2026年2月25日(水)更新

指導者を育成「ドジャースの戦法」
ドジャースが展開する社会貢献活動

 野球の戦術書・技術書・指導書の「古典」と言えば、ブルックリン・ドジャースでプレーし、引退後にはドジャースのスカウトやGMを務めたアル・カンパニスさんが著し、1954年に米国で出版した『ドジャースの戦法』にとどめを刺します。日本では、第3代日本プロ野球コミッショナーとなる内村祐之さんが翻訳し、57年にベースボール・マガジン社から発売されました。

V9巨人のバイブル

 この本の存在を、日本の多くの野球人が知っているのは、川上哲治さんが巨人の監督に就任する際に熟読し、コーチとして招いた牧野茂さんの力を借りて、高いレベルで実践したからです。

 そもそも、カンパニスさんは、どういう狙いでこの本を世に送り出したのでしょう。自著から引きます。
<ベースボールは、今日プレーされているゲームの中で、最も指導を必要とするゲームである。不幸にして、野球の基礎とその理論を研究している人が、ほとんどいない。そしてその結果として、ベースボールにおける十分の資格のある先生や、指導者が少ないのである。この傾向は、世界的なものだ。
『ドジャースの戦法』は、プレーヤー、コーチ、監督が、この偉大なるゲームの基礎と、立派な点を理解する一助たらしめんとして、書いたものである>

 ドジャースがキャンプインするにあたり、あらためて読み返してみました。今から70年以上も前に世に出た本であるにもかかわらず、少しも古びたところがありません。

 冒頭で「古典」と書きましたが、博物館に収蔵する類の本ではありません。今読んでもハッとすることばかりでした。

<多くのコーチたちは、教えすぎる傾向がある。選手たちが、自分の力で欠点を克服したり、またはすくなくともそれを改良したりする場合だってあるのである>

<コーチまたは監督がプレーを教える時期は、ゲームの前か後がよろしい。ゲームの中で、教えたり批評したりすることは、いたずらに選手を混乱させるもとである>

<わがドジャースでは、負けたその日に選手を批評しない方針をとっとっている。ドジャース傘下の小リーグのティームの監督も、この原則を守っている>

アマチュアへの貢献

 この本を熟読したからこそ、川上さんは次のような持論にたどりついたのでしょう。

<選手が育つか育たないかは、じつのところ、その選手の素質とやる気にかかっているが、教え方もたいせつなのである。そして、あまり教えないのと、教えすぎるのとどちらがよいかといわれたなら、私は、あまり教えないほうをとる>(自著『悪の管理学』光文社)

 川上さんといえば「管理野球」が代名詞です。選手の箸の上げ下ろしにまで目を光らせていた印象がありますが、「教えない」のと「教え過ぎ」を秤にかければ、後者の方がより罪深いと明言している点に、私たちは留意しなければなりません。

 話をドジャースに戻しましょう。このチームは2つの意味で、メジャーリーグにおいて先進的な役割を果たしてきました。

 ひとつは国際化です。黒人初のメジャーリーガーとして知られるジャッキー・ロビンソンさんは、1947年、当時会長職にあったブランチ・リッキーさんの尽力によってMLBデビューを果たしました。95年の野茂英雄さんを皮切りに、日本人も数多く、このチームでプレーしました。大谷翔平選手は、移籍した2024年から2年連続でMVPに輝いています。

 2つめは、アマチュアへの貢献です。『ドジャースの戦法』の出版をバックアップしたウォルター・オマリー会長(当時)は、<地方の多くの団体が、アマチュアのティームをもっているが、彼らは経済的の援助とともに、野球技術に関する実際的の知識をも要求している。これらの要望にこたえて、カンパニスは講義録をつくった>と同書で述べています。

 95年にはウォルターさんの息子のピーター・オマリーさんによってドジャース財団(LADF)が設立され、野球を中心にした地域づくり、社会貢献活動を推進してきました。この組織は13年に刷新され、現在はロサンゼルス移転75周年事業のひとつとして、33年までに75カ所のグラウンドの整備・改修という目標を掲げ、社会的格差を抱える地域住民が、気軽に野球やソフトボールに取り組めるような環境整備を進めています。グラウンド外でのドジャースの活動にも注目しましょう。

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二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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