『七つの大罪 黙示録の四騎士』第2期
メリオダスを演じるにあたって
――2024年秋から『七つの大罪 黙示録の四騎士』第2期が放映されていますが、梶さんは正編で主人公・メリオダスを演じていました。今作では〈黙示録の四騎士〉の一人でもある息子・トリスタンの父親という立場での登場となっていますが、メリオダスに対する思いを教えてください。
梶:『七つの大罪』も『進撃の巨人』と同じように、長い期間をかけて原作を最後までアニメ化していただけた作品。それに伴い、完結まで主人公・メリオダスとして生きられたことを本当に嬉しく、誇りに思っています。しかも今現在、その続編までアニメ化されていて、こんなにありがたいことはないなと感じています。心から感謝です。物語の中心人物だったところから、先輩やライバルとして、キャラクターの立ち位置が変化する役を演じさせていただくことは以前にもありましたが、それが「親」というポジションなのは、自分のなかでもとても新鮮な感覚でしたね。
メリオダスとは、どこか自分のキャリアや立場とリンクするところがあって。物語上だと彼の子どもはもうだいぶ大きくなっていますが、僕自身、彼と同じようなタイミングで自分自身も親になったこともあり、そういった意味でも不思議な縁を感じていますね。
小さな子に接する親、というような表現はメリオダスにはあまりありませんが、それでも、我が子に対して投げかける言葉や気持ちというのは、いまの自分のほうが断然リアリティを持って発せられているんじゃないかなという気はしています。
![七つの大罪 黙示録の四騎士](/special/tv/vod/minogashi_anime/images/interview/kaziyuuki_2/img_program_02.jpg)
©鈴木央・講談社/「七つの大罪 黙示録の四騎士」製作委員会
梶:『七つの大罪』の頃は、メリオダスは「現役最強!」というようなキャラクターでしたが、『七つの大罪 黙示録の四騎士』では、新しい主人公たちや視聴者から、ある意味、伝説的・圧倒的な存在として描かれています。
しかし今作の敵は、そんなメリオダスが本気にならなければ倒せない相手であり、また、そういった描写を入れ込むことで、息子・トリスタンたちがいかに強大な敵に立ち向かっているのかという現実を伝える、間接的演出にも繋がっているのかなと感じています。「メリオダス、ここにあり」と感じてもらえるような重みをセリフに乗せていかなければな、という気持ちもありますね。
『僕のヒーローアカデミア』
作品の魅力と、轟焦凍に対する思い
――先日、第7期が放映された『僕のヒーローアカデミア』ですが、2025年には第8期の放映も決まっています。轟焦凍を演じるにあたって、どんなキャラクターだととらえていますか?
梶:初めの頃は、エンデヴァーとの因縁。父親を憎めば憎むほど、その存在にとらわれていってしまう彼の人物像がありました。「自分ってなんだろう、個性ってなんだろう」と。すごい能力を持っているはずなのに、父親ゆずりのその力が許せない。それが焦凍にとっては、無意識のうちに自分を認められない要素の一つになってしまった。
ちなみに……僕の父親も、正義感が強すぎるがゆえに、息子からすると怖いと思う一面もあったりして、そういった意味では、どこか近いところを感じたりしていました(笑)。
――ややエンデヴァーみのある、お父様だったんですか?(笑)
梶:筋は通っている人なんですけどね。幼い頃の自分にとっては、正直、恐怖の対象でした。
……そう考えると、焦凍もそうですが、『進撃の巨人』のエレンや『王様ランキング』のダイダも、父親の偏執的な人間性に振り回され、人生めちゃくちゃにされている印象がありますね。あと、母親を失ってしまう、というのは僕の演じる役に共通している部分かと。父に苦しめられがち、母を失いがち。あ、僕のリアル母は健在ですからね!(笑)。
――偶然ではない気がしますね……。
梶:もしかするとキャスティングする上で、僕の父親への恐怖感がにじみ出ていたりするのかもしれませんね(笑)。
とはいえ、焦凍は父親だけでなく、兄との問題もかなり複雑じゃないですか。そういった意味では、物語が先に進んで演じれば演じるほど、彼の奥底にある人間性が理解できてくる、という感覚はあるかもしれません。
最初は、復讐心に駆られている印象が大きかったですが、どんどん人間味が出てきているというか。僕自身、父か兄のような感覚で焦凍を眺めているところがあるので、彼の成長が見られるのは嬉しいなと感じてます。
――個人的に、体育祭でのデクとの戦いの中が胸熱なんですが、あのシーンのこともお聞きできますか?
