高校野球を愛する男たち

第1回「全国大会には出てこない注目選手」

高校球児たちによる熱戦がいよいよ開幕!
照りつける太陽、流れ落ちる汗、真剣な眼差し――。
高校野球を愛してやまない著名人が、
その熱い想いを語り尽くす!

藤田憲右(ふじたけんすけ)/’75年 12月 30日、静岡県出身。’97年に大村朋宏とお笑いコンビ・トータルテンボスを結成し、ツッコミを担当。高校時代には、静岡県立小山高等学校で野球部のエースとして活躍。’14年にトレードマークだったアフロヘアをやめて現在は坊主に。

interview

「“突然変異”で現れたすごい選手がいるかもしれない」

――藤田さん自身、高校時代は野球部のエースで、3年生のときには夏の地方大会で2試合連続1安打完封勝利を挙げていますね。

「いや、相手に恵まれたところもあったんですけどね。1試合目はフォアボールを8個くらい出してたんですよ。ランナーも出てたし、内容も悪かったんで。だから必死でなんとかしなきゃって思いましたね。2試合目は3回くらいに打たれたのかな。それで、これはしっかりと抑えなきゃって。結局、2試合目も勝ったんですけど、静岡大会は3回戦からシード校が出てくるんですよ。僕らの3試合目の相手が強豪の静岡商業で、そこに負けちゃいました」

――今も野球をやられているんですよね?

「はい、社会人野球で部長をやらせてもらっていたりして。草野球もやってます」

――体つきもいいですよね。

「いや、これは違うんですよ(笑)。単純に体を鍛えたくて。野球とはあまり関係ないんです(笑)」

――そんな藤田さんも汗を流した地方大会が今年も始まりました。藤田さんなりの地方大会の楽しみ方を教えてください。

「地方大会だと勝ち上がるチームと注目の選手って違ったりするじゃないですか。もちろん注目の選手がいるチームが強い高校なんですけど、必ずしもそうではなくて、ドラフト候補の選手がいるけど、チーム自体はめちゃくちゃ弱いってところもあるんですね。一昨年で言ったら、宮城県に岩出山高校という高校があるんですけど、そこのピッチャーの今野龍太投手はドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスに入ってるんですよ。でも、当時の岩出山高校自体は選手が11人しかいないチームだったりする。そういう決して強くはないチームに所属しているすごい選手を見られるのは地方大会しかないんですよ。
この時期になると、地方大会の注目の選手ってネットや本で一気に出るじゃないですか。例えば各県に注目の選手が20人くらいいて、その内の5人が同じチームにいて、その高校が甲子園に進んだとしても、残り15人の注目選手は全国大会では見ることができないわけですよね。15人の中に、“突然変異”で現れたすごい選手がいるかもしれない(笑)。そういった選手を見られるのは、地方大会ならではって感じですね」

――全国大会には出てこない注目選手を見られるのが地方大会の魅力なわけですね。

「'14年に東京ヤクルトスワローズへ入った風張蓮(かざはりれん)というピッチャーがいるんですけど、彼はもともと岩手県の伊保内高校っていう、それまでまったく聞いたことのない高校のチームの選手だったんです。その伊保内高校が地方大会に出て、1回戦で彼が21奪三振したんですよ。そして、彼の頑張りもあってベスト16まで行けたんですけど、ベスト16くらいになるとチームの総合力の戦いになるので、ピッチャーがどんなにすごくても勝てないんです。チームは負けてしまったけど、これはすごいピッチャーがいるなと。そこから注目し始めて、大学を経由してドラフト2位で東京ヤクルトスワローズに入るまで、追ってましたね」

――選手を発見する喜びみたいなものもあるんですね。今年の地方大会で注目している選手や高校などはありますか?

「それこそ山ほどありますね。自分の視点でいくと、僕、根本に大金星や初出場を見たいというのがあるんですよ。それを考えると、全国では、奈良県の奈良大学附属高校という高校が注目ですね。今年の春の選抜も甲子園に進んだので、すごく期待したいです! ピッチャーもいいので、もしかしたら夏も出れるかもしれない。奈良って結局、天理高校と智辯学園の2強っていわれているじゃないですか。でも一昨年に桜井高校というあまり知られていなかった高校が穴を開けたんですね。その再現というか、奈良大付属も今年は上位に絡んでくるんじゃないかと思いますね」

――奈良県は面白そうですね。

「奈良県に限らず、全国にはいわゆる”確定している県”というのがあるじゃないですか。青森県でいったら青森山田高校と八戸学院光星高校とか、和歌山県だったら、智辯学園和歌山高校の一強だとか。そういう“この県といったらこの高校”みたいな、ここが絶対に甲子園に行くというような、決まっているところに、マイナーな高校が穴を開けるところを見たいですね。
高知県でいったら、ここ20年間のほとんど高知高校か高知商業か明徳義塾しか甲子園に行ってないんですよ。本当にこの3校の戦いになっているので、そろそろ新しい高校が見たいなと思いますね」

――地方大会や全国大会問わず、そういった今まで知られていなかった高校の中で、印象に残っているところは他にもありますか?

