2025年4月23日(水)更新

大谷翔平、MLB通算150盗塁達成
驚異の成功率から見えてくるもの

「ジャッキー・ロビンソン・デー」として臨んだ4月15日(現地時間)、本拠地でのコロラド・ロッキーズ戦で、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が、イチローさんに次いで日本人選手2人目となるMLB通算150盗塁を記録しました。

ドジャース(大谷翔平・山本由伸・佐々木朗希所属)の放送予定はこちら

左肩の不安解消

 大谷選手が記念すべき150盗塁を達成したのは、1対0でドジャースリードの3回裏です。この回先頭の大谷選手は、ロッキーズの右腕、ライアン・フェルトナー投手から四球を選びます。フルカウントから外角低目、ボールになるツーシームを見切っての出塁でした。2番ムーキー・ベッツ選手がライトフライに倒れ、1死一塁。3番フレディ・フリーマン選手の2球目にスタートを切った大谷選手は二塁手前でスライディングし、右足でベースをタッチしました。

 開幕当初は、左肩をかばうようにスライディングしていました。昨年のニーヨーク・ヤンキースとのワールドシリーズで痛めた左肩(亜脱臼)への負担を軽減するため、ユニホームの胸部分を掴むようにして走り、スライディングに際しても左手を地面につけるようなことはしませんでした。

 ところが、この日は、スライディングのバランスを確保するため、左手で地面を掃きました。このシーンを見る限り、左肩は順調に回復している様子がうかがえます。

 この盗塁がチームを活気づけます。フリーマン選手も四球を選び1死一、二塁。続く4番ウィル・スミス捕手が3ランを放ち4対0。結局このゲーム、6対2でドジャースが勝ちました。

 この盗塁で今季5つ目。失敗はひとつですから、成功率は8割3分3厘です。

 このように盗塁成功率が高いのが、大谷選手の特長です。4月21日現在、メジャーリーグ通算150盗塁で失敗は38。成功率は8割近い7割9分8厘。23年からベースの一辺が約7.6センチ拡大されたり、ピッチクロックが導入されたり、あるいはけん制の回数が2回までに制限されるなど、走者に有利になった点が増えたにしろ、この成功率は驚異的です。

 一般に盗塁を企図した場合の損益分岐点は70%と言われています。ひらたく言えば、成功率が7割を下回った場合はメリットよりデメリットの方が大きいということです。

レバレッジ効果

 盗塁の失敗を忌み嫌ったGMとして知られるのが、米国のノンフィクション作家マイケル・ルイスさんが著した『マネー・ボール』(中山宥訳・ランダムハウス講談社)の主人公ビリー・ビーンさん(現オークランド・アスレチックス野球運営担当副社長兼オーナー付シニアアドバイザー)です。

 2001年にジョニー・デイモンという名選手がアスレチックスに在籍していました。デイモンさんといえば、メジャーリーグ通算2769安打の名選手です。2001年に打率2割5分6厘、9本塁打、49打点、27盗塁という記録を残しました。彼にしては物足りない数字です。

 だがビーンさんが手厳しく指摘したのは、以上の数字ではありません。出塁率(3割2分4厘)と盗塁成功率(6割9分2厘)の低さでした。

<たいがいの人間から見れば、ジョニー・デイモンはずばぬけた1番打者だし、盗塁もうまい。しかしビリーやポール(・デポデスタ、当時アスレチックスGM補佐)から見ると、デイモンは明るくて好ましい性格ではあるものの、他選手でじゅうぶん置き換えのきくバッターだ。2001年の出塁率が3割2分4厘で、メジャー平均より約1分低い。盗塁の才能があるのは事実だが、危険を伴う盗塁という攻撃方法はアスレチックス野球に似合わない。盗塁すれば戦況が変わる反面、約30%の盗塁は失敗に終わる>(『マネー・ボール』)

 こうした理由により、ビーンさんは契約の延長に興味を示しませんでした。もっともボストン・レッドソックスにFA移籍したデイモンさん、04年にはワールドチャンピオンのメンバーに名を連ねるのですから、本人にとってもアスレチックスを離れる選択は正しかったと言えるでしょう。

 話を大谷選手に戻しましょう。彼が、ここぞという場面で披露する盗塁や走塁は、試合の流れをかえたり、チームを勢い付けるレバレッジ効果を有しています。ベンチにいる時以外は、一瞬たりとも目の離せない大谷選手です。

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二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

メジャーリーグもプロ野球も。

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