高校球児たちによる熱戦がいよいよ開幕!
照りつける太陽、流れ落ちる汗、真剣な眼差し――。
高校野球を愛してやまない著名人が、
その熱い想いを語り尽くす!
レッド吉田(れっどよしだ)/'65年10月30日、京都府出身。’94年にゴルゴ松本とお笑いコンビ・TIMを結成し、ツッコミを担当。高校時代には京都府・私立東山高等学校の野球部に所属し、’83年の第65回全国高等学校野球選手権大会に出場する。現在、5児の父。
interview
「越えるのが難しそうな山を越えたときに達成感がある。だから、あきらめずに頑張れよと言いたい」
――吉田さんも元高校球児。東山高校(京都代表)の選手として甲子園にも行かれたんですよね。
「それは、もう30年以上前の話なんでね。ちょっと照れくさいですけど(笑)、第65回大会(1983年・夏)に行かせてもらいました。まぁ、僕らの場合は運ですから。甲子園は運ですね。実力があっても、勝てないこともある。なかなか難しいですよね」
――トーナメントですから、一発勝負ですもんね。
「夏に関してはね。選抜は秋に地方大会で勝ち上がって、その地区の上位に来れば甲子園に行けるチャンスがありますけど。そういう意味では、僕なんかが夏に出られたことは奇跡なのかなと思います。だって、みんな小学校から野球を始めて、中学、高校と上がっていく過程で目指しているのは甲子園だと思うんですよ。そして、その甲子園がゴールだという人も結構いたりして。最後の試合は甲子園で終えたいという思いがあるんですよ。だからこそ、そこにドラマがあるんでしょうね」
――そういう意味で地方大会は“熱い”ドラマがあると。
「地方大会で泣き崩れている選手を見ると思いますね。そこまで、野球に懸けてきた時間はすごいわけですから。大学、社会人、そしてプロ。長く野球を続けられる人はひと握りなんです。多くの子どもたちの野球人生は、高校3年の夏で終わるんです。そのドラマが本当に切ない。しかも、選手によって温度差が違ったりもしますからね。『絶対、甲子園に行きたい!』と思う選手と『そこまで熱くならなくてもいいよ』と考えている選手がいる。 僕の場合は、甲子園に行きたいと思っているやつらばかりが集まったから、そのエネルギーが一つになって、たまたま行けたんだと思うんですよ。そこに、運と実力が重なったりしてね。高校野球の面白さは、そういうところにあるような気がします」
――1試合、1試合に隠れたストーリーがあるんですよね。
「そうなんですよ。チームもそうですし、選手一人ひとりにそれぞれのドラマがある。ものすごく情熱を懸けて練習したとしても、自分の実力というものは嫌でも分かってくるんです。『あいつが、あそこまで行けるなら俺もここまでは上がれる』とか。『こんなにすごいやつがいるなら俺は無理だな』って。高校生は自分で限界を作ってしまいますから」
――残酷な現実を突きつけられるわけですね。
「でもね、確かに残酷なことなのかもしれませんけど、そこで厳しい現実にぶつからないと社会に出た時の免疫ができないような気がするんです。そこで、ポキッと鼻をへし折られて、上には上がいると知ることが大事。そこで腐ってしまうのか、それともなにくそと思って、さらに頑張るのか。そこでどっちに行ってしまうのか、道が分かれるんです。そんな時に、尻を叩ける親や指導者がいたら幸せですよね」
――地方大会では、甲子園の常連と言われる強豪校がどんな風に勝ち上がっていくのか気になるところですが。
「どこのチームも、自分たちが一番練習していると思っているはずなんです。自分がどれだけボールを投げてきたか、バットを振ったか。メンバーの中で誰よりもノックを受けたか。その自信があれば、どんなに追い込まれても今までやってきたことを思い切り出せばいいと考えられるものなんです。最後は精神的な戦い。開き直れたものの勝ちだと思います。
僕の母校は古豪だけど強豪ではなかったので。いつもチャレンジャーだったから、強豪チームの実情はよく分からないけど、今で言えば関東の横浜、日大三高、帝京、関西では大阪桐蔭、東洋大姫路、龍谷大平安あたりかな。やっぱり、この強豪と戦う相手は名前負けする部分が多少あるんじゃないですかね。気後れというか、相手のユニフォームに圧倒されてしまう。強いという先入観が邪魔になるんですよね。もしかしたら、一切情報を入れず、何も知らないまま普通に戦ったら勝つかもしれない。4:6で言ったら「4」の割合かもしれませんけど、変に構えずにすむから気持ちは楽かもしれませんよね。
僕らの時の強豪と言えば、池田や中京高校。彼らの戦いぶりを前年の夏の甲子園やセンバツの映像で観てるじゃないですか。だから、実際に池田のエース・水野雄仁を観たときは『うわっ、水野だ!』って思いましたもんね。すごい奴だぞって(笑)。もう、それだけで負けですよ、同じ高校生なのに。だから、そういうことを全く気にしない、あまり考えないようなチームが強豪校を打ち破ったりしたら楽しいですよね
」
――思わぬ伏兵の登場に期待したいですよね。
「今年のセンバツで優勝した敦賀気比の松本哲幣くんはすごかったですよね。春までは控えだったのに、甲子園で2打席連続満塁ホームランを打ったんですから。彼は『やってきたことを出せば、絶対結果が出ると信じていました』とコメントを残してましたけど、その結果が大会史上初の記録ですから。僕はあの時、現地にいたんですけど打った瞬間『行った~!』って叫んでいましたよ(笑)。松本くんのホームランは全部観ました。そんな彼が夏にどんな活躍を見せてくれるのか。そこを追いかける楽しみもあります」
――吉田さんが高校野球を観る時は選手とチーム、どちらに注目するんですか?
