演じたかったからあえて原作を読まなかった|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』
竈門禰󠄀豆子

――幅広い世代から支持されている『鬼滅の刃』、鬼頭さんは主人公・炭治郎の妹で鬼になってしまった竈門禰󠄀豆子役をやられています。キャストの一人として、この注目されている「鬼滅の刃」をどんなふうにご覧になっていますか?
鬼頭:意外とキャストの一人としては他人事じゃないけど、「鬼滅すごいな!」というくらいの気持ちで眺めています(笑)。
もちろん原作が素晴らしかったからだとは思うんですが、アニメに関しては「関わっているみなさんがすごい!」のが、『鬼滅の刃』という作品だと思うんですよね。ufotable(アニメ制作会社)さんのアニメーションも素晴らしいし、キャストの方々のお芝居も最高、そして音楽のこだわりもすごい……という感じで、力の入れ方がとにかくすごい。
そういう意味では、本当「奇跡みたいな作品」だとは思います。
――鬼頭さんは、『鬼滅の刃』とどんなふうに出会ったんですか?
鬼頭:週刊少年ジャンプの表紙が『鬼滅の刃』だった週に、たまたまコンビニで見かけて「今、こんな作品が連載してるんだ」と思ったのが、本当の最初の出会いでした。
絵がすごく綺麗だし、表紙の一枚絵だけでも目と心が惹きつけられる何かがあって「この作品、絶対面白いに違いない!」って感じた。そのときから、もしアニメ化するなら絶対やりたいなと思っていたんです。
――えっ、作品を読んでないのにですか?
鬼頭:そうです。じつは私は結構あるんですけど、「面白そう!やりたい!」「これ、アニメ化しそうだな」とか思った作品ほど、オーディションの直前に新鮮な気持ちで作品に触れたいから、あえて原作を読まないようにしているんですよ(笑)。
――そうなんですか……!? めっちゃ面白い話。
鬼頭:だから『鬼滅の刃』はガマンしてガマンして、そこから少し時間が経って「オーディションがあります」ってなってから、ようやく原作を読ませていただきました。だから作品に対して熱量が高まりまくっている状態でオーディションにのぞんで。
でも、禰󠄀豆子のセリフは「んー!」とかばっかりだから、オーディションを受けたものの、まったく手応えがなく……。
でも、すっごくやりたかったからオーディション後もマネージャーさんに「鬼滅の結果、どうなりました?」って何度も聞いたりして。やっと結果が出て、禰󠄀豆子役が決まったときは思わずマネージャーさんとハイタッチしたりしましたね(笑)。
――じゃあ結構念願の、というかんじだったんですね!禰󠄀豆子を演じることにプレッシャーを感じたりはしませんでしたか?

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
鬼頭:もちろん人気作品ですし、めちゃくちゃありましたよ!それに禰󠄀豆子を演じていて、「何が正解なのかわからない」というのはずっと感じていたように思います。
鬼になった人間。意識そのものがふつうの人間とはまったく違うだろうし、禰󠄀豆子のことを考えるときは「どこまで自我があるのか」「何をしたいのか」「どんなことを考えているのか」という問いが、つねに頭の中に浮かんでくる。
根本的に自分がなれるはずがない存在なので、いまでも禰󠄀豆子を演じるときは「すごく難しい役だな」と思いながらのぞんでいます。
言葉にならないセリフに込めた心情|
『テレビアニメ「鬼滅の刃」』竈門禰󠄀豆子

