徐々にくだけて人間性や親しみやすさが見えてくる|『薬屋のひとりごと』高順

――現在放送中の『薬屋のひとりごと』では高順(ガオシュン)として、ご出演なさっていますが、すごい人気ぶりですね。
小西:驚くほど、すごく大勢の方に観ていただけて、僕も驚いています(笑)。『薬屋のひとりごと』は絵がすごく綺麗ですけど、とくに色が鮮やかでいいですよね。
時代設定として、本来であれば現代よりももう少し色味が少ない景色が多い時代なんじゃないかと思いますが、鮮やかな色彩で描き出すことで、やっぱり後宮という世界独特の煌びやかな空気感を絶妙に表現しているなと思います。
最近の作品はもう、「絵が綺麗なのは当たり前」になってきましたけど、『薬屋のひとりごと』はその中でもとくに目立つというか、あのクオリティを維持する制作陣の熱量もすごいですよね。
――いち視聴者としても、激しく共感します。反響の声を聞く機会も多いですか?
小西:そうですね。僕らの仕事って「いいものを作った」とどれだけ自分たちが感じていても、観てくれる人がいなければ作品として完成はしないので、「観てます!」と言っていただけるだけでも、すごく嬉しいんですよね。
ほんと内容への感想とかはなくても全然いいので、ぜひ「観てます!」と積極的に声を届けてもらえたら嬉しいです(笑)。
――心がけます(笑)。小西さん演じる高順は、寡黙ながら頼れる中年男性、というイメージがありますが、高順を演じるにあたってはどんなことを意識されたんでしょうか?

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
小西:高順は1を聞けば10のことがわかるタイプだし、逆に相手に伝えるときも言葉を多くしないタイプのキャラクターです。
あまり口数が多くないので、その中でどうやって彼の人間性を表現するのか、そのバランスの表現は難しいなと思います。例えば、絵で表現されているならば、僕ら声優があまりやりすぎないほうがいいなと思ったりするケースもあります。
――ご自身の演技だけでなく、最終的な完成形として観ている方にどう伝わるのかを考えて表現していくんですね。
小西:そうですね。それは高順だけでなくどんな役でも言えることではありますが、キャラクターって僕一人が作り上げるものではなくて、関わる人たちすべてで作り上げるものだと思っているんですよ。絵を描く人、効果をつける人、そして音楽、声。いくつもの要素が重なってできる総合芸術なんですよね。
そう考えると、僕ら声優がやっていることも一つの要素でしかないですし、独りよがりな表現をするのは違うと思うんです。よくこういうインタビューで「小西さんが演じているから」「〇〇役やっていますよね」とよく言われたりもするんですが、心のどこかでは「そうじゃなくて、みんなで作ってるんだけどなぁ」と思います。
その上で、音響監督さんに現場で言われて記憶に残っている言葉というと、「思いっきり振り切っていいよ」ですかね。
――高順の雰囲気からすると意外なディレクションでした……!
小西:高順って物語が進むに連れて、どんどん人間性が出てくるじゃないですか。最初の頃こそ凛とした役人というイメージだけど、物語が進むにつれて困り顔をしたり、呆れ顔をしたり、もっと言うと二等身絵が出てきたりもしますし。徐々にくだけていく感じがあるんですよね。
「そういうときは思いっきり振り切っていいよ」と言っていただいて。
ふだんは仕事ができて頼れる人を意識しつつ、くだけた部分からちょっとした人間性や、親しみやすさが見えてくる。その対照的な要素の振り幅みたいなものは、意識していました。

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
――なるほど。壬氏様とのコミュニケーションを取る場面では、どんなことを意識されていましたか?
小西:じつは壬氏様に対してはツッコミ、とまではいかないまでも、意外とたしなめるような言葉をかけることもあります。
ただ、やっぱり主人ではあるので、それがストレートなツッコミに聞こえてしまわないように、つねに一歩引いた受け答えに見えるように意識しています。
――一方で、高順の視点から見た猫猫(マオマオ)は、どんな人物に写っていると感じますか?
小西:作品としても猫猫を中心に物語が進んで行くし、彼女の洞察力や知識量が、つねに事件解決の糸口になる。
その様子を近くで見ているわけですから、高順は彼女に一目置いているんじゃないかなと思いますね。
きっと高順も猫猫のことは、すごく信頼していると思います。

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
でも、壬氏様と猫猫との関係という話になると、高順からすれば「壬氏様は、どうしたいのか」がまず一番になると思うんですよね。
それがあって、初めて「じゃあ私はこう動こう」と考えられる。その瞬間は主人に使える身としての立場を、大事にしているんじゃないかなと思います。
――ありがとうございます。小西さんから見た『薬屋のひとりごと』の魅力を教えてください。

小西:なんといっても、ミステリーの見せ方じゃないでしょうか。猫猫がいろいろな謎を解決していく。その一つ一つの事件は小さかったりするんですけど、物語が進むに連れて、「どうやらあの事件とこの事件は繋がっている」というのがわかってくる。
オムニバスで楽しんでいたはずの話が、じつは一大長編の物語になっている。その点と点が繋がったときの気持ちよさは、『薬屋のひとりごと』の魅力だと思います。
謎解きは最上級に面白いし、一方で、ズバズバと言いたいことを言ってくれる猫猫のキャラクターというのも、みなさんに愛していただけているポイントなのかなと思います。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃
J:magazine!でさらに
小西克幸のインタビューを読む