2024年1月9日(火)更新
羽生結弦、佐賀で「サーガ」を
プロデューサー、演出家の顔も
2023年末、テレビはどの局もロサンゼルス・エンゼルスからロサンゼルス・ドジャースに移籍した大谷翔平選手の話題一色でした。個人的に注目したのは大谷選手のゼネラル・マネジャー(GM)としての役割でした。同学年の羽生結弦選手も、“スケータープラス”の顔を持っています。
生中継!羽生結弦の単独アイスショー"RE_PRAY"佐賀公演の放送情報はこちら
GM大谷翔平
驚いたのは大谷選手の報酬です。10年総額7億ドル(約1015億円)。契約年数が異なるものの、サッカーのリオネル・メッシ選手(4年6億7400万ドル、2017年バルセロナ時代)を抜き、プロスポーツ史上トップに躍り出ました。
さらに驚いたのは、報酬の約97%の6億8000万ドル(約986億円)を、契約期間終了後の後払いにしたことです。
ではなぜ、大谷選手サイドは、このような前代未聞の支払いスキームを球団側に提案したのでしょう。
メジャーリーグは97年から課徴金制度を導入しています。既定の年俸総額を超えた球団は、1年目は超過額の20%、2年連続は30%、3年連続なら50%といった具合にラグジュアリータックス(ぜいたく税)をメジャーリーグ機構に納めなくてはならないのです。
報酬のほとんどを後払いにすれば、球団側は超過額が目減りし、浮いた資金を、他の大物選手獲得につぎ込むことができるようになります。20年以来のワールドシリーズ制覇を狙う球団にとって、大谷選手の提案は渡りに舟だったと言えるでしょう。
実際、この1週間後、ドジャースは23年オフにトレードで獲得したタイラー・グラスノー投手と5年総額1億3500万ドル(約192億円)で契約延長に合意しました。大谷選手はグラスノー投手に「キミのためにホームランを打つよ」とビデオメッセージを送ったそうです。
大谷選手は日本で3年連続沢村賞に輝いた山本由伸投手(元オリックスバファローズ)のドジャース入りにも一役買いました。こちらは12年総額3億2500万ドル(約463億円)。入団会見で山本投手は「大谷さんがドジャースを選んだというのは決断理由の1つになりました」と明かしました。
野心的な挑戦
こう見ていくと、大谷選手は一選手の矩をこえ、チーム強化のためにGM的役割を果たしていることがわかります。それだけワールドチャンピオンへの思いが強いということでしょう。
プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手は大谷選手と同じ1994年生まれの同級生です。大谷選手がプレーヤーとGMの“二刀流”なら、羽生選手はプレーヤーとプロデューサーの“二刀流”です。
22年11月、プロ転向後、初となる単独アイスショー「プロローグ」の横浜公演を終えた直後、羽生選手はこう語りました。
「会場の近場から見る(僕の)スケート、会場の上の席から見るスケート、そしてカメラを通して見えるスケートは全く違った見え方になります。その違いも楽しんでいただけたらなと思います」
これはショーの全体を統括し、俯瞰するプロデューサーの視点です。
羽生プロデューサーは、羽生選手の生かし方を誰よりもわかっています。津軽三味線の世界的奏者である中村滉己さんを起用したのは、実に野心的な挑戦でした。中村さんが奏でる一音、一音に合わせるようにステップを刻み、ターンを決める。異文化との融合を、羽生選手自身が楽しんでいるように映りました。
24年1月12日と14日、羽生選手は「RE_PRAY」と題したアイスショーを佐賀で行います。羽生選手がSAGAアリーナのリンクに立つのは初めてのことです。2日目の演技はCSテレ朝チャンネル1で生中継されます。私たちは羽生選手が口にした「カメラを通して見えるスケート」を楽しむことができます。
ところで、佐賀といえば「葉隠」です。武士道の原点です。そこで、どんなサーガを披露してくれるのか。羽生選手にはもうひとつ、演出家としての顔もあります。新年早々、期待が膨らむ佐賀公演です。
二宮清純