「夏じゃなくて’86年の春の選抜なんですけど、富山県の新湊高校という本当に普通の県立高校があるんですね。新聞などで、ABCD評価ってあるじゃないですか。新湊はダントツのD評価で、初戦の対戦相手はA評価で優勝候補筆頭の愛知県・享栄高校だったんです。享栄はエースの近藤真市(現:中日ドラゴンズの投手コーチ)がいたときで、これは20対0とか、すごい点差の試合になるといわれてたんです。そしたら、その日朝に雨が降って、グラウンドコンディションの悪い中、結果1対0で新湊高校が勝ったんですよ。そこから、あれよあれよと、新湊はベスト8まで行くんです」

――「新湊旋風」と呼ばれる快進撃ですね。

「ピッチャーの酒井盛政投手も、本当に普通のなにげない右のオーバースローで、スピードもなかった。でもコントロールがよくて、全員野球できっちり守って、勝ちを重ねていったんです。それを観て、僕、すごく感動して。あとあと聞いたら、これまでいい環境のグラウンドでしか練習をしたことがなかった享栄に対し、新湊は富山県で雪が降るから、コンディションの悪いグラウンドに慣れていたんですね。グラウンドが荒れていても何も苦じゃなかったらしいんですよ。地の利で享栄を倒し、それで勢いに乗っちゃった。享栄の油断もなくはなかったと思います。高校生だからそういうことも起こりえるんですよね」

――全員野球のような選手一丸となって、というようなスタイルがお好きなんですね。

「いや、もちろん広島商業みたいな全員が力を合わせて、というのも好きなんですが、大阪桐蔭高校のような圧倒的な強さを見せてくれるチームもすごく好きなんです(笑)。昔でいったら池田高校のような打って打って打ちまくる、みたいな(笑)。
やっぱり、夏の高校野球はバッティングですよ。昔に比べてバッティングの技術も上がってますし、指導者の指導する技術も上がってる。選手も効果的な筋トレをやっているので、スピードボールにも対応できる体を作ってきている。前まではピッチャー対4番を中心にしたクリンナップだったのに対し、今は4番クラスを9人並べられるようになってきていますね。だから、去年のベスト4の打線を見たとき、これはもうバットを木に変える時が来ているじゃないかとさえ思いましたね。ピッチャーは一人で連投するので、上に行けば行くほど負担も大きくなってくる。だから、ピッチャーも分業制にして、球数も制限する。1試合目を投げたピッチャーは2試合目を投げられないようにするとか」

――ある程度の制限を設けるわけですね。

「ただ、これってあくまで選手の将来を考えての意見なんです。この夏で肩を壊さなければプロ野球に入れたかもしれないのにって。でも、この間、早稲田実業の選手に聞いたんですけど、『藤田さん、周りはそう言うんですけど、やっているプレイヤーの中には高校で野球を辞めるつもりだから、ここで、この場所で完全燃焼したいという選手もいるんです!』って言われて。確かに! って。僕らは高校で野球を終わらせるつもりの選手の気持ちを考えてなかったんだなって。全員が全員プロでやりたいわけじゃない。完全燃焼したいという選手に対して、分業制や球数制限が必ずしもいいことではないって気付いたんです」

――なるほど、確かにそうですね。地方大会にしろ全国大会にしろ、そこで完全燃焼したいという選手も多いはずですよね。すいません、少し話が脱線してしまいました。それでは、奈良大付属の他に、注目している選手や高校を教えてください。まずは藤田さん出身の静岡では?

「ずばり静岡高校です。今年はめっちゃ強いですよ! 静岡だと他には日大三島高校とかが有力ですね。まだ甲子園には1回しか出てないんですけど、ドラフト上位候補の投手とか、勝てる素材は揃ってます。あと、韮山高校も好きなんですよ~。一度ベスト16まで行きましたよね。韮高はめちゃめちゃ頭いい高校だし、今、韮高出身の堀井哲也さんという方が、JR東日本の監督ですからね」

――さすが詳しいですね(笑)。その他の地区で、「ここが出てくるのでは?」と思う高校はありますか?

「北海道はやはり選抜にも出た東海大四(東海大学付属第四高校)ですね。去年のチームよりも強いんじゃないですか。 今年の春の選抜で優勝した福井県の敦賀気比高校も、もちろん注目校の一つ。めっちゃ強いですよ。間違いなく甲子園でベスト4くらいまでには行くんじゃないですかね。 大阪は大阪桐蔭でしょうね。あと履正社高校は、去年選抜に出た永谷暢章(ながたにのぶあき)投手が今年3年でラストサマーですから、気合が入っていると思います。それに、大阪ではないんですが、和歌山県の初芝橋本高校には、昨年ホームランを72本打った黒瀬健太選手がいますね」

――大接戦の神奈川地区などはいかがですか?