梶:僕にとっても大事なエピソードです。彼が大きく変わるきっかけとなった、緑谷との戦い。彼の魂の叫びに気付かされ、自分を解き放つ糸口が見つかったドラマでした。
あのときの焦凍は、盲目的でしたよね。いつのまにかエンデヴァーのことしか見えなくなっていた。視界には入っているんだろうけど、今まさに目の前にいる緑谷のことすらちゃんと見ていなかったですから。
――確かに……エンデヴァーのほうを見て、デクから「どこ見てるんだ…!」と言われるシーンがありますね。
梶:でも、そのあとの緑谷の言葉で、いま自分が対峙しなければならない相手は紛れもなく、目の前にいる緑谷だということに気づかされる。真っ直ぐに見据えていないと倒せない相手だと。「オールマイトみたいなヒーローになりたい」という幼い頃の夢を思い出し、その夢を叶えるためには「父親の能力は使いたくない」なんて言っていられない、全力を出さなければ決して辿り着けないんだということに気づくわけです。
それが「俺だって、ヒーローに…‼︎」という言葉となり、表に出てくる。あんな状況にも関わらず笑みがこぼれてしまったのは、その瞬間、初めて自分の心の声に従うことできた喜びからでしょうね。
![僕のヒーローアカデミア](/special/tv/vod/minogashi_anime/images/interview/kaziyuuki_2/img_program_04.jpg)
©堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会
――あのセリフで、ブワッと鳥肌が立ってしまいました。そこから焦凍を演じ方も少し変化した部分はあるんでしょうか。
梶:間違いなくありますね。あのシーンを演じたことで、僕自身もようやく彼のことが掴めて、本来の声が出せるようになったな、という感覚がありました。
――ありがとうございます。最後に、梶さんから見た『僕のヒーローアカデミア』という作品の魅力を教えていただけますか?
梶:個性がテーマの本作。シンプルに戦闘に役立つ能力もあれば、人によっては、どう有効活用したらいいのかわからない力だってあります。かと思えば、主人公の緑谷のように、元々“無個性”の人もいたり。そんな繊細なテーマにも関わらず、ファンタジー要素を交えて色づかせ、バトルマンガとしてド派手に描いている堀越耕平先生は、本当にすごい方だと思いますね。
でも、考えてみれば『ヒロアカ』のテーマって、現実世界とも絶妙にリンクしている気がして。
ただ能力があるだけで評価されるかと言えば必ずしもそうではないし、どんなに非力な個性であっても使い方次第であらゆることに役立つ可能性を秘めている。自分の持っている特徴、人との違いをどう生かすか。それに尽きると思うんですよね。
生きにくい世の中で忘れがちですが、きっと誰もが特別で、誰もがヒーローなんです。世界を救うただ一人をヒーローと呼ぶのではなく、みんながみんな、誰かを救い得るヒーローであると、僕はそう信じています。
――お話を聞いていて、とくにヴィラン側の中でもそうなんだなと思いました。
梶:死柄木にだって人生があり、生い立ちがあり、育ってきた環境がある中で、自分の信念がある。きっと善か悪か、数が多いか少ないかって、あまり関係ないんですよ。誰もが同じように認める“正しさ”だけが正義じゃなくて、自分自身が何を感じて、どう行動するか。ヒーロー側にしてもヴィラン側にしても、信念をもって行動すればそれに共感し、認めてくれる人がいるということを、教訓的に示してくれているような気がします。
自分が誰かの救いになること、あるいは自分が誰かに救われること。そういう存在の大切さや尊さを教えてくれる、唯一無二の作品だなと僕は感じています。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