『Re:ゼロ』の逆転劇には中毒性がある
――改めて、小林さんが思う『Re:ゼロ』という作品の魅力を教えていただけますか?
小林:シーズンごとに少しずつテーマが変わっているとも思いますが、そのなかでスバルの成長というテーマが一貫してあるので、その点は観る人に響く魅力じゃないかなと感じています。
それこそ高校生の時代に、第1期をリアルタイムで観ていた方たちからは「自分のことを観てるみたいだ」というお声をいただくことが多かったくらい。
異世界召喚ファンタジーで可愛い女性キャラも多く登場して…というキャッチーな部分もありますけど、じつは一人一人に濃いドラマがあって、スバルの人間性にも、ほかのキャラクターにもすごく生々しい部分があるからこそ共感してもらえているんじゃないかなって思います。
あとは『Re:ゼロ』ならではの逆転劇ですよね。何度も死んで、繰り返してやり直してもやっぱりダメ。冷静に考えると、「死に戻り」って一回一回がめちゃくちゃ辛いはずなんですよ。
それだけの辛さを乗り越えてもまだダメで精神がもう壊れるほどに絶望してしまった、その先にある希望。わらにもすがる思いで見つける、一縷の光のような逆転劇。
あのどんでん返しはほかの作品にはない『Re:ゼロ』ならではのものだし、抑圧し続けたものを解放するような中毒性があると思います。
――確かに、鬱に鬱を重ねていく展開も結構多いですよね。個人的にはエミリアをはじめ、レム、ベアトリスやスバルとの関係が、徐々に深くなっていくのも楽しみです。
小林:じつは演じ手としては、スバルってあまり恋愛的な感情というのは持っていない感じがしているんですよ。
エミリアに対しては匂わせるような雰囲気もあるけど、じゃあ「恋人になりたいのか」といえば、それよりも「その人の特別な存在でありたい」という気持ちのほうが強い気がしています。第2期の最後で、それが「エミリアの騎士になる」という形で実現できたのはすごくよかったような気がします。
一方でレムに対しては、エミリアに対するものとは少し違う感情があると思っています。
ここはすごく言い方が細かいんですが、僕の中では、エミリアはスバルにとっての頑張“る”理由になっていて、レムはスバルにとっての頑張“れる”理由になっていると思っています。
――頑張“る”理由と、頑張“れる”理由……!
小林:それって本当に微妙な差で、スバルが異世界に来てた出会った順番。
エミリアはスバルにとって、この世界で最初に自分を助けてくれた存在なんです。それから困っている人を放って置けない彼女を観て、スバルは自分も彼女の力になりたいと思う。「エミリアたんのために頑張りたい」という感じ。
でも、レムはそんなふうにエミリアのために頑張る自分を一番近くで肯定してくれる。そして好きでいてくれる。スバルからすれば、「レムがいなきゃ、俺は頑張れない」という気持ちはすごく強いと思います。
――なるほど。すごくわかりやすいですし、演じている方が言うとすごく重みがある気がします。一方で、ベアトリスに対しての思いは、どんなふうにとらえていますか?
小林:ベアトリスに対しては第2期の終わりで、スバルが一番影響を与える存在になったので、禁書庫から連れ出した時点でもう一蓮托生という感覚でしょうね。
もしかすると、スバルがいちばん責任を果たさなければいけないと感じているのは、ベアトリスに対してかもしれません。
こちらも恋愛感情ではないけど、すごく深い絆が生まれている二人ではあることに違いありません。
エミリア、レム、ベアトリス。3人ともスバルとの間に、それぞれまったく違う深い絆が生まれているし、3人がスバルに抱く感情、スバルが3人に抱く感情がそれぞれ違うので、物語の中でそれがどうなっていくのか、『Re:ゼロ』は本当に面白い関係性を描く作品だなぁと思います。
でもだからこそ、取材のたびに「小林さんは誰派ですか?」と聞かれるのはめちゃくちゃ困るんですけどね(笑)。
――確かに! 物議を醸しますもんね。では今回は聞かないでおくことにします(笑)。
小林:ありがとうございます(笑)。
スバルに恥じない存在でありたい
――主役ということで、“座長”という立ち位置でアフレコに臨んだわけですが、どんな気持ちだったんでしょうか?
小林:むしろ、「座長だからってそこまで気負わなくていいんだな」ということを教えてくれたのは『Re:ゼロ』だった気がします。
第1期が始まった当初は、まだ経験も浅くてそんなに余裕がありませんでした。でも主役となると、どこか自分が引っ張らなきゃいけない、中心にいなきゃいけないという思いもある。
最初の頃は、収録が終わるとソファに倒れ込むくらいの疲労感がありました。
でも、そんな姿を見て「一人で頑張らせないぞ!」という思いで他のキャストの方たちが支えてくれるんです。
「座長だから」何か特別なことをするのではなく、一人の声優としてお芝居に真剣に向き合っていれば、自然とみんながついてきてくれて、足並みが揃うんだなということが、そのとき初めてわかった気がします。
――めちゃくちゃいい話。そういう空気感の現場だと、チームの一体感も生まれやすくなりそうですね。
小林:そうですね。みんなが全力で臨んでいた現場だからこそ、ほかのどんな座組よりも仲が良いと思っています。キャストみんなで出演するようなイベントがあっても、安心して任せられるから、僕が一人で「座長だから」と気負わずにいられるのはすごくありがたいですね。
第1期のときにそういう空気ができあがったので、続く第2期で新キャストの方々が入ってきたときも、ちゃんと迎え入れられたと思います。
ただ、第3期の収録は「高校生の頃にアニメ観てました!」というさらに若いキャストさんたちがいて、自分たちが結構な先輩になっていること実感しつつ「その子たちが緊張しないような場を作らなきゃ」と座長としての立ち振る舞いを意識しているかもしれないです(笑)。
©長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活1製作委員会
――ここへ来て(笑)。小林さんにとっては、今スバルはどんな存在だと感じていますか?
小林:ありきたりかもしれませんが、8年間演じてきて、やっぱり自分の一部になっていますし、頭のどこかには常にスバルがいる気がします。
「『Re:ゼロ』が好きです」「スバルが好きです」と声を届けてくれるファンの方が、今でもすごくたくさんいるんですよ。だからこそ、僕自身が彼に恥じない存在になっていないといけないな、とはいつも思っています。
初心を思い出させてくれるような、姿勢を正してくれるような、そんな存在ですね。
スバルを演じてから、声優としての演技の幅も広がったと思いますし、何より喉も強くなりましたしね(笑)。
――もう、アフレコで酸欠になることはありませんか?(笑)
小林:もう全然です(笑)。スバルを演じた次の日も影響が出ないくらいの強い喉になったし、声優として貴重な経験もたくさんさせてもらいました。
そういう意味では、感謝も大きいですね。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃
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