2026年5月18日(月)更新
坂本花織、会見でサプライズ発言
有終の美飾った「プラハの名演」
2022年北京冬季五輪で、フィギュアスケート女子シングル銅メダルと団体銀メダルを獲得した坂本花織選手(シスメックス)は、2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪でも女子シングル&団体で銀メダルに輝きました。早くからシーズン後の引退を表明していた彼女は5月13日、神戸市内で現役引退会見を行ない、同月5日に入籍したことを明かしました。
「疾走感を武器に」
坂本選手の五輪以外の主要大会における戦績は以下の通りです。日本選手権は5連覇を含む6回(2018年、2021年~2025年)の優勝。四大陸選手権優勝(2018年)1回。グランプリファイナル優勝(2023年)1回。世界選手権は3連覇を含む4回(2022年~2024年、2026年)の優勝。
坂本選手は引退会見で、記者から「ひと言で表すと坂本選手の武器は何だったか?」と水を向けられ、「(4歳から始めた)スケート人生の前半はジャンプの迫力が持ち味だった」と前置きし、こう続けました。
「ジャンプで自分は戦っていくんだ、とすごく思っていました。シニアに上がった1~2年目はまだ自分はジャンプを全部成功させないと勝てない、下の点(演技構成点)が他の選手に比べて低かったので何としてもジャンプで加点を稼ぐんだという気持ちでずっとやっていましたので、最初はジャンプが取り柄だったんです。しかし、(競技人生の)後半になって段々とスケーティングを学ぶ機会が増え、スケートの伸び、疾走感が武器になってきた。そこはやっぱり誰にも負けないところかな」
さらには、こうも。
「(小声で)一言で表すのはちょっと難しいですねぇ……。(報道陣に対して)なんか、いい言葉、思い浮かびますか? 挙手制でどうぞ(笑)」
報道陣に逆に問いかけるなど、なごやかな雰囲気で会見は進みました。
2月のミラノ・コルティナ五輪は、優勝したアリサ・リウ選手(米国)と1.89点差で惜しくも銀メダル。出場を回避するのでは、と見られた3月のチェコでの世界選手権は、当初「何とも言えない」と言葉を濁していましたが、意を決してプラハへと向かいました。
3月25日(日本時間)、O2アリーナでの女子ショートプログラム(SP)。最後から2番目の滑走となった坂本選手は、ミラノ・コルティナ五輪と同じくネイビーと水色のワンピース姿で「Time To Say Goodbye」を演じました。左手をひらひらとさせる振り付けはまるで、観客に手を振っているように映りました。コンビネーションを含む3つのジャンプを全て決めるなど、ノーミスの演技。得点は今季SP世界最高となる79.31点。トップでフリースケーティング(フリー)につなげました。
集大成のスコアシート
28日(同)のフリー。最終滑走者として臨んだ坂本選手は、ワインレッドを基調とした衣装で「愛の讃歌」を披露しました。ミラノ・コルティナ五輪では、痛恨の単独ジャンプとなった3回転フリップ+3回転トーループを見事に成功させました。そしてコレオシークエンスでは、武器である伸びのあるスケーティングで観客とジャッジを魅了。投げキスの振り付けは、最後の別れを惜しむかのようでした。SP同様こちらもパーフェクトな演技でフィニッシュ。フリーは自己ベストを更新する158.97点。合計点238.28点もパーソナルベストでV4を達成しました。
最後のスコアシートが彼女らしさを物語っていました。SP、フリーともに演技構成点でトップでした。今大会において、3項目(構成、表現、スケートスキル)全てで9点台を叩き出したのは、彼女ただひとりでした。
これだけの成績を残した坂本選手ですが、トリプルアクセル(3回転半)や4回転ジャンプといった、いわゆる“大技”をレパートリーに持つことはありませんでした。21年間という長い競技人生で、トリプルアクセルの練習に着手したことは何度もありました。2025-2026年シーズン前のオフもトリプルアクセルにトライしたのですが、「いけへんかった」と言います。
ジュニア、シニア問わずトリプルアクセルを跳ぶ女子スケーターが主流になる中、坂本選手は、精度の高いジャンプ、スケーティングの質、そして誰をも柔らかな布で包み込むような包摂性にみちた表現力で、世界を魅了し続けました。
再び引退会見。思い出深い大会について聞かれた彼女は、その1つに「最後のチェコでの世界選手権」と答え、「(理由は)言わずもがな。思っていることは(質問した記者と)一緒だと思います」と続けました。記者の「有終の美をしっかり飾れたから?」との問いに坂本選手は間髪いれず「はい」と答えました。
「将来的にはコーチ業に専念しますが、まだ自分が動けるうちはアイスショーに出たり、スケート教室もやる予定です」と坂本選手。思い描く将来像についてはこう語りました。
「技術だけではなく、人間性の部分もいろいろ伝えられたらと思います。技術はそれぞれの子にあった指導ができるようにしたいです」
コーチとして、キスアンドクライの場に現れる日も、そう遠くはなさそうです。

二宮清純