「神奈川県は東海大相模(東海大学付属相模高校)だと思うんですけど…神奈川の中で、秋も2位になって春も2位になった県立の相模原高校という高校があるんですね。県立で進学校なんですけど、けっこう強いんですよ。そこは応援したいです。なにもこの年に…とは思いますけどね。東海大相模が一番強い時ですから。今年じゃなければ…みたいな(笑)。あとは横浜高校の渡辺(元智)監督がラストサマーなんで、最後の意地を見せるのかなぁ」

――実際に地方大会が行われている球場へ観戦しに行くことはあるんですか?

「行きますよ。母校(小山高校)の試合は行ける時には行くようにしてますし、東京都の地方大会の決勝は毎年見に行ってますね。去年も行きましたよ。東海大菅生高校と日大鶴ヶ丘高校の試合を観に行って、結局、日鶴が甲子園に行ったんですけど、僕の勝手な感想を言わせてもらえれば、東海大菅生のほうが力は上でした。打力、走力、守備力、全て東海大菅生が上回っていたんですけど、機を逃さなかったのが、日鶴だった。勝負強さがあったんです。日鶴は甲子園の初戦で負けてしまいましたけど、もしかしたら、東海大菅生が出ていたら、2回戦、3回戦まで進んだかもしれなかった」

――必ずしも強いチームが勝つわけではないのが、高校野球の面白いところかもしれませんね。

「地方大会にしろ、甲子園にしろ、大会の最後のほうになると、よく番狂わせが起きるんです。そういう球場の雰囲気みたいなものが出るんですよ。“甲子園の魔物”ってよく言うじゃないですか。僕は魔物って観衆のことだと思うんです。大事な場面でのエラーや、ありえないところでのホームランなど、『甲子園には魔物がいる』ってよく言われますけど、結局、観衆がプレーの何割かを持っていると思うんです。
例えば’06年の智辯和歌山と帝京高校の試合だって、智辯リードのまま最終回を迎えて、智辯に追いついたら面白いと思った観衆が帝京を応援して、帝京が逆転すると、今度はさらなる逆転劇を見たいから智辯を応援するという観客の心理があって、それがプレーにも影響を与えちゃう。やっぱり試合をしているのは高校生ですからね。その雰囲気に萎縮するし、甘い球投げちゃうし、ストライクも入らない」

――仕方ないところはありますよね。

「松坂(大輔)の年なんて、松坂が出てきた瞬間に観客がドゥワー!!ってなって(笑)、相手の明徳義塾の選手は萎縮しちゃった。松坂の存在だけでも相手が萎縮するには十分なんですけど、そこにさらに観客が味方についた。たぶん、明徳義塾の選手は『俺たち勝っちゃいけないんじゃないか』っていう気分になったと思うんですね。それだけ、観衆の力ってのは大きいんじゃないかなと。そういうところも含めて、高校野球は面白いですね。
今年の夏も、甲子園はもとより各球場でさまざまな熱いドラマが生まれると思います。皆さんも、ぜひ”魔物の一人”になっていただいて(笑)、一緒に高校野球を盛り上げていければと思います」

インタビュー:尾藤克之/ジャーナリスト
撮影:松本健太郎

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トータルテンボス
全国漫才ツアー2015「餡蜜」

餡蜜

今年もトータルテンボスが全国を巡る漫才ツアーが開催される。8月22日の静岡・しずぎんホールを皮切りに、全国14ヵ所15公演でトータルテンボスの二人が「笑い」と「いたずら」をお届け!

  • ★前売り3000円
  • ★特別販売(チケットよしもとのみ)"トータルテンボス全国漫才ツアー2014「strelka」"DVD付きチケット 6000円(~7/31まで)
  • ・各会場限定50枚、DVD付きチケットを販売。※沖縄公演のみ30枚限定。

【公演スケジュール】

8月22日(土) 静岡・しずぎんホール
8月23日(日) 新潟・新潟ユニゾンプラザ
9月5日(土) 仙台・日立シズテムズホール仙台
9月12日(土) 沖縄・沖縄花月
9月13日(日) 熊本・くまもと森都心プラザホール
9月26日(土) 岡山・みらいホール
9月27日(日) 広島・東区民ホール
10月10日(土) 高知・県民文化ホール小ホール
10月18日(日) 名古屋・芸術創造センター
10月24日(土) 札幌・共済ホール
11月15日(日) 福岡・JR九州ホール
11月21日(土) 石川・金沢市アートホール
11月23日(祝) 大阪・なんばグランド花月
11月27日(金) 東京・ルミネtheよしもと
11月28日(土) 東京・ルミネtheよしもと

詳しくは「餡蜜 トータルテンボス」で検索!