インタビュー

声優・井上和彦

声優・井上和彦
ロングインタビュー #2

表現のヒントは現実の中にある。
『美味しんぼ』が開いた新たな表現の道

2025年1月24日更新

KAZUHIKO
INOUE
INTERVIEW

『美味しんぼ』の山岡士郎役や、『NARUTO-ナルト-』のはたけカカシ役、『夏目友人帳』のニャンコ先生/斑役など、長年にわたり数多くの名作で主要キャラクターを演じてきた声優・井上和彦さん。その柔らかくも力強い声質で、二枚目のイケメンから愛らしい動物まで、キャラクターの個性と心情を魅力的に表現し、幅広い世代のファンを惹きつけています。2024年には声優50周年を迎え、自伝書『風まかせ』を出版。「どんな状況も肩の力を抜いて楽しむ、どんなことにも学ぶ姿勢を忘れない」という井上さんに、全3回にわたってインタビューを実施。その出演作品や役への向き合い方をひもときながら、声優としての生き様に迫ります。

ヒントは身近にあると気づいた『美味しんぼ』

声優・井上和彦

――『サイボーグ009』と並び、井上さんのお名前を広く世間に知らしめたのが『美味しんぼ』の山岡士郎ですよね。

井上:そうですね。当時、『美味しんぼ』は当時社会現象になるほど、人気がありましたから。『美味しんぼ』のアニメで何か食材が取り上げられると、全国のスーパーの売り上げが変わる、なんて話もありました。

――すごい影響力ですよね。

井上:『美味しんぼ』は、美味しいものは美味しいもので追求しつつ、それだけじゃなく食材の成り立ちからフードロスや後継者などの問題、食事が人の体や心に与える影響まで、根底に食に対する真面目さがあることが、しっかり描かれている作品だったので、そういう意味でも多くの人に影響を与えたと思います。

今でこそそういう作品もほかにあるだろうけど、当時、そんなグルメ漫画はありませんでしたから。

――その中で、演じられた主人公の山岡士郎は、井上さんにとってどんな存在でしたか?

井上:普段はぐうたらなサラリーマン、料理のこととなると途端にスイッチが切り替わって知的で二枚目になる。山岡士郎は、人間の多面性を表現する面白さ、新たな向き合い方を僕に教えてくれた役の一人でもあります。元々はアニメのパイロット版を制作陣が作っていて、どうやら声優もパイロット板そのままのキャスティングで進めるつもりだったそうなんです。ただ原作者の意向でそれが変更になり、もう一度オーディションをすることに。そのオーディションで選んでいただいた、という経緯です。

……なんですが、じつはいざ収録を始めようという直前に、僕が肺炎にかかってしまいまして、急遽3週間の入院をすることになってしまいました。

――なんと……。

井上:「あぁ、これはきっと降板だろうな」と思っていたんですが、そのスタッフさん方が「入院されている間、特番を準備するのでそれで繋ぎましょう」言って、待っていてくださったんです。

入院中にも、音響監督の方がお見舞いにきてくれて。当時発刊されていた『美味しんぼ』のコミックスを全部持ってきて「これ、宿題ね」と言われて渡されました(笑)。

退院するまで、それを病院のベッドの上で読んでいましたね。

――それだけ、「山岡士郎は井上さんじゃなきゃ」という気持ちが制作側にあったということですね。

井上:それは本当にありがたかったんですが……いざ収録が始まったら「かっこよく演りすぎ」というダメ出しばっかり出るんですよ(笑)。「もっとグータラ社員の感じで、ボソボソ喋って」と。

それまで「ザ・主人公」というテイストの役ばかりだったので、「しっかり声を出して喋る」というのが体に染み付いてしまっていたんです。それに、当時の収録って今と違ってアナログじゃないですか。「ボソボソ喋る」と言っても、あんまり音量が小さいと、音楽や効果音に負けてしまうので、「ボリュームをください」とも言われるんですよ。

――「ボソボソ声で、音量をくれ」と(笑)。

井上:そもそもボソボソ声ができないのに、それで音量も上げろと言われても、困ってしまいまして(笑)。「どうしよう」と思っているときに、そのお見舞いに来てくれた音響監督に相談したら、その方がすごいボソボソと話す方だったんですよ。

考えてみたら、ほかのキャストの方々はその音響監督のフィードバックが聞き取れないけど、なぜか僕だけ聞き取れる。「和彦、いま〇〇さん何て言ってた?」「こうだと思います」と、よく共演者にも通訳していたほど(笑)。

「これだ!」と思ってその音響監督の喋り方のテイストを、山岡士郎に取り入れてみたんです。そしたら、その本人から「それ!それだよ井上くん!」って言われて(笑)。

声優・井上和彦

――めちゃくちゃ面白いエピソードですね(笑)。

井上:元々はやっぱり先輩声優や舞台役者などのお芝居がうまい先輩たちから学ぼうと思っていたんですが、そのとき、「お芝居の参考になるのって、芝居がうまい人だけじゃないんだな」ということに気づきまして、以来、周りにいる一般の方も演技をする際の参考にさせてもらうことが多くなりました。

あとは山岡士郎の二面性あるキャラクターですよね。

そうやってボソボソ声で喋る山岡も、料理の話をし始めるととたんにスイッチが入る。そうすると音響監督からも「井上くん、ここからはかっこよくお願いね!」とか言われるんですよ。

そんな山岡を演じたことで、じつはその後、同じように二面性がある役のお仕事を多くいただけるようになりました。『NARUTO-ナルト-』で演じたカカシは普段はどこか抜けた感じがあるけど戦いになるとスイッチが入りますし、『夏目友人帳』のニャンコ先生も斑という上級妖怪である本来の姿を持っています。

――そういう意味でも山岡士郎は、井上さんにとって大きな意味があるキャラクター、作品になっているんですね。共演者の方との思い出などはありますか?

井上:これは放映当時ではなく、最近のことですが今年声優50周年記念公演でやった『エニグマ変奏曲』の東京公演で、上演後にトークショーをやる機会があったんです。そこに栗田さん役で共演していた荘 真由美さんがゲストとして来てくれて。

真由美さん自身は声優を引退なさって、『美味しんぼ』以来、一緒に仕事をする機会はなかったのですが、「井上さんの50周年なら」ということで特別に。30年以上も経っているのに、こうして関係性が繋がって一緒にまたお仕事できる、というのが僕としてはとても嬉しかったですね。

――30年以上も経っていると聞くと、歴史を感じますね。

井上:今は配信サービスやYouTubeでも視聴できるので、たまに見返してみると、いまはもう亡くなってしまった先輩方のお仕事を目の当たりにすることもできてね、「あの人にお世話になったな」「あの先輩のお芝居、すごかったな」とか、いまだに感じるんですよ。

「声優の仕事って、自分がいなくなっても作品の中で生き続けられるんだな」というのは『美味しんぼ』からつくづく感じます。

自分がいなくなった後も、誰かが観てくれて喜んでくれたり、笑ってくれたり、感動してくれる。そんな作品、キャラクターを一人でも多く演じるのが、いまの私の目標でもあります。

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