――禰󠄀豆子を演じる上では、どんなことを意識されているんでしょうか?
鬼頭:私が演じる禰󠄀豆子の姿に対して「私はこう思ったんですけど、どうですか?」と、提案するような気持ちはつねに持っていると思います。それは、けっして自信がないわけではなくて。
例えば、禰󠄀豆子って「んー!」「ムムムー」とか“セリフ”とも言いづらい言葉ばかりをしゃべるんですけど、やっぱりシーンごとに禰󠄀豆子なりに違う感情があったり、「私はこうしたい」という意思があると思うんですよ。台本にト書き(セリフ以外の指示)が書いてあることもありますけど、全部書いてあるわけじゃないので。
私が禰󠄀豆子のいちばんの理解者になって、「ここは呼びかけたがってる」「ここは独り言」「ここは心配してる」と彼女の気持ちを汲み取ってそれを表現する。言葉ではないけど、ちゃんと声の中身がからっぽにならないようには意識しています。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
――たしかに。言葉のセリフで表現するわけじゃないからこそ、より感情の表現を意識されているんですね。
鬼頭:逆に禰󠄀豆子を演じたことで、「……」や「息づかい」の演技一つをとっても、いろいろな演じ方があることもわかったので、ほかの作品でもそういうキャラクターの動きをちゃんと自分なりの答えをもってお芝居できるようになってきたとも思います。
あと、じつは血鬼術を覚えてからは禰󠄀豆子も闘うシーンが増えてくるんですが、そのなかで場面によっては体の大きさが変わったりするんですね。で、声って「体という楽器を通して出る音」なので、体の大きさが変われば出てくる音も変わるんです。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
リコーダーにソプラノやアルトといった種類があるのをイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。大きさが違うだけで、純粋に高さも変わりますよね。それは禰󠄀豆子の声を出すうえでも結構意識しているポイントの一つです。

――声優さんならではの観点で、すごく面白いです。鬼頭さんにとって、禰󠄀豆子はいま、どんな存在になっていますか?
鬼頭:声優としていろいろな経験をさせていただくきっかけになったキャラクター。それはいろいろな作品に出演するだけではなく、いろいろなイベントやメディアに展開していくということも含めて。禰󠄀豆子を演じていなければできない経験を、たくさんさせてもらったな、と思います。
声優として、でいうとちょっとしたリアクションや言葉ではないようなセリフで「どんな意図を込めて、深みを出すか」を教えてもらった。ほかの作品でのお芝居のやり方が変わるくらい意識や姿勢に影響を与えてくれた存在、自分を成長させてくれた存在なんだな、というのは常々感じています。
禰󠄀豆子に出会えてよかったし、いまの自分があるのも禰󠄀豆子のおかげだなって思います。
――すでに放送されているアニメを何周もしているファンもいると思いますが、どんなところに注目してほしいですか?

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
鬼頭:やっぱり一番は、炭治郎と禰󠄀豆子の兄妹愛ですよね。竈門兄妹は、本当にお互いのことを大事に思い合っているので、やさしく守ってくれるお兄ちゃんがいるから鬼になっても禰󠄀豆子は禰󠄀豆子でいられるし、禰󠄀豆子がいるから炭治郎も頑張れる。
そのお兄ちゃんへの気持ちは、どんなシーンでも禰󠄀豆子を演じるときには意識していることなので、アニメを通じてみなさんにも感じていただけたら嬉しいなと思います。
あとは、じつは『鬼滅の刃』って、声優のお芝居に合わせて絵を変えていただくことが多くて、本当に制作現場のみなさんが一切妥協なく作っているんです。だからこそアニメーションとキャストのお芝居、音がぴったりとハマるし、あの和のダークファンタジーな世界観にもすっと入り込めるんだと思います。
――本当、あらゆるポイントでこだわり抜いたアニメ作品になっている、ということですね。最後にファンに向けてメッセージをお願いします!
鬼頭:『鬼滅の刃』は放送開始からずっとずっと高いクオリティで走り続けてきた作品だと思いますが、続けば続くほど絵も、演出も、お芝居もどんどん磨きがかかっていると思います。そのテンションがずっと失速しない、というのはきっとファンのみなさんにも伝わっているのではないでしょうか。
じつはキャスト陣で一度、ufotableさんにお邪魔して制作現場を見学させていただく機会があって、そこで本当に精鋭のプロフェッショナルたちが相当な時間をかけて作っている現場を目の当たりにしたんですよね。
それを見てキャスト陣もさらに気が引き締まりましたし、自分たちがいかにすごい作品を作るのに携わっているのか、というのが客観的に見えました。
だからこそ言わせてもらうと、2025年公開の劇場版をはじめ、今後の『鬼滅の刃』もその期待や想像を超えるものが、きっとお見せできると思います。
なので、ぜひ胸を膨らませてこれからも『鬼滅の刃』を楽しみにしていただけたら嬉しいなと思います。

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