初めての挫折と、
気持ちが切り替わった瞬間
――そこから現在のEARLY WINGさんに所属したのは、どんな経緯だったんですか?
白井:あらためて声優を目指し始めて、まずは81プロデュースという大きな事務所の養成所に入りました。そこは1年後に査定があって、事務所所属か、所属の前段階のいわゆる“預かり”にするかを事務所側が判断する場になるんですね。
当然、全員が受かるわけじゃないので、枠の中に入らなければ事務所には残れない。周りを見渡すと専門学校を卒業した方が多くて、僕は変にその方々よりも経験があったのでどこかで「大丈夫っしょ」という気持ちになってしまったんですね。
そんな気持ちだから、周りに比べて成長スピードもゆったりになってしまって、1年後の査定でバッサリと……。
――どこか慢心した気持ちになってしまった?
白井:そうなんですよ。とくに査定のときも失敗した感覚はなかったのに。
でも今思うと、やっぱり「経験あるし大丈夫っしょ」という人よりも、成長に貪欲な人のほうが事務所からしたら欲しいですよね。
それまでは紆余曲折しながらもなんだかんだ自分で選択してきたつもりでした。でもその時初めて「第三者からの評価される」という基準で挫折を味わった気がしました。
わらにもすがる思いで、アミューズメントメディア総合学院という学校に入学して、また1年間。もう本当に遠回りをしたんですけど「このままじゃダメだ」と思ってそこでスイッチを切り替えて、取り組みました。
――じゃあ、その1年はまた一から出直すような気持ちでやったんですね。
白井:そうですね、向上心をもって取り組んでいたと思います。アミューズメントメディア総合学院は、卒業前には3ヶ月くらいかけてオーディションを行うんですよ。そこでいろいろな事務所に見ていただくことになるんですが、ありがたいことにいくつかの事務所に「来ませんか?」とお声がけしてもらって。
そうなると、それはそれでどの事務所に行けばいいのかはすごく悩むんですよね。
どうしようか迷っているとき、内部事情に詳しい専門学校の講師に相談しに行ったんです。そしたら、「アニメの声優やりたいなら、EARLY WINGさんはいいと思うよ。社長さんはちょっとクセが強いけど」と(笑)。
――そんなことまで教えてくれるんですか?(笑)
白井:そう、その方はすごく詳しかったですね、「レッスンでめちゃくちゃ腹筋するよ」とか(笑)。
当時、EARLY WINGは設立したばかりでまだ小さかったですけど、逆にここから男性声優にも力を入れていこうという頃。それもチャンスだと捉えて、最終的には決断させてもらいました。
実際入ってみると、想像をはるかに超える腹筋地獄の日々が待っていましたけど(笑)。
度胸がついたボウリング場でのDJ
――これまでは、どんなアルバイトをしていましたか?
白井:初めてのバイトでいうと、中学生時代の新聞配達ですね。クラスの友達から「結構いいおこづかいになるよ」と聞いて、始めたものだったんですが、なにせ早起きが苦手だったもので。毎朝5時に母に起こしてもらい、眠い目をこすりながらなんとか行っていました。
とはいえ、地元が長野県なので冬はすごく大変で。雪の中も自転車で配達しなければいけないので、しょっちゅう滑って転んだり、寒くて手の感覚がなくなったり……
――大変そう……!
白井:高校生になると、地域の組合で病院の売店をやっていたんですが、その手伝いのような感じで店番をやるようになりました。ただそこがお客さんも少ないし、働いている間もずっと座っていられたので、すごくやることが少ない(笑)。
今までのアルバイト経験の中でも、「あんなにのんびりできたバイトはないな」というくらいでした(笑)。
そのあとは兄の影響もありマクドナルドでバイトを始めたんです。
――のんびりなところから、一気に意識が高い感じのところに……!結構、厳しい環境も大丈夫なタイプですか?
白井:それは全然、大丈夫なんですよ。基本「やればできる子」ですから!(笑)
小学生の頃から通知表にもずっと、「白井くんはやればできる子、やればできる子。ただ、やらないだけ」と書かれるくらいだったので(笑)。
マクドナルドは働いてみると結構楽しくて、忙しくて大変でもあったけど、思い返すと楽しかったなという思いのほうが大きいですね。
――やればできる子、発揮してますね(笑)。上京してからはどんなアルバイトを経験なさったんですか?
