インタビュー

声優・梶裕貴 ロングインタビュー #1

YUUKI KAZI INTERVIEW

世界中に刺さった「戦え」のセリフ

声優・梶裕貴

――エレンは泣くのも怒るのもいつも本気で、感情が高ぶるタイプのキャラクターだと思いますが、梶さんにとって思い入れの強いセリフはありますか?

梶:作中に何度も登場する「戦え」というセリフは、序盤でも終盤でも印象的ですよね。

序盤は壁に開いた穴を大岩で塞ぐとき、みんなにとってのヒーローになるべく、自分を鼓舞するために叫ぶ。終盤は極限状態のなかで、自分を殺してでも大事な人たちを救うという切なる思いを胸に、鏡を前に一人呟く。そうしなければ前に進めないと、自分をごまかしながら言い聞かせるように。

『進撃の巨人』という作品自体が“見方を変えれば正義も悪も入れ替わる”というドラマではありますが、同じ「戦え」という言葉で、こうも見え方、聞こえ方が違うのかというのは、諫山先生の描く構成のおもしろさですよね。

海外のイベントに行っても「戦え」のセリフを聴きたいとか、サインに添えて書いてほしいということをよく言われます。僕個人だけじゃなく、そして日本だけでもなく、世界中の人たちに刺さる名セリフなんだなと肌で身をもって感じていますね。

――確かに、印象的なセリフですよね。私自身も、「戦え」ってすごくメッセージ性の強いセリフだなと感じていました。観てる人にも「お前は戦っているのか?」みたいに、投げかけてくる。

梶:僕もそうでした。先ほどもお話しましたが、僕は常にファイティングポーズをとり続けていたい人間なので、まさに「お前は戦っているのか?」と問われているようだなと、当時から感じていました。

すごくエレンらしいセリフですよね。

――印象深いシーンでいうと、どんな場面が思い浮かびますか?

梶:今お話したシーンもそうですけど、それ以外に挙げるとすると、Season 2の最後、ハンネスさんが目の前で巨人に食べられてしまうエピソード。これ以上なく自分の力が必要な場面で、でもなぜか巨人になれなくて…自分の不甲斐なさにより大切な人を失ってしまう。そんな自分を嘲りながら慟哭する、そんなシーンです。

原作を読んだ時から非常に印象的でしたし、ずっと「どう演じよう」と思っていた場面でもあります。状況として、エレンが感情的に大爆発している瞬間でしたし、ミカサとのやりとりも、ドラマ全体に関わってくるような重要な描写で。加えて、エレンの中に大いなる力が秘められていることがわかる、物語に“くさび”を打つような大事なエピソードだったので…いろいろな意味で記憶に残っていますね。

進撃の巨人

――実際、どんなふうにその場面のアフレコにのぞんだんですか?

梶:いざ、そのシーンを収録しようというときに、荒木監督に「ここは梶さんにお任せします。梶さんのお芝居に合わせて絵をつくるつもりなので、細かな尺などは気にせず、思いきり自由にやってください」とおっしゃっていただいて。

そうやって信頼してくださっているのも嬉しかったですし、その期待に応えるために、さらに「やってやるぞ」という気持ちが昂まって収録できましたね。

――お芝居に合わせて絵をつくることもあるんですか…?!

梶:そうですね、ほかの作品でもたまにあったりします。

いや、だって絶対に大変なわけです。一応は決まっているはずの尺の中で、アニメーターの皆様が心血を注いで描いてくださっているベースがあるわけですから。それを変更するというのは、並大抵の覚悟ではやれないですよね。でも、その上で「お芝居に合わせて絵をつくります」「いまのお芝居が良かったので絵の方を変えます」と言ってくださっている。責任を感じます。

ただ、やっぱり声優としては嬉しいですよね。「一緒に作らせてもらってるんだな」「自分がやる意味があったんだな」という気がして。先ほどの話にも繋がってきますが、あらためて『進撃の巨人』は、時間や労力を度外視した、作品への並々ならぬ愛と熱量がある現場だったんだなと感じます。

この場を借りて、アニメーターの皆様にお礼を伝えさせてください。素晴らしい作画を本当にありがとうございました!

『進撃の巨人』10年を振り返って

声優・梶裕貴

TVアニメ化してから10年以上続く大作となりましたが、改めて振り返ってみての思いを教えてください。

梶:そうですね。まず、こうして物語の最後の最後まで演じさせていただけたこと自体が、本当にありがたいです。それは『進撃の巨人』や『七つの大罪』もそうですし、おそらく『僕のヒーローアカデミア』もそうなることでしょう。

声優人生20年目にして、10年目前後に始まった作品たちが、10年の時を経て幕を閉じる。長く関わらせていただいてきた作品たちがひと段落するタイミングで、僕の声優も、間違いなくターニングポイントを迎えているなと感じています。

――10年間、ともに歩んできたエレンは梶さんにとってどんな存在ですか?

梶:おこがましいかもしれませんが、自分としては、もはや自分自身というか…魂レベルで「ここまで自分に近い存在はなかなかいないな」と思うくらいにはシンクロしています。まあ「エレンと似ている」と言うと、ちょっと危ない感じもしますが…(笑)。

でも、そんな彼の弱さや脆さ、醜さも含めて、やっぱりすごく似た部分があるような気がしているんです。

進撃の巨人

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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