2026年1月20日(火)更新
羽生結弦、入念に物語を「編み込む」
「REALIVE」に隠された意味とは
プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手がプレーイングマネジャーとして総指揮を執る「“REALIVE” an ICE STORY project」が、4月11日、12日の両日、宮城県利府町内のセキスイハイムスーパーアリーナで開催されます。演出はお馴染みのMIKIKOさんが担当します。満開の桜が羽生選手を待っています。
もうひとつのメッセージ
事務局が出すプレスリリースによると<“羽生が綴る物語”と“スケート・音楽・映像・照明”が一つとなった羽生結弦にしか作り出せない>ものがICE STORYです。
ICE STORYの第1弾“GIFT”は、2023年2月26日、東京ドームで披露されました。羽生選手のこれまでの半生と、これからを氷上で表現することが主なコンセプトでした。ショーを終えた後、羽生選手は、こう語りました。
「今までの人生の中で、“ひとり”を幾度も経験してきました。それは僕だけじゃなくて、大なり小なり皆さんの中にも、存在しているものだと思うんです」
弾2弾の“RE_PRAY” TOURは、2023年11月から2024年4月にかけて全国4会場で催されました。テレビゲームからヒントを得て「生きること」をテーマに、観客に語りかけるように滑りました。
第3弾の“Echoes of Life” TOURは、2024年12月から2025年2月にかけて全国3会場で催されました。羽生選手は、自ら執筆したSF調の物語をベースに構成を練り、「命」の尊さを訴えました。
さて、今回の“REALIVE”an ICE STORY projectは、どうなるのでしょう。
1月11日に開設された公式サイトに、羽生選手のコメントが紹介されています。
<これまで生み出して、一緒に過ごしてきたプログラムたちは、きっと皆さんの中で様々な思い出と共に、息づいているのだと思います。この時代では、生でなくても、何度も見返すことができて、いろんな方に届いて。そうやって私のプログラムたちが、生きている存在になっているんだなって、嬉しく思っています。
だからこそ、二度と同じにはならない、この世界の一秒一秒を、今ここに生きているんだって感じてもらえるように。
唯一無二の、一人一人の感性に、二度と同じ瞬間などないプログラムたちが、届くように。その日、その場所で、その時にしかできないプログラムを届けられるよう、いまの私の身体を通して、魂込めて、全体力を込めて、滑らせていただきます。
また、皆さんの新しい呼吸と、思い出や想いと、プログラムたちが一緒に生きてくれるように。>
タイトルの“REALIVE”は何を意味しているのでしょう。REALとALIVEの造語であることは、容易に察しがつきます。
しかし、もうひとつ別のメッセージが隠されているような気がしてなりません。“REALIVE”からAをひとつ飛ばすと“RELIVE”となり、これは「追体験する」という意味です。
ロラン・バルトの言葉
実は羽生選手、3年前のGIFT終演後の囲み取材で、こう語っています。
「僕の半生を描いた物語でもありながら、皆さんもこういう経験あるんじゃないのかな? と思って綴った物語たちです。少しでも皆さんの心に贈り物というか、ひとりになった時に帰れる場所を提供できたらいいなと思い、このGIFTをつくりました」
既にこの時点で、頭の中には“RELIVE”の構想が芽生えていたのかもしれません。
タッグパートナーとでも呼ぶべきMIKIKOさんは、羽生選手についてこう述べています。
<本公演は、羽生くんの再始動の節目を記念して企画されました。
アスリートとしても、表現者としても、進化し成熟していく彼が自らの“これまで”を塗り替え“ここから”を提示するLIVEになります。
この先、表現者としてどのような境地へ向かっていくのか。その可能性を想像する時間として、本公演を受け取っていただければ幸いです。
私たち制作側もまた、彼の挑戦と覚悟に向き合いながら、大切にこの時間を創り上げています。羽生結弦の現在地、そしてその軌跡を、ぜひ会場でご体感ください。>(公式サイトより)
MIKIKOさんの言葉を借りれば、羽生選手が「表現者」として「進化し成熟していく」過程で、彼はもしかすると「過去」までも「塗り替え」ているのではないか。最近、そんな思いにとらわれるようになってきました。
これもMIKIKOさん流に言えば、羽生選手の「現在地」を確認することで、過去のパフォーマンスの再解釈が可能になるのです。たとえばGIFTには、実はこうした秘められたメッセージがあったのか。RE_PRAYには、こうした狙いが隠されていたのか、と……。
さてラテン語では「織物」のことを「texere」と言います。英語では「textile」、すなわち「編まれたもの」で、そこから派生した言葉が「text」です。文章や文献、あるいは物語や作品を指すこともあります。まさに羽生選手がつむぎ出す「物語たち」は、高品質の「織物」のように、入念に編み込まれているのです。
最後に現代社会の「神話」の生成メカニズムを解明したフランスの哲学者にして批評家ロラン・バルトの言葉を紹介しましょう。
「A work has two levels of meaning: literal and concealed」
(作品には、2つのレベルの意味がある。それは字義通りのものと、隠されたものとである)

二宮清純