白井:しばらくはコンビニの店員をしていたんですが、あるとき「どうせ働くならば好きなことのほうがいいよな」と思って、ボウリング場で働き始めて。地元にいた頃、ボウリング場が家の近くにあったこともあって好きだったんですよね。
夜9時から朝6時までみっちり夜勤で9時間。大変でもあるんですが楽しいこともあって、営業が終わって後片付けも済むと、店員が自由に投げていい時間があるんですよ。
働いている仲間もみんなボウリングが好きで、中にはプロボウラーの方もいる。その方に教えてもらって、ボウリングの腕前はかなり上がりました。
――いいですね……!アルバイトを通した経験の中で、いまに活きていると思うことはありますか?
白井:そのボウリング場は少し特殊で、フロアにDJブースが設置されているボウリング場だったんですよ。毎晩、夜10時になると日替わりで専属のDJさんが来てくれて、フロアを盛り上げる音楽をかけて、マイクパフォーマンスもするんです。
それがある時、上司の耳に僕が声優を目指していることが入って「試しに、白井くんもDJブースでやってみたら?」と。
「いやいや、声優志望なのでそりゃできますけどぉ……」と軽いノリで返事をして、やらせてもらうことになり(笑)。
――ボウリング場のアルバイトでそんな役目を任されるなんて、面白い経験ですね(笑)
白井:人前で何かをパフォーマンスするという意味では、いい経験だったと思います。それである程度、度胸もつきましたしね。
でも、結構ノリノリで自分としてはやっているつもりなんですけど、音楽自体は全然聴いてこなかったので……肝心のDJは、みんなが知らないようなアニソンばっかりかけてました(笑)。
夏クールアニメ『異世界ゆるり紀行』の魅力と
主人公・タクミの注目ポイント!
――夏クールの『異世界ゆるり紀行』では主人公のタクミ役を演じられています。作品の魅力を教えてください。
白井:ざっくりのあらすじとしては、主人公のタクミが森の中で、アレンとエレナという双子の子どもと出会い、そこからタクミと双子がさまざまな冒険を経験していく、というお話。いわゆる「異世界もの」のくくりではありますけど、個人的には老若男女を問わず、子どもも大人も一緒になって家族で楽しめるような作品になっていると思います。
作品の魅力でいうと、もうタイトルの通り。いい意味で、すごくゆるいです。でもそのゆるさが、響く人にはかなり響くんじゃないかなと思いますね。いわゆる異世界ものの「俺強え!」感はちゃんとあるんですが、どこかほのぼのしてるというか、キャラクター同士の掛け合いがすごくアットホームな感じなんですよね。
それがいい具合に作品の雰囲気をつくっていて、肩の力を抜いて見られる作品だと思いますし、そんなふうに観ていただけたら嬉しいなと思いながら、タクミを演じさせてもらっています。
©水無月静琉・アルファポリス/異世界ゆるり紀行製作委員会
――タクミというキャラの注目ポイントも教えてください。
白井:タクミ自身、最初は心配して双子の食べ物や服を用意したり、面倒を見たりしているんですが、だんだんとそこに責任感みたいなものが生まれていく気がするんですよね。それってある意味、保護者のような立場で、親ではないけど親に近い感覚というか。
僕も小さな子をもつ一人の親なので、子どもと接してるときには「あぁ、かわいいな」と日々感じることが多いです。それに親として、良いことと悪いことをしっかり教えて、ちゃんとした大人に成長してもらいたいという思いも持ってる。
そういう、僕自身が日常生活の中で子どもと触れ合ったときに感じているものが、タクミを演じるときにはたくさん反映されていると思いますね。
双子の成長をのんびりと見守りつつ、転生した世界でタクミはどんな暮らしを送っていくのか。アレンとエレナのかわいさ、そして仲良しな3人のやりとりに癒されながら、ほのぼのとしたストーリー展開を楽しんでいただけたら嬉しいですね。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