2023年7月18日(火)更新
災害大国日本、羽生結弦のメッセージ
「たとえ空振りになっても避難が大切」
「天災は忘れた頃にやってくる」。こう語ったのは俳人で物理学者の寺田寅彦です。しかし近年は「忘れる間もなく」やってきます。そんな中、プロフィギュアスケーター羽生結弦選手の活動に注目が集まっています。
「情報を集めることが大切」
羽生選手が日本テレビ系情報番組「news every.」のスペシャル・メッセンジャーに就任したのは昨年12月のことです。「羽生結弦 伝えたい思い」と題したコーナーでこの5月、3年前の熊本豪雨の被災地を訪ねました。
熊本豪雨(気象庁は令和2年7月豪雨と命名)とは、2020年7月3日から31日にかけて熊本県を中心に九州や中部地方などを襲った集中豪雨です。全国で死者86名、行方不明者2名、住家の全半壊6162棟など大規模な被害をもたらしました。
番組内で羽生選手は被災者に面会し、聞き取り調査を行います。
「そこにある思い出も含めて大切というのはすごく気持ちとして分かる。なくなってしまったものは戻らないし。そこが辛いですよね」
16歳の時、東日本大震災で被災した羽生選手。自らの記憶を重ね合わせているようにも見えました。また番組の後半では、次のような提言も口にしました。
「水害はきちんと備えれば命を守れることを実感しました。ちゃんと考えて生き抜いていくべきだと思いました。ただ、実際にどう避難すればよいか把握している人は、僕も含めて、そんなにいないと考えています」
「自分でも情報を集めることが大切だと思います。皆さんも、この機会にハザードマップやアプリをチェックして、避難の仕方を考えてみてください。実際には被害は出ないかもしれませんが、『たとえ空振りになったとしても、避難することが大切だ』と熊本の方々は話していました。僕も調べたいと思います」
日本は災害大国です。代表的なものに地震、津波、火山噴火、台風(大雨)、土砂災害(地すべり・土石流・がけ崩れ)、竜巻、雪害があります。震災の発生件数は、台風が57.1%、地震が17.9%、洪水が14.7%。被害額については8割以上を地震が占めます。(1985~2018年ルーバン・カトリック大学疫学研究所災害データベースより中小企業庁作成)
災害現場と向き合う
一朝、災害が発生するとアリーナや体育館が避難所として使用されます。1日や2日ならともかく、避難所生活が長期に及ぶと被災者や避難者の健康に深刻な影響が出てきます。
以下は先日、私が書いたコラムからの引用です。
〔大勢の被災者や避難者が体育館の床に毛布を敷き、雑魚寝している姿をテレビなどでよく目にするが、海外の避難所事情に詳しい大前治弁護士によると<これを当然視してはいけない>(現代ビジネス23年5月18日配信)のだという。<劣悪な避難所生活が、避難者の生命と健康を削っているのである>(同)と手厳しい〕(スポーツニッポン2023年7月5日付)
政府は「未来投資戦略2017」の一環として、25年までに国内20カ所でスタジアム、アリーナを建設することを目標に掲げています。スポーツの成長戦略を描く上で、感動の共有空間であるスタジアムやアリーナはなくてはならないものです。
その一方で災害大国・日本において、スタジアムやアリーナには避難施設としての機能も求められており、推進する側には、その点について、もう少し踏み込んだ説明が必要になってきます。
先述したように羽生選手は東日本大震災の被災者のひとりです。今は伝え手として災害現場と向き合っています。アスリートとして、世界各国のアリーナで滑った経験を持っています。アリーナの構造に関しては、私たちが知り得ない知見を、いくつも有しているはずです。アリーナやスタジアムを避難施設として、どう活用するか。羽生選手ならではの提案に期待したいものです。
二宮清純