写真:二宮清純

二宮清純コラムリングサイドの記憶

毎月第2月曜更新

2024年4月8日(月)更新

力道山13回忌興行に参加しなかった
直弟子・アントニオ猪木の“正論”

 東京・日本武道館で、「力道山十三回忌追善特別大試合」が行われたのは1975年12月11日のことです。力道山家が主催したこの興行、思わぬかたちで敵役にされたのがアントニオ猪木でした。

「恩知らずのバカ野郎!」

 若い頃、理不尽な目に遭わされることが多かったとはいえ、力道山は猪木にとって、かけがえのない師匠です。

 暴力団員に刺された傷が原因で、絶命したのが1963年12月15日。その夜、猪木は力道山の夢を見たというのです。

<私はうなされ、金縛りにあった。ふと足元を見ると、黒い影がうずくまっている。力道山だった。じっとこっちを見ている。何かを伝えようとしているような、怒っているような……私はぞっとし、飛び起きた。全身、汗びっしょりであった。それ以来、しばしば力道山を夢に見た。夢に出てくる力道山はいつも何か言いたそうで、そして怒っていた>(自著『猪木寛至自伝』新潮社)

 それほどまでに影響を受けた力道山の十三回忌興行に猪木は参加しませんでした。なぜなら同日、約4キロ離れた蔵前国技館で、ビル・ロビンソンとNWFのベルトを賭けて戦うことが決まっていたからです。

 にもかかわらず、猪木はなぜ力道山家から裏切り者呼ばわりされなければならなかったのでしょう。力道山家の後見人である山本正男さんは、記者会見で猪木のことを「恩知らずのバカ野郎!」と罵倒しています。

 しかし、いくら恩師の追悼のためとはいえ、既に決まっている興行をキャンセルすることはできません。そんなことをすれば違約金の発生はもちろん、テレビ局や国技館など、関係各方面に迷惑をかけます。必然的に新日本プロレスの社長でもある猪木の信用は地に堕ちます。

「アチャラカのショー」

 これについては、猪木の反論に分があるような気がします。

<後から発表しておいて、先に発表したロビンソン戦をやめろというのは横車以外の何物でもない。決して力道山先生の恩を忘れているわけではない。わたしが、いまこうしてあるのは先生のおかげだと思っている。だから、出られれば出たい。しかし出られないのだから仕方がありませんね。そのわたしの気持ちも考えずに記者会見という公式の席で恩知らずだ、馬鹿野郎だというのはもう何をかいわんやです>(『論証アントニオ猪木』日本スポ―ツ出版社)

 この追悼興行、主催こそ力道山家ですが、レスラーを提供したのは全日本プロレス、国際プロレス、日本プロレスの3団体です。ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田、大木金太郎、ヒロ・マツダ、マイティ井上、ラッシャー木村らが参加し、武道館に1万4500人の観客を集めました。興行は成功だったといえるでしょう。

 力道山サイドから、散々「言いがかり」を付けられていた猪木は、余程、腹に据えかねていたのでしょう。この追悼興行を「花相撲」だと切って捨てるのです。要は余興だということです。

<力道山先生がリングで追及したのは、アチャラカのショーではなく、真剣勝負、力と技のロマンですよ。わたしがいまプロレスリングはこうであらねばならぬと思って追い求めているのもそれなんです>(同前)

 さらには、こんな抱負も。

<力道山先生が生きていたら“オイ、カンジ凄い試合をやってくれたな”と頭をこづくような、それが力道山先生の嬉しい時のくせでね。まあそいう試合をやりたい>(同前)

 果たして猪木は、力道山に頭をこづかれるような試合ができたのでしょうか。次回はロビンソン戦について述べてみたいと思います。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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