2026年6月24日(水)更新
大記録を逃したというのに、表情はサバサバしているように見えました。6月13日(現地時間)、レート・フィールドでのホワイトソックス戦。ドジャース山本由伸投手は8回2死までパーフェクトピッチを続けながら、味方のエラーでごわさんに。9回には先頭打者にソロ本塁打を浴び、ノーヒッターも逃してしまいました。
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ドジャース6対0と楽勝ムードで試合は8回裏を迎えます。山本投手は、この回先頭のコルソン・モンゴメリー選手をファーストライナー、続くブレーデン・モンゴメリー選手をショートゴロに打ち取り、完全試合まであとアウト4つに迫ります。
打席には6番チェース・マイドロス選手。打球はショート、ムーキー・ベッツ選手の前へ。平凡なゴロのように映りましたが、グラブにおさめることができず、エラーが記録されました。これにより完全試合は未遂に終わりました。
このプレーについて聞かれたベッツ選手、「普通のゴロだったけど捕り損ねてしまった」と自らのミスを素直に認めていました。
チームメイトの心情を慮ったのが山本投手です。「確かに打ち取った打球でしたけど、すごくはねてイレギュラーして。そこに関しては何もないです」とさらりと答えました。
完全試合を逃したとはいえ、まだノーヒッターのチャンスは残されています。山本投手は昨年9月6日(現地時間)のオリオールズ戦(オリオールパーク)で、9回2死までノーヒットピッチングを演じながら、ジャクソン・ホリデー選手にホームランを浴び降板。リリーフした2投手が打たれ、チームは逆転サヨナラ負けを喫していました。
そんなことがあったため、今度こそ、と周囲は期待したのですが、9回裏、先頭のトリスタン・ピーターズ選手にライトスタンドポール際に運ばれ、こちらもごわさんになってしまいました。
それでも前回の登板から積み上げた「打者45人連続アウト」は2014年にユスメイロ・ペティット投手(ジャイアンツ)が記録した「46人」に次いでMLB史上2位タイ。6月23日現在、山本投手は14試合に登板し、7勝5敗、防御率2.65と安定したピッチングを続けています。
さてブルックリン時代から143年の歴史を誇る名門ドジャースにおいても、完全試合を達成したピッチャーは過去にひとりしかいません。ドジャース一筋(1955~57年ブルックリン、58~66年ロサンゼルス)の“伝説の左腕”サンディ・コーファックスさんです。
通算397試合に降板し、165勝87敗9セーブ、防御率2.76。1965年9月9日のカブス戦の完全試合を含め、4シーズン連続4回のノーヒッターを達成しています。
コーファックスさんのピッチングが、いかに異次元だったかについては、パイレーツの主砲ウィリー・スタージェルさんの「コーファックスの球を打つのは、コーヒーをフォークですくって飲むようなものだ」との一言が、すべてを物語っています。
完全試合を達成したカブス戦で、コーファックスさんは14奪三振を記録しています。胸突き八丁の8回と9回、すなわち最後の6人は全て三振に切ってとりました。要するに、三振を取ろうと思えば、いつでも取れたということでしょう。規格外の大投手です。
ところで私がコーファックスさんに興味を持ったのは、高校1年の9月のことです。広島カープファンの私は、ラジオにかじりついていました。1975年、カープは球団創設26年目にして、初優勝の可能性が高まっていました。
ところが優勝争いのさなかで、スイッチヒッターで勝負強いリッチー・シェインブラム(登録名シェーン)さんが、大事な試合を欠場するというのです。
それは9月14日の巨人戦です。古葉竹識監督(当時)が懸命に出場を要請したものの、シェーンさんは首をタテに振りませんでした。
その時は「よりによってこんな大事な時に……」と不満を募らせたものですが、徐々に事の背景がわかってきました。
シェーンさんは敬虔なユダヤ教徒で、その日は「ヨム・キプル(贖罪の日)」に当たります。9月14日の夕方から15日の夕方にかけては一切の労働が禁じられているのです。
MLBに先例があるとして、紹介されていたのがコーファックスさんでした。自身初の完全試合を達成した65年、ナ・リーグを制したドジャースはワールドシリーズでツインズと対戦します。
エースのコーファックスさんは10月6日の第1戦に先発予定でしたが、ヨム・キプル(ユダヤ教に基づく祝日のため、西暦では毎年日付が変わる)にあたったため回避します。それでも第5戦、第7戦で完封勝利を収めたコーファックスさんは、チームを2年ぶり4度目のワールドチャンピオンに導き、自身2度目のワールドシリーズMVPに選出されます。

二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。