2025年12月15日(月)更新
羽生結弦、15年目の「満天の星」
鎮魂と再生、そして希望を求めて
日本テレビ放送網株式会社と株式会社BS日本は11日、アイスショー「東和薬品 presents 羽生結弦 notte stellata 2026」の開催を発表しました。日程は2026年3月7日、8日、9日の3日間で、いずれも宮城県利府町にあるセキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ・21)で行なわれます。
「希望を生み出す」
「notte stellata」は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災者に希望を発信することをコンセプトに2023年3月からスタートしました。いまでは東日本大震災だけでなく全国で起きた災害の被災者に希望を届けるためのイベントになっています。
ところが、このショーの座長を務めるプロフィギュアスケーターの羽生結弦選手は8月15日から、“充電期間”に入っています。本人の言葉を借りればメンテナンス期間です。復帰の時期については公式Xアカウントで<来年の春頃>と述べていました。
満を持して、というべきでしょうか。羽生選手は12月11日、「notte stellata」、開催が発表された日に<再始動、します!>とXを更新しました。その数時間前には「notte stellata」について広報事務局を通じ、以下のようなコメントを出されました。
――:「羽生結弦 notte stellata 2026」開催にあたって。
羽生:僕らの演技している最中だけでも、ノッテステラータというものを見てくださっている最中だけでも希望を感じてほしい。
そのきっかけになりたいっていうのがノッテステラータには込められています。仲間のスケーターと共に、国籍も超えて、一つの輪となって一つの希望を生み出していけたらと思っています。
――:東日本大震災から15年を迎える年の開催について。
羽生:東日本大震災の後に生まれた子どもたちや、東日本大震災の時に記憶がないくらい小さい子どもたちにも、震災が大変だったということや震災があったからこそ学べたことを伝えていくことの意義を感じています。
2023年の第1回のショーは東日本大震災の被災者への励ましと、犠牲者への鎮魂の思いがにじんでいました。会場のセキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ21)は震災当時、遺体安置所として使用されていました。羽生選手には「この場所で滑って、本当に良いのか」という葛藤があったそうです。
子どもたちへのメッセージ
2024年の第2回のショーは、次のような挨拶でスタートしました。
「(東日本大震災から)13年という中で生を受けて、一生懸命歩いている子どもたちに向けて、僕たちはきょう一所懸命、頑張らせていただきます」
羽生選手の思いが、被災者と犠牲者だけでなく2011年3月11日以降に生まれた子どもたちにも向けられていることがよくわかるメッセージでした。
そして2025年の第3回のショーでは、狂言師の野村萬斎さんがゲスト出演し、話題を呼びました。萬斎さんと羽生選手の才能が融合し、止揚することで生み出された「鎮魂」と「再生」の物語は、notte stellataが新しいフェーズに入っていることを示唆するものでした。
このコラムの執筆に取り掛かろうとしていた矢先に、青森県東方沖で震度6強の地震が発生しました。八戸市を中心に大きな被害が相次ぎ、新年を前にして被災地は復旧作業に追われています。
関東大震災を経験した随筆家で物理学者の寺田寅彦さんは、次のような言葉を残しています。
「自身の研究に関係している人間の目から見ると、日本の国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもので、しかも、そのつり橋の鋼索があすにも断たれるかもしれないというかなりな可能性を前に控えている」
日本の国土を「つり橋」にたとえた碩学と、パフォーマンスを通じて被災地の過去と現在、そして未来をつなぐ「かけ橋」たらんとする稀代の表現者。サイエンスとアートの関連についての著作もある碩学が、羽生選手のパフォーマンスを目にしたら、どんな感想を抱いていたか。妄想がふくらむ年の瀬です。

二宮清純





