2024年8月28日(水)更新
まるでドラマのような劇的な大記録達成です。8月23日(現地時間)、ドジャースタジアムで行われたタンパベイ・レイズ戦。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は4回裏に今季40盗塁目の二盗を決めると、3対3の9回裏、自身初のサヨナラホームランによる40号満塁弾で、メジャ―リーグ史上6人目の「40本塁打、40盗塁(40-40)」を達成しました。
まずは4回裏の盗塁です。スコアはレイズの3対0。この日も1番DHで出場した大谷選手は無死から内野安打で出塁します。
続く2番のムーキー・ベッツ選手はライトライナーで1死となりましたが、3番フレディ・フリーマン選手の初球にスタートを切りました。タイラー・アレクサンダー投手のフォームを完全に盗んだ大谷選手に対し、ロブ・ブラントリー捕手は二塁に送球することができませんでした。
DHに専念する今シーズン、大谷選手はキャンプ時から積極的に盗塁や走塁練習に取り組んできました。守りで貢献できないのなら、バットだけでなく、足でもチームに貢献したい――。最新機器「スプリント」を用いての瞬発力を高めるトレーニングからは、そんな思いがひしひしと伝わってきました。
ルール改正も大谷選手には追い風となりました。昨季からベースの一辺が7.6センチ拡大されたことにより、塁間が約11.4センチも短くなりました。
ベースの拡大についてはふたつの狙いがありました。ひとつはクロスプレーによる故障リスクの低減です。ベースが小さいと、スライディングやタッチを巡る接触が多くなり、必然的にケガのリスクも高まります。故障防止という観点からも好意的に受け止める選手がほとんどでした。
もうひとつは、盗塁を企図する選手が増えることによる野球の活性化です。これにより22年に2486だった盗塁数は、23年には3503に急増しました。
加えて今季から導入された牽制球の制限も、ランナーには追い風となりました。ピッチャーは3度目でアウトにしないとボークをとられるわけですから、牽制球は事実上2度しか投げられません。試合時間短縮のためのルール改正でしたが、これも盗塁数増加につながりました。
クライマックスシーンは3対3の同点で迎えた9回裏に訪れました。先頭の5番ウィル・スミス捕手が死球で出塁します。続く6番トミー・エドマン選手がセンター前ヒットで、無死一、二塁。そこから7番ミゲル・ロハス選手の犠牲バントで1死二、三塁となります。8番ギャビン・ラックス選手はセカンドゴロに倒れ2死二、三塁に変わりましたが、9番キケ・ヘルナンデス選手の代打マックス・マンシー選手が四球を選び2死満塁。チームメイトのお膳立てにより打席に入る前、誰よりもチームの勝利にこだわる大谷選手は、「ヒットでもフォアボールでもいい」と考えていたようです。
レイズの左腕、コリン・ポシェ投手の初球スライダーを引っぱたくと、打球は右中間スタンドに飛び込みました。センターのホセ・シリ選手がジャンプしましたが、打球はその上を越え、最前列にいたファンのグラブに当たってグラウンドにはね返ってきました。
大谷選手は人差し指をスタンドに向かって突き上げ、三塁を回った際にはヘルメットを投げて喜びを表現しました。ホームベースの手前にできたチームメートによる“ドーム”をくぐると、その先には歓喜のシャワーが待っていました。
ちなみに「40-40」を達成した選手の中で、これまで最速はアルフォンソ・ソリアーノ選手(当時ワシントン・ナショナルズ)の147試合目。それよりも21試合早い大記録達成は、前人未到の「50-50」をも視界にとらえるものでした。
「おとぎ話のようだ」とはドジャースのデーブ・ロバーツ監督。私たちは、大谷選手と同時代に生きることのできる喜びを、神様に感謝すべきかもしれません。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。