2023年5月8日(月)更新
G馬場“32文ロケット砲”の衝撃
なぜ、あの巨体で空を飛べたのか
師匠はモラレス
ジャイアント馬場さんには数多くの必殺技がありました。16文キック、脳天唐竹割り、ヤシの実割り、河津落とし……その中で、ひとつあげろと言われれば、“32文ロケット砲”と呼ばれたドロップキックにとどめを刺します。
馬場さんにはドロップキックの師匠がいました。“ラテンの魔豹”と呼ばれたペドロ・モラレスです。馬場さんに聞くと、「1964年にロサンゼルスに遠征した時、教えてもらったんだ」と語っていました。
しかしモラレスと馬場さんとでは体格が違います。モラレスが身長178センチ、体重108キロ。ゴムまりのような体をしているのに対し、馬場さんは身長209センチ、体重145キロの超大型レスラー。
いったい、どのようにして馬場さんはドロップキックをマスターしたのでしょう。そして、ドロップキックの肝は?
今から40年近く前、直接、本人に訊ねると、例の口調で「あれはねぇ、皆攻撃の技だと思っているけど、受け身が一番大事なんだよ」という答えが返ってきました。その時点で、私は1本取られたような気分になりました。
――受け身ですか?
「そう、オレみたいな(大きな)体で(空を)飛んで、受け身が下手だったら、相手にダメージを与えるどころか、こっちがダメージを負ってしまうよ」
逆に言えば、それだけ馬場さんは受け身に自信を持っていたということです。
「ドロップキックには正面飛びと横飛びの2種類あって、オレは横飛びの方。横飛びは、自分のきき足でマットを踏み切った後、体のひねりを加えて相手の体を両足でキックし、さらに体を反転させて、うつ伏せの状態でマットに着地するのが基本形。ただ、体のひねり方は進行方向に向かって右回り。それが相手レスラーに対するひとつの礼儀なんだ。それによって相手は前もって受け身の体勢がとれ、ケガをしなくてすむというわけ」
強靭な下半身
ひと呼吸おいて馬場さんは続けました。
「それに対して、正面飛びは両足で踏み切った後、あまり体のひねりを加えないで、瞬発力だけを利して相手の体をキックするのが基本形。相手の意表をつくことで、確かに威力は大きいかもしれないけど、背中で受け身をとらないといけなくなるからね。あるいは腹から落ちたり……。これはあまり薦められないね」
話を聞いていて思ったのは、馬場さんのプロレス観の根底には受け身があるということです。「オレが初来日のレスラーを相手にする時は、必ずといっていいほど受け身に注目するよ」とも語っていました。
馬場さんはモラレスに、いわばオーソドックススタイルのドロップキックを教わったわけですが、最初はうまくいかなかったそうです。目標物をしっかり確認し、両足(または片足)で標的をとらえた後は下に敷いたマットの上で受け身を取る――。これを繰り返し行うことで、試合にも使えるようになったそうです。
馬場さんのドロップキックが、いかに強力だったか。なにしろ209センチ、145キロの巨体が空に浮き、そのまま襲いかかってくるのです。しかも馬場さんの足腰は強靭で、空中でひねりを入れるため、ロケットというよりミサイルのような趣がありました。
私の記憶では当時、身長2メートル超のプロレスラーで、ドロップキックを売り物にしている選手はいませんでした。
モラレスの指導に加え、馬場さんが高校、プロ野球を通じてピッチャーをやっていたことも大きかったと思われます。馬場さんの投球フォームの写真を見ると、右足を軸足にして、左足を大きく上げています。軸足が強かったからこそ、しっかりと踏み切ることができたのではないでしょうか。もし馬場さんに強靭な下半身がなければ、この規格外の必殺技が世の出ることはなかったでしょう。
二宮清純