウ-3回転トウループ」の連続ジャンプに失敗すると、何とまた最初からやり直しました。5つ目の「4回転トウループ-1オイラー-3回転サルコウ」の3連続ジャンプ、頭の4回転トウループの着氷時にバランスを崩すと、「もう1回最初から!」。続けて膝に手をついたまま「ラストッ!」と大声で自らに喝を入れました。

 体力が限界に近づく中での3度目の演技では全てのジャンプを完璧に決め、「まさか3回もやるとは思わなかった」とポツリ。
「SEIMEIはオリンピックの構成でやったんですけど、それでもノーミスでできるんだっていうところを見せたかったのでよかったなと思います」

 もうひとつの話題は、ともに1994年生まれ、羽生選手と同学年の大谷翔平選手(エンゼルス)がベーブ・ルース以来104年ぶりとなる“1シーズン2ケタ勝利、2ケタ本塁打”を達成した際に口にしたコメントです。

「僕なんか本当、足元にも及ばないですし大谷世代と呼ばれる世代にいられて光栄です。これからも大谷さんらしく頑張っていただきたいなと思うのと、僕もやっとプロの舞台に上がれたので、大谷さんに追いつけるように精いっぱい頑張ります」

「羽生世代」か「大谷世代」か

 周知のように2人はともにリスペクトし合う間柄です。大谷選手が「羽生世代」と言えば、羽生選手は「いや、僕は大谷世代」と“主役”の座を譲り合っています。

 この世界、社交辞令で相手を持ち上げることはままありますが、2人は心の底からリスペクトし合っているように感じられます。想像ですが、互いのことを“同志”と認め合っているのではないでしょうか。

 大谷選手の場合、プロ入りした時、多くのレジェンドや評論家から「二刀流は無理」「無謀な挑戦」と突き放されました。北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督(当時)を除き、ほとんど孤立無援の状態でした。

 メジャーリーグに戦いの場を移してからも、右ヒジを手術した時などは、「バッター一本にしぼった方がいい」という声もありました。「先入観は可能を不可能にする」とは高校(岩手・花巻東)時代の恩師・佐々木洋監督の言葉ですが、大谷選手から「難しい」とか「諦める」といったネガティブな言葉は聞いたことがありません。

 それは羽生選手も同様です。五輪3連覇がかかった今年2月の北京大会。前回も書きましたが、安全運転に徹していれば、表彰台の一角を占めることは可能だったでしょう。しかし、妥協の産物のメダルは、彼にとっては抜け殻のようなものです。クワッドアクセルへの挑戦は、自分が自分であり続けるための、いわば存在証明であるかのように私の目には映りました。

 羽生選手と大谷選手、世界のスポーツ界をリードする両雄がメッセージを交換し合う場所――このチャンネルには、そんな期待もふくらみます。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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