2025年3月26日(水)更新

佐々木朗希、修羅場の「胆力」
メジャー成功を予感させる2球

 ロサンゼルス・ドジャース佐々木朗希投手のメジャーデビューは、ほろ苦いものとなりました。3月19日、東京ドームでのカブス戦。3回を投げ、1安打5四球3奪三振の1失点でマウンドを降りました。なお東京シリーズ2戦目のこのゲーム、大谷翔平選手に今季初ホームランが飛び出し、ドジャースが6対3で勝利、連勝を手土産に帰国しました。

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圧巻の立ち上がり

 佐々木投手の立ち上がりは圧巻でした。1回裏、先頭のイアン・ハップ選手に投じた初球のストレートは、ボールにこそなりましたが160キロ。3球目、161キロのストレートでレフトフライに打ち取りました。

 この試合を私はバックネット裏から観ていましたが、佐々木投手はリリースの瞬間、「ウオッ!」という軽いうなり声を発します。スピードが増すたびに、そのうなり声も大きくなっていきました。

 そして2番・鈴木誠也選手への初球、ついに、この日最速となる162キロ(球場表示は163キロ)を計測しました。MLB初三振は、内角高めへの160キロのストレートで日本人の先輩から奪いました。3番カイル・タッカー選手も160キロの内角ストレートでセンターフライ。マウンドを降りた佐々木投手に背に、万雷の拍手が降り注ぎました。

 しかし2点リードで迎えた2回裏に入り、急にコントロールを乱します。ストレートが高めに浮き始めたのです。先頭の4番マイケル・ブッシュ選手に四球を与え、無死一塁。続く5番マット・ショウ選手の打席ではピッチクロック違反をとられてしまいます。これに動揺したわけではないでしょうが、1死後、6番のダンスビー・スワンソン選手にも四球を与えてしまいました。

 3回、先頭の8番カーソン・ケリー捕手をストレートで一塁ゴロに打ち取ったまではよかったものの、9番ジョン・バーティー選手に内野安打を許します。ランナーがいる場合、18秒以内に投球動作に入らなければなりません。時間をオーバーするとボールカウントがひとつ追加されます。

ピッチクロックの洗礼

 ピッチクロックの洗礼を受けた佐々木投手、心なしか左肩の開きが早くなったように見えました。コントロールが定まらず、あろうことかハップ選手、鈴木選手、そしてタッカー選手に3連続四球を与え、押し出しで1点を献上してしまいました。まさかMLB初失点が押し出し四球で記録されてしまうとは……。本人はもとより、誰ひとりとして想像していなかったでしょう。

 しかし、ここから佐々木投手は本領を発揮します。4番のブッシュ選手を外角のストレートで見逃し三振に切って取り、続くショウ選手をスライダーで空振り三振に仕留めたのです。

 不意に脳裡をよぎったのが、元ドジャース野茂英雄さんのMLBデビューです。1995年5月2日、敵地キャンドルスティック・パークでのジャイアンツ戦。1回、3連続四球でいきなり2死満塁のピンチを招いたものの、6番のロイス・クレイントン選手をフォークボールで三振に打ち取りピンチをしのいだのです。

「ランナーはいくら出したっていいんですよ。本塁に還さなきゃ」

 試合後、何食わぬ顔で、野茂さんは語りました。

 話を佐々木投手に戻しましょう。押し出しで1点こそ失ったものの、最少失点にとどめたのはさすがです。下手をすると大量失点を招きかねない場面で、出力をマックスに持っていけるのは、「胆力」が備わっている証拠です。満塁でブッシュ選手とショウ選手から三振を奪った魂のこもったあの2球は、MLBでの成功を存分に予感させるものでした。

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二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

メジャーリーグもプロ野球も。

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