写真:二宮清純

二宮清純コラムリングサイドの記憶

毎月第2月曜更新

2022年11月14日(月)更新

A猪木VS大木金太郎、ゴング前の宣戦布告
遺恨をケンカマッチに昇華させた猪木の戦略

 アントニオ猪木さんが亡くなってからというもの、多くのプロレスファンが過去の名勝負について回想する機会が増えてきました。

デビュー戦の相手

 モハメド・アリとの“世紀の一戦”とは別の意味でリング上に殺気がみなぎっていたのが今回紹介する大木金太郎さんとのNWF世界ヘビー級タイトルマッチです。

 1974年10月10日、東京・蔵前国技館。猪木さんは6度目の防衛戦の相手に日本プロレス時代の先輩である大木さんを迎えます。

 実は大木さんは、猪木さんにとってデビュー戦の相手でした。入門したのは大木さんの方が7カ月先で年齢は14も離れていました。1960年9月30日、ジャイアント馬場さんとともにデビュー戦のリングに上がった猪木さんですが、馬場さんが田中米太郎さんに勝ったのに対し、猪木さんは大木さんに逆腕固めで敗れています。それからも猪木さんが大木さんに勝つことはありませんでした。

 この試合の7カ月前、猪木さんは所も同じ蔵前国技館で国際プロレスのエースだったストロング小林さんと“昭和の巌流島決戦”を行い、踏ん張らなければならないはずの足が宙に浮く、伝説のジャーマンスープレックスホールドで3カウントを奪っています。

 小林さんとの対決がエースの意地のぶつかり合いであったなら、大木さんとの一騎打ちは、ズバリ言ってケンカでした。試合前のインタビューで、大木さんは「自分には一発という武器がある。これで猪木を破壊する」と猪木さんを挑発します。一発とは、得意技の頭突きのことです。一方の猪木さんは、「相手の出方次第で、どういう試合になるかわからない」と煙幕を張ります。

 おそらく猪木さんは、大木さんの能力を最大限引き出すためにも、最初からケンカマッチにすることを決めていたはずです。長年わだかまっていた遺恨を最大限利用しようと考えたのでしょう。

キム・イルの真骨頂

 猪木対小林戦が決まった後、韓国から戻ってきた大木さんは、突然、記者会見を開き「私はインターナショナルのチャンピオンだ。猪木小林戦をやるんだったら、その勝者、そしてPWFチャンピオンの馬場選手に挑戦したい」と切り出しました。

 これに怒ったのが猪木さんです。「オレを馬場よりも下に見ているのか!ふざけんな!もうオマエなんか相手にしない!」。かつて大木さんは猪木さんにとって兄弟子でした。しかし、もう今は立場が違うというわけです。

 案の定、試合はゴングが鳴る前から荒れ模様でした。ゴングが鳴る前、先にガウンを脱いだ猪木さんは、まだガウンを脱いでいない大木さんに、いきなり殴りかかったのです。セコンドの坂口征二さんが慌てて止めにはいるほどの“暴走”ぶりでした。

 寝技に移ってからも猪木さんは一切、手を緩めません。大木さんの顔面にヒジをゴリゴリ押しつけながら鬼のような形相をカメラに向け、見得を切ります。

 ハイライトは「猪木を破壊する」との宣言通りの大木さんの頭突きのラッシュです。両手で猪木さんの髪をわし掴みにしてのパッチギ(頭突き)の連打はケンカファイター、キム・イルの真骨頂でした。

 これは今は亡きプロレス評論家の菊池孝さんから聞いた話ですが、生前、力道山は「プロレスをやらせたら馬場が一番強い。レスリングなら猪木、ケンカなら大木だ」と語ったそうです。

 大木さんの頭突きを食うたびにキャンバスに崩れ落ちる猪木さん。ノーガードのまま立ち上がり、自らの額を指して「もっと打ってこい!」と挑発するのです。この試合、一番の名場面です。ついには一本足頭突きまで食らってしまいますが、パンチを繰り出して窮地をしのぎ、大逆転のバックドロップ。息をもつかせぬ13分13秒の死闘でした。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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