2025年1月20日(月)更新
羽生結弦「基礎は大事」の真意
千利休「一より習い十を知り…」
「野球好きなんですよ、僕!」。羽生結弦選手に対する元プロ野球選手・江尻慎太郎さんのインタビューは“聞きどころ満載”でした。今回は東北のテレビ朝日系列6社(青森朝日放送、岩手朝日テレビ、東日本放送、秋田朝日放送、山形テレビ、福島放送)が運営する「topo(トポ)」で配信されている「khb東日本放送独占インタビュー」での発言から、羽生選手のフィギュアスケートに対する姿勢について考察してみました。
唯一無二の世界観
「そもそも僕がフィギュアスケートを人生の中でやっていくに当たって、バレエやダンスとかを、ほぼ独学でやってきているんですね。フィギュアスケートの選手の中には、バレエを習う選手もいるんですけど、僕は習ってこなかった。曲に振りを付けてくれる先生に言われたまま、ずっとやってきたんですよね」
ここでは「独学」という言葉に焦点を当ててみます。スポーツにおける「独学」とは、特定の指導者に頼ることなく、自分で目標を立て、自分なりのやり方で課題を解決していくことです。
それが今になって「基礎ってこんなに大事じゃん」ということに気付き始めたという羽生選手。「ダンスだったり表現だったり、そういった基礎となる部分から学んだら、また違ってくるよね、という伸びしろ」を感じていると言います。
フィギュアスケートの世界において、唯一無二とも言える世界観を創造した羽生選手の言葉だけに興味が募ります。
そこで思い出したのが、「稽古とは、一より習い十を知り、十よりかえるもとのその一」という言葉です。
実はこれ、「茶聖」と称される千利休が残したものです。
スターターとクローザー
稽古というものは、一から始めて十に到達したからといって、決してそれで終わるものではない。十に到達しても、そこで満足するのではなく、また一、すなわち初心に立ち返り、自らの足元を見つめながら、一歩ずつ歩を進める。そうした修養の日々の中で、自己が磨かれ、新たな境地に達することができるという教えです。
五輪連覇を達成するなど、競技者としては、ある意味「十」に到達した羽生選手が、ここにきて「基礎って大事」と感じ、足元を見つめ直そうというのですから、「茶聖」の心境に近付いているのかもしれません。
また次のコメントも印象に残りました。
「抑え投手のクオリティーを、先発しながらやらなきゃいけない」
野球で9イニングのうち、6回か7回を2、3点くらいで抑えれば、先発(スターター)としては成功です。何より求められるのは安定感です。これに対し、抑え(クローザー)は、最後の1イニングをピシャリと封じなければなりません。リミッターを振り切るほどの集中力を発揮してゲームの幕を引くのです。
羽生選手はプロ転向後の2022年11月、初の単独アイスショー「プロローグ」を皮切りに、「GIFT」「RE_PRAY」「Echoes of Life」と題した“アイスストーリー”に挑んできました。たったひとりで約2時間半を滑り切るのです。スターターとクローザー双方の能力が伴っていなければ、それを完遂することはできません。
投手出身の江尻さんが相手だったからこそ飛び出した発言でしょうが、羽生選手の“鉄人”ぶりが浮き彫りになりました。
二宮清純