2026年4月21日(火)更新
羽生結弦、31歳の「体・技・心」
圧巻のパフォーマンス支えるもの
プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手が総指揮を執り、自ら出演した「“REALIVE(リアライブ)”an ICE STORY project」が4月11日と12日、宮城県利府町内のセキスイハイムスーパーアリーナで開催されました(初日の観客数は満員の7000人)。公演は整氷及び休憩を挟み第1部「REALIVE」と第2部「Prequel(プリクエル): Before the WHITE」の2部構成。第2部で使用された10曲は、映画「国宝」の音楽と主題歌制作をした原摩利彦さんが作曲したものでした。公演終盤には、羽生選手の次なる単独公演「ICE STORY 4th WHITE…」(開催時期は未発表)が告知されました。
「まだまだ成長段階」
1年2カ月ぶりの単独公演終了後、羽生選手は「すごく疲れました」と言いながらも、充実感に満ちた表情を浮かべていました。
「いろいろ痛んでいる箇所、酷使してきた箇所を、これから先、長く(フィギュアスケートを)続けていくにあたり、メンテナンスをしました。改めてバイオメカニクス、運動力学の観点から見た体の使い方、自分の体の感覚、関節ひとつひとつの感覚を見つめながら、勉強してきました。踊り方、ジャンプの跳び方を含め、少しずつ理にかなったものができるようになってきた。まだまだ成長段階ですが、今、急激に変わっている最中なので僕自身も楽しみ」
このところ、羽生選手がしばしば口にする「メンテナンス」という言葉の意味について、3月16日更新号で、私はこう推察しました。
<本人の言う「メンテナンス期間」とは、体幹を始め、全身の筋肉を鍛えることで瞬発力や持久力を向上させる「強化トレーニング期間」だったと解釈する方が適切かもしれません。「芸術は絶対的な技術力に基づいたものだ」とは本人の弁ですが、「芸術」を支える「技術力」は「体力」「筋力」「コンディション」に裏打ちされます。>
7つのプログラムからなる第1部「“REALIVE(リアライブ)」で、早くもそのことは証明されました。とりわけヒップホップダンスの要素が多分に詰め込まれた「Mass Destruction-Reload-」と「鶏と蛇と豚」は、圧巻のパフォーマンスでした。腕の振りの速さ、鋭さがこれまでよりも数段、増しているように感じられました。
一方で、肩甲骨や背骨の動きは滑らかかつしなやかで、本人が初日公演後に語っていた「関節ひとつひとつの感覚を見つけている」との意味が理解できました。
メンテナンス期間中のトレーニングにより、質量ともに筋肉が増強されたのは、出だしのパフォーマンスからして明らかでした。「ザクッ」「ザー」という氷を切り裂く音は、観る者を異次元の世界に誘(いざな)ってくれます。舞い上がる氷の破片は、まるで花吹雪のようです。思わず見とれてしまいました。
そして、チェンジフットコンビネーションスピン。回転軸は微動だにせず、それにより正確無比なスピンが氷上に刻まれました。
ジャンボ尾崎の言葉
その昔、フィギュアスケートはコンパルソリーだけで競われていました。氷上に8の字などの図形を正確にトレースし、その轍を審判が採点するというもので、今見れば退屈かもしれません。
しかし、その基本的な動きにこそ、フィギュアスケートの妙味はあります。コンパルソリーだけでも、羽生選手は私たちを十分堪能させてくれるのではないか。そんな思いすら抱かせた第1部の演技でした。
スポーツの世界には「心・技・体」という言葉があります。この常套句に「NO」を突き付けた名選手がいます。
2025年の年の瀬に78歳で世を去ったゴルフ界のレジェンド、ジャンボ尾崎(本名・尾崎将司)さんです。国内男子プロゴルフツアー通算94勝は歴代1位。賞金王には12回も輝いています。2010年には世界ゴルフ殿堂入りも果たしています。
ジャンボさんが、「心・技・体」という言葉に抵抗感を持っているという話を人づてに聞き、本人に直接質したことがあります。
返ってきた言葉はこうでした。
「心・技・体って皆言うけどね、一番大事なのは体なんだよ。しっかりとした土台がなければ、いくら技術を磨いても、うまくなるわけがない。精神力が大事? 気持ちで勝てるほどゴルフは甘くないよ。あえて順番を付ければ体・技・心かな」
古代ローマの詩人ユウェリナスの言葉に「健全なる精神は健全なる身体に宿る」というものがあります。この「健全なる身体」の意味を巡っては諸説あるようですが、個人的には、それを問うこと自体が尊い営みではないか、と考えます。果たして羽生選手の見解は?
次回は第2部「Prequel(プリクエル): Before the WHITE」について感想を述べたいと思います。

二宮清純





