2023年12月11日(月)更新
“殺人鬼”キラー・バディ・オースチン
“脳天杭打ち”の背筋も凍る恐怖感。
“狂犬”あるいは“殺人鬼”の異名をとったキラー・バディ・オースチンは48歳(諸説あり)の若さで世を去っています。死因は食道がんでした。酒臭い息を吐きながら戦っていたというエピソードもあります。無頼派レスラーの代表格でした。
風貌も“殺し屋”風
オースチンが初来日を果たしたのは1962年4月です。第4回ワールドリーグ戦に出場するためでした。
来日メンバーはルー・テーズを筆頭に、ディック・ハットン、フレッド・ブラッシー、マイク・シャープ、デューク・ホフマン、ミスター・アトミック(クライド・スティーブンス)、ラリー・へニング、アーノルド・スコーラン、グレート東郷。よく、これだけのメンバーを呼ぶことができたものです。さすがは力道山です。
さてオースチンと言えば、代名詞はドリル・ア・ホール・パイルドライバー。当時は“脳天杭打ち”と呼んでいました。
技のかけ方は、いたって簡単です。相手の胴体を逆さに抱え込み、頭を自らの両ひざにはさんだまま軽く跳び上がり、そのままキャンバスに打ちつけるのです。巨漢のレスラーに対しては、胴体に手が回らないため、タイツを掴んで引き上げることもありました。
オースチンは風貌も“殺し屋”風でした。髪はボサボサで両腕にはタトゥーが刻まれていました。しかも黒のロングタイツ。タイツに隠された太ももには女性のヌードのタトゥーが入っていたと言われています。
生前、ジャイアント馬場にオースチンの“脳天杭打ち”について聞いたことがあります。
馬場は「若い頃、オースチンとは何度となく対戦したが、体の大きさが幸いして、そんなに何度もパイルドライバーをくったわけではない」と話していました。
オースチンの身長が188センチであるのに対し、馬場は209センチ。胴体を抱え込んで逆さに吊るすには、大きすぎたのかもしれません。
「首が詰まる」
「だけど、たまにくうと、これが実に強烈で“首が詰まる”んだよ。そして、脳天から背骨にかけてズズーンと痛みが走るんだ」
首が詰まる、という表現が妙に新鮮でした。そこで調べてみると、頸椎は7つの骨から構成されていることがわかりました。外からの力により頸椎に異常が生じると、日常生活にも支障を来たすことになります。
そのため、試合後、首にダメージを受けた、すなわち“首が詰まった”レスラーは、元通りに修復する即席の“荒療治”を行います。
筆者は以前、UWFインターなどで活躍した垣原賢人から、こんな話を聞いたことがあります。
「僕が全日本プロレスでファイトしていた時のことです。三冠戦が終わった控室での出来事。なんと120キロはあろうかという巨漢の整体師が三沢光晴さんの首にタオルを巻き付け、渾身の力で首を引っ張るんです。三沢さんの体が動かないように僕らが押さえ役となり、体の上に乗ったりしていました。この作業は、もはや三冠戦後恒例行事となっていました」
聞いているだけで、首の付け根あたりが痛くなってきそうです。日々、鍛えているレスラーでも、打ち所によっては再起不能に陥ったり、命を落とすこともあるわけですから、プロレスとは過酷な仕事です。
話をパイルドライバーに戻しましょう。馬場さんによると、マットの下にはリングを固定するための鉄骨が縦横に組まれてあり、そこに脳天を打ちつけられると、文字通り目から火花が散るそうです。かけられる方は、たまったものじゃありません。
現役時代、オースチンは2人のレスラーを、この技で死に追いやったと言われています。生活が荒れた理由は、そうした忌まわしい過去にあったのかもしれません。
二宮清純