「僕なんかそんなにマニアックなほうじゃないので、今年はどこを応援しようかなって探しながら『よし、この高校!』って決めて観ることが多いです。そして、応援していたチームが負けたら、勝ち残っている中で次にどこを応援するか選んだりして。チームの中に必ず華のある選手がいたり、ラッキーボーイ的選手がいるので、その子たちに肩入れしながら楽しんでいます。
ピッチャーは、やっぱり球速。バッターは、いかにクラッチヒッターか。いわゆるチャンスに強いかどうかですよね。ホームランをたくさん打つ選手もいいんですけど、この選手が出てきたら絶対に大丈夫。何とかしてくれるという選手が優勝するチームには必ずいるんですよね。チャンスの場面でその子に回ってくるし、きちんと結果も残す。あれは面白いですよね。そういう選手やチームって、何か不思議なもので甲子園に導かれているような気がします
」
――応援したくなる決め手は、どういうところにあるんですか?
「僕の場合は雑誌を参考にしながら注目選手をピックアップしていくんですけど…完全にマスコミに煽られているというか、踊らされていますね(笑)。でも、まずはマスコミが取り上げている選手から入るんです。でも、実際に見てみたら『あれ? 意外と大したことないな』って思うこともあるんですよ。速いボールを投げるけど、精神的に弱そうだなとか。そういう中で、キラッと光る選手を見つける面白さもあったりして。ホームランは少ないけどシュアなバッティングをする選手を見ていると、彼の“これから”のことを考えたりするんです。大学に行くのかな、それとも社会人? 今のままだと、ちょっとプロは厳しいかな? なんて、完全にスカウト目線ですよ(笑)」
――そういう見方も面白そうですね。
「そうなんですよ。このチャンスに打てないとダメだけど、もし打ったら西武の3位ぐらいで指名されるかも? って、いろいろ想像しながら見るのが楽しい。高校野球が終わると、そこでスイッチが切れる子どもたちが結構いるんですよ。せっかく大学で野球ができる環境にいるのに、全然伸びなかったり。
やっぱり、誘惑が多いですからね大学は。女の子とも出会うだろうし、お酒や煙草にも興味を持つでしょ? あのまま、野球の道を真面目に進んでいればプロに行けたかもしれないという選手はいっぱいいるはずですよ。でも、そこで自分に負けてしまうんです。それも運命なんでしょう。きっと、野球の神様に愛されていなかったんだと思います」
――スターになる選手は「ここ!」というところで、しっかり結果を残しているし、野球に対してストイックなイメージがありますもんね。
「横浜高校時代の松坂(大輔)や駒大苫小牧時代のマーくん(田中将大)は、絶体絶命のピンチの時でも必ずアウトを取りますから。そりゃあ、やっぱりドラフト1位の選手ですよ。プロでも十分通用する精神力を持っていましたよね。それだけ、彼らはいろいろな準備をして甲子園に来ているんです。そして、しっかりと結果を出す。もちろん、他の選手も同じようにきつい練習をして勝ち上がってきたんですよ。なのに、ここは抑えないとだめだという場面で2者連続フォアボールを出してしまったりする。そういう姿を見ると、お前の準備って何だったんだって思ってしまう。何を考えて野球をやっていたんだと。それじゃあ、プロに行けないよって。気付いたら、やっぱりスカウティングしている(笑)」
――甲子園に行く。そして、勝つまでの過程が大事だと。
「5年前だったですかね、島根県の開成高校が21世紀枠の向陽(和歌山代表)高校に負けた時、監督が『腹を切りたい』と言って物議を醸しましたけど(笑)、そういう気持ちも分かりますよ。ものすごく厳しい練習をしてきたのに、お前ら何をやっているんだと。あれは相手を馬鹿にした発言ではなくて、自分のチームの選手たちに向けた言葉なんですよ。世論は“切腹”という言葉に対して過敏に反応してしまったんですけどね。顔も強面だったからなおさら(笑)。でも、あの監督の気持ちは理解できますよ」
――ここまで、高校野球への熱い思いを語っていただきましたが、今年の注目校についてお伺いできたらと。まずは吉田さんの地元である京都から。
「やっぱり平安(龍谷大平安)でしょうね。福知山成美、京都外大西も強いけど、平安が抜けているような気がします。これはね、地元だからあえて僕の母校の後輩たちにきつく言いますけど、相手が強いからこそ倒しがいがあるだろうと。あそこは強いから仕方がないではなく、越えるのが難しそうな山を越えたときに達成感があるわけですから。だから、あきらめずに頑張れよと言いたい。
