2025年9月1日(月)更新
羽生結弦「不死鳥」伝説の起点
「肉体改造」に込められた思い

プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手が8月15日、自らのX公式アカウントで「メンテナンス期間」という言葉を用いて充電期間に入ることを発表しました。氷上に復帰するのは来年春頃になる予定です。
「いまは放心状態」
羽生選手の公式Xより引きます。
<今シーズンについてのお知らせです
今シーズンですが、より進化するためにメンテナンス期間を設けることにしました!
また皆さんが心から「良い!」って思ってもらえるように。
よりもっと、もっと、思っていただけるように。
来年の春頃を目指して、たくさん勉強し、肉体改造もして、更に頑張っていきますので、期待して待っていてください!
「いま」という時間を、まだ見えることのない「未来」のために、頑張ります>(2025年8月15日午後6:00配信)
羽生選手は、3年間で、自らが製作総指揮を執った「ICE STORY」シリーズを4つ(プロローグを含む)もプロデュースし、演じてきました。『プロローグ』、『ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome』、『ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR』、『ICE STORY 3rd “Echos of Life” TOUR』――。
30歳の肉体は悲鳴を上げていたに違いありません。
今年2月の『Echos of Life』千葉公演千秋楽後の一幕。囲み会見でテレビクルーから「次の構想は?」と水を向けられると、かぶせ気味に「ないです」と答えました。続けて、「いまは放心状態です」とも。
気になったのはXにあった「肉体改造」という言葉です。
ここで羽生選手を長きに渡ってサポートしてきた味の素株式会社スポーツ&ヘルスニュートリション部・栗原秀文さんの対談の一部を紹介します。味の素KK公式YouTubeチャンネル『羽生結弦選手ロングインタビューVol.3』(2025年5月28日配信)に、こういうやり取りがありました。
「腱反射」とは
栗原:4回転半を目指そうとなっていた時、ハムストリングス(腿裏)強化をスクワットで結構やっていた。結構、下肢を鍛えていた。
羽生:北京(冬季五輪)前ですね。
栗原:「だけど」って言ったんだよね、結弦くんが。「あとは、腱なんだよ」って。僕も「腱反射じゃねえの?」って言おうと思っていた時に、まさにドンピシャで腱って言ってくれたのが、すごく面白い。同じことを考えていたんだと。
羽生:そういうの(腱)の研究がわりと進んでいて、科学的に証明されつつあるものが多かった。
栗原さんの言う「腱反射」とは、筋肉の無意識的な収縮反応のことです。大脳を介さずに脊髄レベルで生じます。
また腱反射は、アスリートが日常的に口にする「バネ」とも密接な関係があります。言うまでもなくバネは加齢とともに衰えていきます。一般的には「20歳から30歳がピーク期、30歳から40歳が緩やかな低下期、50歳から60歳が顕著な低下期」と言われています。
これを遅らせるには、プライオメトリクス(跳躍系)のトレーニングを集中的に行うことに加え、栄養や休養を最適化する必要があります。
以前、小欄で、羽生選手の珠玉のパフォーマンスは“特権的肉体”に支えられている、と書いたことがあります。それをどう維持し、どう再強化するのか。羽生選手の姿が羽根を休め、再び飛び立つ前の「不死鳥」に重なります。

二宮清純