初めて主役を演じたとき
作品を背負う自覚が芽生えた
――青二塾を卒業されて、声優としての活動をスタートした信長さんですが、自分にとって転機になった作品というと、なんだと思いますか?
島﨑:本当にここで挙げたい作品はいくらでもあるんですけど、駆け出しの頃の作品でいうと、やっぱり初めて主役を務めさせていただいた『あの夏で待ってる』ですね。声優としては3年目の頃だったと思いますが、この作品をきっかけにいろいろな作品に呼んでいただけるようになったと思います。
――当時、初めて主役を演じるにあたってはどんな気持ちでのぞみましたか?
島﨑:それまでは、例えば“生徒A・B”のような端役を演じることが多くて、よく先輩からも「爪痕を残せ」というようなことを言われていたんですね。ただ、ある意味「爪痕を残せ」というのは、自分のことばかりを考えていて作品のことは考えられていないじゃないですか。
もちろん、そのエネルギー自体は新人の頃にはすごく大事なものでもあるんですが、それが主役をやるとなったときに、作品を背負うんだという自覚が、少しずつ芽生えてくるんですね。監督や作家と話す機会も多くなりますし、良い作品を作り上げたい、プロモーションを成功させたいというスタッフの思いも見えてくる。一つの作品が、これだけ多くの人の手で、これだけ強い思いをもって作られているという、ある意味当たり前のようにも思えることが、それまで見えていなかったことがわかりました。
この時期から自分の中では明確に、声優が請け負う役割がすごく大事だという気持ちがちょっとずつ大きくなっていくのは、感じましたね。
――声優としての自分の視点ががらりと変わった瞬間だったんですね。そこから学ぶものも多かったんじゃないですか?
島﨑:そうですね。『あの夏で待ってる』で演じた海人については、もうとにかく必死でやるしかなかったので、目の前にあることにただ全力でしたけど、スタッフの方々もディレクションをしながら僕のことを育てようともしてくれていたので、それは本当に感謝でした。「環境は人を育てる」という言葉もありますが、僕にとっては作品と役に育ててもらったという思いが強いです。そういった意味で、転機になったのはやっぱり『あの夏で待ってる』なのかな、と。
ただ、それまでに色々な作品で“生徒A・B”のような立ち位置で見てきたものだったり、「爪痕を残そう」と頑張ったことだったり、そこにも学びはいっぱいあったし、あの期間があったからこそ今があるというのは間違いなく言えますね。
『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』作品の見どころとアルノルトの魅力
――今期では『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』のアルノルト役を演じられていますが、改めて作品の見どころと、演じたアルノルトの魅力を教えてください。
©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会
島﨑:なんといっても、この作品の見どころは設定の緻密さですよね。世界観、人物、各シーンでのキャラの心情に至るまで、本当に緻密に作られているんですよ。事前にいただいた設定資料や、台本のト書きも本当に情報量が多くて、現場でのディレクションもかなり細やかにありました。
僕が演じるアルノルトは、多くは寡黙なキャラなんですが、各場面ごとに言葉にはしていないのに考えていることがすごくたくさんあります。ときにはその思考を悟らせないようにしたり、少しだけ匂わせるようにしたり。すごく複雑な演技ではありましたが、その分見応えがあって、ストーリーや世界設定の緻密さも含めて、何度見ても楽しめる作品になっていると思います。見るたびに発見があるめずらしい作品だと思います。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