2025年5月19日(月)更新
羽生結弦、衣装の選び方と見せ方
野村萬斎は「なびかせ方」を評価

さる5日、「羽生結弦 Echoes of Life ~全プログラム&舞台裏SP~」という番組がCSテレ朝チャンネル2で放送されました。番組内で羽生結弦選手は、自身が身につけた衣装についても言及していました。今回は、Echoes of Lifeやnotte stellata2025で披露した羽生選手の衣装の選び方と見せ方について論じてみましょう。
衣装への思い入れ
Echoesでの衣装はゆったりとしていたり、袖がひらひらと大きくなびいたりするものが多くありました。それについて、羽生選手はこう語っていました。
「スケートの見え方って衣装によって全然違います。それプラス演出の力、セットの力、映像の力をフルに使った総合的なエンターテインメントになったらいいな」
フィギュアスケートは少なからず空気抵抗を受ける競技です。競技会において、体にピタッと密着した衣装が多いのはそのためでしょう。しかし、エキシビションやアイスショーではロングカーディガン調の衣装も多々見受けられます。
羽生選手はEchoesでNovaという主人公を演じました。この登場人物の衣装は、全身黒ずくめ。ズボンは太ももあたりがゆったりとしており、袖は“裾広がり”になっていました。
羽生選手は2024年12月7日、Echoes埼玉初日公演後、お気に入りの衣装について問われると、「やっぱり、Novaの衣装ですかねぇ」と答え、続けました。
「普段のファッションに使えるような服を氷上で着るのは、難しかったです。でも、Novaという主人公の衣装にはかなり思い入れが強い。何着も何着もアレンジして、創り上げた衣装がたくさんあります。Echoesは、GIFTやRE_PRAY(羽生選手が過去に手掛けたアイスストーリー第1弾と第2弾)、プロローグ(プロ転向後初の単独アイスショー)とはまた毛色の違ったアイスストーリーになっていますし、衣装も含めてフィギュアスケートっぽくない」
「シンクロ率の向上」
Echoesにおいて「フィギュアスケートっぽくない」衣装は、以下のプログラムでも確認できました。
・産声~めぐり(白の衣装で、袖がひらひらとなびく)
・Utai IV~Reawakening~(裾を手で持つと鳥の羽のように大きく広がる)
・Mass Destruction-Reload-(スカート調の腰巻のようなものを装着している)
・Goliath(2024Remix)(フード付きの黒のコートを着ている)
・Eclipse/blue、GATE OF STEINER-Aesthetics on Ice-(薄緑色の白衣を着ている)
特に目を引いたのは、狩衣にも似たUtaiの衣装です。狩衣といえば、狂言師・野村萬斎さんと共演した「MANSAIボレロ×notte stellata」でのシーンが思い浮かびます。
私は3月17日号の小欄で、こう書きました。
<ボレロには雪、晴れ、嵐など天気や季節の描写が多く出てきます。金色の振袖つき衣装を纏った羽生選手は、氷すれすれに上半身を近付けるハイドロブレーディングを披露しました。腕を伸ばし、袖をひらひらとなびかせることで風の強さを表現しました。>
後日、2人はNHKラジオ第1「野村萬斎のラジオで福袋」(2025年4月7日放送回)で対談し、衣装についてこんなやり取りをしていました。
羽生: 衣装の形としては、静止状態だと狩衣に近いような形で作ってもらったんです。
萬斎: あんなに袂が大きいスケートのコスチュームはなかなかないですよね。
羽生: そうですね。本当に非常に扱いが大変で。
萬斎: いやあ、日に日にうまくなっていったなぁ、と。なびかせ方とか。
衣装のなびかせ方にまで言及するとは、さすが萬斎さんです。
続けて「シンクロ率が初日、2日目、3日目と上がっていった気がしますね」と羽生選手を褒めていました。
今後、羽生選手のアイスショーを見る上での楽しみが、またひとつ追加されたような気がします。

二宮清純