確かに平安は強いですよ。原田(英彦)監督は僕の小・中学校の先輩なんです。5つ上かな? だから、あの人のすごさは分かっている。現役時代はプロから声がかかるぐらいの選手でしたからね。練習は合理的だし、チームの勝たせ方を知っている。でも、プレーをするのは選手。相手が強いからといって臆せず、思い切りぶつかっていってほしいですね。とは言っても、平安の試合を映像で見ている選手が多いでしょうから。気にするなと言っても無理があるのかなぁ。
むしろ、平安の強さをよく知らない田舎町に住むわんぱくな男の子9人の集団が出てきたら面白いかも。『平安? なにそれ』って、平常心で戦ったら意外な結果が出たりして(笑)。京都大会は、いかに平安を倒すか。そこに注目したい。決勝まで平安が残ったら、かなりの確率で優勝するんじゃないかな。センバツに出ている余裕があるし、甲子園に“忘れ物”をしているしね。チーム内にも地方大会で負けている場合じゃないという空気が流れているでしょうし。だから、他のチームは決勝までに平安を倒せるかどうかがポイントですね
」
――続いては、関東の注目校をお願いします。
「強豪校はどこも注目していますけど、東東京は帝京、関東一高、二松学舎の3校じゃないですか。最近は都立も結構力を入れてきているので面白いかもしれませんね。どこが出てくるか分からないですけど、安定した力を持つチームがポーンと出てきたりすると“都立旋風”のようなものが起こって、肩入れしたくなる人も増えるんじゃないですか。僕も応援したくなりますね」
――気になる選手はいますか?
「二松学舎の大江(竜聖)と今村(大輝)のバッテリー。とにかく向上心が強いんですよ。あの子たちは、甲子園に5回行くつもりだと思います。それぐらいのモチベーションでやっていますよね」
――西東京はいかがですか?
「日大三高と"清宮効果"が期待できる早稲田実業。やっぱり、清宮(幸太郎)のバッティングはみんな見たいですよね。ああいうスター選手が出てくると、チームメイトも自然と押し出されていくんです。優秀なやつがいるとレベルが上がるんですよね。清宮が3年生の時は、甲子園大会が99回目なんですよ。2年後、その99回大会にもきっと彼は出てくると思います。1年の時が高校野球100周年で、3年の時が99回大会。これで本当に出てきたら、本物のスター。そういうものを持っている子なんじゃないかなと思っています。チームとしての課題は投手陣。そこがしっかりしてくれば、もっともっと勝てるんじゃないですかね」
――今年の春に入った新戦力がもたらす効果はありますか?
「去年で言うと、千葉県の佐倉シニアが全国制覇しているんです。その選手たちがどこの高校に入ったのか気になりますね。ひと冬越した彼らが、どれだけ成長しているのか。勢力図が変わるぐらいの活躍を期待したいですね」
――北海道・東北勢も近年、安定した力を持っていますね。
「青森県は面白いと思いますよ。特に青森山田。以前は大阪の子どもたちをたくさん集めていましたけど、最近それをやっているのは八戸学院光星だけ。実は、青森山田の一年生に僕の甥がいるんです。カミさんの兄貴の子どもで、体は小さいけど青森山田の中学でも野球をやっていて。すごく頭がいいんです。この3年のうちに、一回は甲子園に行くんじゃないかなと思っています。
もう一校挙げるとしたら弘前学院聖愛。ここも強いですよ。地元の選手ばかりで構成されたチームで優秀な人材が集まっているみたいです。青森山田、光星に割って入る存在として楽しみですね。北海道は、やっぱり東海大四でしょう。センバツの準優勝校ですし、ピッチャーがいい。注目したいですね
」
――では、最後に関西地区もお願いします。
「大阪は、大阪桐蔭なのかな。いろいろな問題があって、選手たちはかわいそうだけど実力はもちろん上位。そんな桐蔭に履正社がどう立ち向かっていくのか。あとは、PL学園ですかね。やっぱり、もう一回PLのユニフォームを観たいじゃないですか、甲子園で。あの校歌も聴きたい! 去年の夏は大阪大会の決勝まで行ってるわけだし、能力が高い選手が揃っているのは間違いないです。きっと、オールドファンもPLの活躍を観たいと思うので、何とか頑張って勝ち上がっていってほしいですね」
撮影:松本健太郎
取材・文:小池貴之