声優・速水奨
ロングインタビュー #2
「初めて自分の声を聴き、あまりの下手さに愕然とした」
声優としての自覚が芽生え始めた速水奨の原点とは
2024年9月19日更新
HAYAMI
INTERVIEW
声優界きっての美しい低音ボイスで、色気と包容力に満ちたお兄様から絶対的な力を見せつける悪のカリスマ、またときにはその渋みを逆手にとったコミカルなキャラクターまで数多くの作品で名演を披露し、さらに『ヒプノシスマイク』ではシンジュク・ディビジョンのMCグループ「麻天狼」の神宮寺寂雷役としてラップを完璧に歌い上げ、ファンを魅了し続けている声優・速水奨さん。2013年には独立して、自身の声優事務所「Rush Stlye」を設立。現役でマイク前に立つ声優ながら、事務所代表としての顔も持っています。ところが速水さんにこれまでの歩みについて尋ねてみると、「じつは声優には興味がなかった」という意外な返事が……!このインタビューでは全3回にわたって、その軌跡と出演作品に対する思いをひもときながら声優・速水奨の原点と思いに迫ります。
声優としての原点
『超時空要塞マクロス』
――前回のインタビューでは、劇団四季を辞めてから「アマチュア声優・ドラマ・コンテスト80」でグランプリを受賞し、ラジオやアニメ、イベントなど声優の仕事が入り始めた話をお聞きしました。
速水:そうですね。そこから色々やらせていただく中で、アニメ番組のレギュラーもふたつほど始まり、その後、たまたま他の事務所のマネージャーさんからオーディションの話をいただいて。それが『超時空要塞マクロス』でした。
これが、僕が初めてオーディションに受かった作品でもあり、テレビを通して自分の声を初めて聴いた作品でもあるんです。当時は家庭用のビデオレコーダーでも20万円くらいしましたから、それを初めて買ってね。
Nationalの「マックロード」という製品でリモコンが付いているんですけど、有線なんです。1mくらいの(笑)。でも画期的だったなぁ。
――ビデオデッキが!? しかも有線のリモコン?!
速水:そのときは川崎に住んでいて駅前の電気屋さんで買ったんですけどね、もちろん現金じゃ買えないので「月賦」といって、要はローンですよね。でも信販会社もないし、引き落としでもないから、毎月お店に行って料金を支払って。本当の“信用ベース”ですよね。
で、そんな高い値段のビデオレコーダーを買って、『マクロス』のオンエアを初めて自分で録画してみるわけですよ。そうすると、あまりの下手さに愕然とする(笑)。
――速水さんにも、そんな時代が……!
速水:もちろん、ありますよ。声優なら新人の頃、みんな経験があると思うけど、自分の声だけ浮いて聞こえるんですよね。だから、録画した『マクロス』を観ながら「どうしたらこの浮いた感じを埋められるんだろう」ってずっと考えていましたね。
――アフレコを続けているうちに何か掴めてくるものなんですか?
速水:少しずつ、ですけどね。3クールの作品だったんですが、自分の登場話数を考えると大体半年くらいかな。いろいろ試行錯誤して。
それに演技だけじゃなくて、それまではどの現場に行っても、周りの方ともあまり喋れなくて、ずっと一人ぼっちの感覚が大きくて、「声優なんていつでもやめてやる」って思っていたんですよ。
なんていうんだろうな……防衛本能の強い保護猫みたいな感じというか。
――だいぶ警戒心強いですね(笑)。
速水:それが『超時空要塞マクロス』の現場で、たくさん試行錯誤したり、先輩たちからいろいろなことを教わったり、共演者の方たちと打ち解けてお話しできるようになったりしたことで、少しずつ声優としての自覚を持てるようになってきた。
そのときの経験は今でも自分の中で大きなものだと思いますし、いま僕がここにいる原点だという気がしています。
――速水さんが演じるマクシミリアン・ジーナスは、“マックス”の愛称で長く愛されているキャラクターですよね。初登場時は16歳でしたが『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』では73歳の姿でも登場しています。
速水:当時を思えば、こんなに長くマックスを演じるなんてまったく思いもしなかったですね。こんなキャラクター、なかなかいないですよ。だって、カツオやタラちゃんは何年経っても大きくならない(笑)。
マックスは、作品の中で年を重ねるどころか、もう僕の年齢も超えてしまいましたから(笑)。ただ、彼を演じる上では一緒に年を重ねていっている感覚はあるので、『マクロス7』にしろ『マクロスΔ』にしろ、彼の目線や姿勢、思考というのはすっとなじめる感じがしましたね。
©2021 BIGWEST/MACROSS DELTA PROJECT
揺るぎない正義と優しさを。
『アンジェリーク』ジュリアス
――ネオロマンスシリーズの『アンジェリーク』では光の守護聖であるジュリアスを演じられています。
速水:初代『アンジェリーク』が出たのは90年代でしたよね。その時代、「女性向け恋愛シミュレーション」なんてなかったので、そのジャンルを打ち立てた礎みたいな作品だと思います。
当時、スーパーファミコンの技術だとまだ音声がゲームで出せなくて、そんな中で『アンジェリーク』はドラマCDを作ったんですよね。それで、スーパーファミコンのソフトの電源とCDの再生ボタンを同時に流すと、まるでフルボイスかのようにプレイできるという。
――めちゃくちゃクリエイティブ。
速水:技術が足りない中で、アイデアと工夫があったなと思います。
9人の守護聖というのも、当時の男性声優の中で人気がある方々を揃えたという感じだったんですが、これがなかなかに、みなさんひとクセもふたクセもあるような方ばかりで。
みんな個性的すぎて、スタジオでも「和」なんて言葉はまったくなかった(笑)。各々が我が道をゆくような猛者ばかりでしたね。
イラスト・キャラクターデザイン/由羅カイリ ©1994 コーエーテクモゲームス All rights reserved.
――個性派ぞろいですもんね……! 速水さんから見たジュリアスの魅力をお聞きできますか?
速水:揺るぎない正義と優しさ、ですかね。
“揺るぎない何か”って、僕はフィクションの世界にしかないと思うんですよ。
ふつう、生きている人間はどうしたって揺らぐじゃないですか。そんな現実の中で、僕らが作り上げるキャラクターの人物像って“希望”とか“指針”というシンボルになるものだと思うんですよ。ジュリアスはまさしくそんな存在だと思います。
でもその演技となると、これが難しい。彼自身に感情の揺れ動きは少ないですが、逆にそこにピタッと演技がはまらないと、違和感が出てしまう。
じつは個性的なキャラクターっていうのは意外と演じやすくて、一方で振り幅の少ないジュリアスのようなキャラの方が苦労する人は多いと思います。
まっすぐコントロールできないと、観ている人がいろいろなことを類推してしまう。
ジュリアスの演技はそんな類推すらさせない、確固たるものを表現しなければいけないので、じつは演じ手にとってはハードルが高いキャラクターです。
――ジュリアスを演じるときにはどんなことを心がけているんでしょうか。
速水:まずは美しく喋ること。そして正しく丁寧。言葉を崩すことがあってはいけないし、余計な思いが見えてもいけない。強くて優しくて、まっすぐで規律正しい、理想とするような喋り方ですね。
イメージでいえば貴族よりの騎士(ナイト)かな。だれが聞いても「ジュリアスだ」とわかってもらえる。そんな演技を目指しています。
イラスト・キャラクターデザイン/由羅カイリ ©1994 コーエーテクモゲームス All rights reserved.
Nintendo Switch Onlineにてスーパーファミコン版
『アンジェリーク』が配信中!