セリフ以外の部分を考えると
キャラクターの立体感が出てくる
――前回のインタビューで、「声優はキャラクターの魅力を引き出す仕事」という子安武人さんからの言葉を、今も大事にされているとお伺いしました。岡本さんは、演じるキャラを深く理解するために、どんなことをされているんですか?
岡本:そのキャラの好きなところと嫌いなところを考えるのもそうなんですが、一番はセリフ以外の部分を考えることです。セリフを喋っていないシーン、その場にいないシーンで、そのキャラは何をしているのかを考えたり、“if”の世界を自分で空想して「こう言われたら、このキャラはどんなセリフで返すんだろう」って考えてみたりしています。
その「返しのセリフ」も、空想の中で2パターンを考えることが多くて、成立しやすそうな汎用性の高いセリフと、そのキャラの個性をより尖らせたセリフ。これは「味付けが濃いめと薄めどっちが好き?」みたいなもので、人によって好みが分かれると思いますが、演じるときにそこを突き詰めていくと、キャラがより立体的になっていく気がします。
キャラの作り方は、木村良平さんから教わったことに大きく影響を受けていると思います。
――良平さんからは、どんなことを教わったんですか?
岡本:「そのキャラがとる行動やセリフは、与えられた選択肢のなかで、そのキャラだからこそ出てきた反応。それが1個だけだと点だけど、2個あると点同士が繋がって線になる。3個だと平面になって、4個あれば立体的になる。そうやって、どんどんそのキャラの行動やセリフを考えて、自分の中でその存在を広げていく」と。
――なるほど……!それで言うと、先ほど岡本さんがおっしゃっていた「セリフ以外の部分を考える」というのは、キャラを立体的にしていくための点を増やしていくイメージなんですか?
岡本:まさしく、そうです。前回お話した『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』初回のアフレコにのぞんだときの僕は、「自分の反応」という1点だけで演技をしようと思っていたのでまだ線にも平面にもなっていない、点が繋がっていない状態だったんじゃないかと思います。
――でも、そのキャラを理解する作業って、すごく時間がかかりますよね?
岡本:ちゃんと作り込もうとすれば、一人のキャラクターでも時間がかかると思います。
僕が新人の頃、最終話まで録りきったあとに先輩の方々がよく「最初からもう1回やりたい」と言っていたんですよ。当時は「なんでだろう」と思っていたんですけど、それもやっぱり同じことなんじゃないかと思います。最終話までの間に、そのキャラを演じることで、たくさんの点が増えていくんですよね。それが、キャラを深く理解することに繋がっていくんじゃないかと思います。
今になって、「もう一度、最初から録り直したい」というのは、そういう意味だったんだとわかります。けど、現実的にはそんな時間はないから、そのまま走り抜けるしかない。そこではイマジネーションをどれだけ働かせられるかが大事になると思っています。
好きなことを仕事にできている
声優という職業は、天職かもしれない
――休日は、どんな過ごし方をされていることが多いんですか?
岡本:じつは休むのが苦手で、休日ができるとソワソワしてしまうんですよね。もしかするといちばん心が乱されるのが、休日かもしれないです。
――息抜きがなくても大丈夫なタイプですか?
岡本:そうかもしれないです。今は2月なので、直近だと年末年始にはお休みがありましたが、基本的には休みがなくてもいいと思っています。これが年齢を重ねていって、「疲れが溜まっているな……」と感じるようになったら、休む時間も必要かもしれないですが、今はまだ「休みだ、どうしよう!」という怖さのほうが勝るというか……。
でも、これを言うとみんなからは「それ、ワーカホリックだよ」と言われますね(笑)。
――いや、思いますよ。めちゃくちゃストイック。
岡本:旅行が好きなので、連休があればどこかに行くのかもしれないですけど、大体一日休みが多いんですね。そうすると髪の毛を切りに行ったりとか、仕事に繋がるメンテナンスを、何かしらを見つけてやることが多いですね。
でも、ストイックっておっしゃいましたけど、本当、自分では自分のこと怠惰だと思っているんですよ。
――むしろ、自分のことを「怠惰だ」と考えているからこそ「止まったらやばい!」と思うのかもしれませんね。
岡本:あぁ……そうかもしれないですね。なんか止まったら、すべてが終わってしまいそうな気はしています(笑)。
――それだけ仕事にまっすぐに向き合っている岡本さんですが、何か「座右の銘」みたいなものはありますか?
岡本:これはずっと「好きこそものの上手なれ」ですね。自分だけでなく、人間って昔からそうなんだろうと思います。例えば、勉強ができる人って、やっぱり勉強が好きな人だと思うんですよ。「大学に入るため」「内申のため」と思ってやっていると、やっぱりどこかで自分にムチを打ちながら向かっていて。
それが、知識を吸収するスピードにも影響する。覚えるのが早い人は、知識で満たされていくのが心の底から楽しそうで、次に教わることに対してワクワクしていますよね。適材適所で、そういう人が学者になったり先生になったりして、そのポジションで輝くんだと思うんです。
――だとすると、岡本さんにとっては声優という職業は天職だったんじゃないですか?
岡本:例えばゲームの攻略本があったとして、ゲームのことをまったくわからない方がその攻略本を読んだら苦行ですけど、そのゲームが好きな子からしたら目をキラキラさせて読むと思うんですよね。
それと同じで、僕は台本を読むのが好きですごく楽しいんですが「台本を読むのが苦行」という方もいるかもしれない。作品やキャラクターに向き合っている時間も僕にとっては嬉しい時間ですし、そういう意味では天職だと思ってもいい気はします。