2025年11月26日(水)更新

ロバーツ監督、最優秀監督賞で0票
されどスター軍団に適したリーダー

 ロサンゼルス・ドジャース史上初となるワールドシリーズ連覇を果たしながら、デーブ・ロバーツ監督は今シーズンのナ・リーグ最優秀監督の最終候補に名を連ねることができませんでした。記者投票により選出されたのは、ミルウォーキー・ブルワーズのパット・マーフィー監督。就任2年目の今シーズンは、レギュラーシーズンで球団史上最多の97勝(65敗)をマークし、2年連続で地区優勝を達成。マーフィー監督は2年連続での受賞となりました。なお、ア・リーグはクリーブランド・ガーディアンズのスティーブン・ボート監督が、こちらも2年連続で選出されました。

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日本は最優秀=優勝監督

 日本のプロ野球にも、連盟特別表彰として最優秀監督賞が設けられています。しかし、戦力に応じた戦績や采配力、指導力、統率力が選考の対象となるMLBとは異なり、日本の場合は、チームをリーグ優勝に導いた監督が両リーグから自動的に選ばれています。

 すなわち今年は、パ・リーグでは小久保裕紀監督(福岡ソフトバンクホークス)、セ・リーグでは藤川球児監督(阪神タイガース)が受賞しました。

 蛇足ですが、最優秀監督賞に対し、かつて私は次のような問題提起をしたことがあります。2010年のセ・リーグの最優秀監督は自身、チームを3度目のリーグ優勝に導いた中日ドラゴンズ監督の落合博満さんでした。

 落合さんの最優秀監督は妥当な選出でしたが、個人的には、もうひとり候補者がいたように思いました。それは東京ヤクルトスワローズの小川淳司監督代行です。

<小川は代行就任時には19もあった借金を完済し、シーズン終了時には4つの貯金をチームにもたらした。彼が指揮を執るようになってからの戦績は59勝36敗3分け、勝率6割2分1厘。この勝率は昨季(2010年)、セ・リーグの最優秀監督に選ばれた中日監督・落合博満の5割6分をはるかに上回る。

 だから小川こそが最優秀監督にふさわしかったのだと言いたいわけではない。私が「納得いかない」のは「最優秀監督賞」でありながら、誰が候補に挙がり、選出を巡ってどんな議論が交わされたのか詳らかでないことである。それとも、「代行」はこの賞の有資格者ではないのか>(スポーツニッポン2011年5月4日付)

ラソーダとの共通点

 MLBに話を戻しましょう。ブルワーズの2025年の選手総年俸は、日本円で約143億円。これはMLB30球団の中で24位です。ドジャース(約460億円)の3分の1以下の総年俸で、レギュラーシーズンにおいては30球団最多の勝ち星を上げたわけですから、マーフィー監督の手腕は称えられてしかるべきでしょう。MLBの球団幹部がしばしば口にするCost-effectiveness(費用対効果)という観点から見れば、リーグ優勝決定シリーズでドジャースにスイープされたとはいえ、今シーズンのブルワーズの戦いぶりは、あっぱれでした。

 とはいえ、チームを2年連続ワールドシリーズ制覇に導いたドジャース・ロバーツ監督が0票だったというのは、ちょっと気の毒な気がします。

 富裕球団を率いる身にも、人知れず悩みはあるはずです。今のチームには、MVPトリオの大谷翔平選手、ムーキー・ベッツ選手、フレディ・フリーマン選手を筆頭に、“フォア・ザ・チーム”に徹している選手が多いとはいえ、ひとつ使い方を間違えると不協和音が生じかねません。その意味で、陽気で裏表のないロバーツ監督は、スター軍団の将にふさわしい人物と言えるのではないでしょうか。

 参考までに紹介すれば、ドジャースからは、過去に2人が最優秀監督賞を受賞しています。「オレにはドジャーブルーの血が流れている」との名言で有名なトム・ラソーダさん(83年、88年)と、ロバーツ監督(16年)です。

 ラソーダさんとロバーツ監督には共通点があります。いわゆる“陽キャラ”で誰に対してもフレンドリー、もうひとつ付け加えれば親日家です。コスモポリタンチームのドジャースには、相性という点において、非常に適しているリーダーと言えるかもしれません。

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二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

メジャーリーグもプロ野球も。

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