2024/7/27(土)放送
パラスポチアーズ!
〜パラアスリート全力応援〜
パラ卓球・車いすクラスでメダルの有力候補となっている七野一輝選手と、二人の息がバッチ揃ったボッチャのペア、有田正行選手と一戸彩音選手をご紹介。
元々は杖をつきながら戦う立位の選手だった七野選手。怪我の影響で車いす卓球に転向するも、立位時代に鍛え上げた筋力を武器に、鋭いスマッシュを連発。国際大会でも金メダルを獲得するなど、パリでも大きな期待がかけられています。
最も障がいが重いクラスで戦う有田選手・一戸選手のペア。それぞれ家族に支えられながらプレーを続けています。短時間で意思の疎通を図る必要があるボッチャですが、二人の意思は高くシンクロ。初の大舞台でメダル獲得を目指します。
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応援団長の中山秀征がパラスポーツを体験しながら、ルールやテクニックなどを解説し、その魅力に迫るとともに、パラアスリートの熱い思いを聞く。
第17回は、パラ卓球男子の七野一輝選手と、ボッチャのペア、有田正行選手と一戸彩音選手を紹介。
パラ卓球車いすクラス期待の新星。強烈なスマッシュを放つ
パラ卓球期待の新星・七野選手は、競技の3カテゴリーのうち車いす(クラス4)の選手。 取材で対面した応援団長・中山秀征は車いす卓球を体験し、七野選手からプレーの基本を学ぶ。まず大事なのはラケットを持つ方と逆の手でタイヤを抑え、固定させることだという。そうしないとラケットを振ったときに動いてしまい、次の動きに影響が出たりするためだ。ただしサイドに流れたボールは車いすを動かさないとラケットが届かないため、臨機応変な操作技術も求められる。中山は続いて七野選手のスマッシュの威力を体感。すると思わずのけぞり、「見えないですね…」とひと言。七野選手によると「時速は100kmいかないくらいだけど、体感的にはもっと速く感じる」という。
立位から転向を余儀なくされたが、逆境をチャンスに変える
強烈なスマッシュを生み出す秘密は、これまでの卓球人生にあった。1998生まれの七野選手は中学1年生で卓球を始めた。もともとは杖をつきながらプレーする立位の選手だった。高校生のときから国内外の大会で活躍し、東京2022パラリンピックの有力候補になるが、出場とはならず「悔しかったですし、だからこそパリ2024年パラリンピックには絶対出場するという目標を掲げました」。ところがその矢先、運命を変える出来事が。「もともと股関節が悪かったんですけど。転んだときに肉離れを起こして悪化してしまった」。その影響で立位でのプレーが困難となり、パラリンピック出場の夢を実現するため、車いす転向を決断したのだ。「結果が出せるか不安だった」と振り返る七野選手だが、立位で培った武器があった。それは杖で体を支えることで鍛え上げられた腕の筋肉。両手が自由になった車いすでは、腕の筋肉は攻撃では打球の力強さに、守備では安定した返球につながった。その結果、転向後初めて出場した国際大会で優勝。逆境をチャンスに変え、パリ大会の出場権も獲得した。「自分のベストなパフォーマンスを発揮して、悔いのないプレーをしたい」と憧れの舞台に臨んだ七野選手は、シングルス準々決勝で世界ランキング1位の強豪相手に敗れ5位、齊藤元希選手と組んだダブルスも5位だった。しかし、転向して日が浅い種目でパラリンピックを経験できたことは大きな収穫になったはず。今後に期待したい。
イメージを共有して戦略を練り、試合を組みたてる26歳差ペア
パラリンピック特有の競技であるボッチャの魅力を、有田選手は「食べることも自分でままならない体でも、自分のやりたいことが体現できること」、一戸選手は「お年寄りから子どもまで同じルールで勝負できること」と語る。ボッチャは脳性まひなどで運動機能に重い障がいのある人のために考案された。赤と青のチーム分かれ、白い的球(ジャックボール)に、自分のチームのボールをいかに近づけるかを競うシンプルな競技だが、奥深い戦略が必要で、“地上のカーリング”とも呼ばれる。
1980年生まれの有田選手と2006年生まれの一戸選手は、最も障がいが重いBC3クラスに属する。自力での投球が困難なため、ランプと呼ばれる滑り台のような器具を使い、ランプオペレーターのサポート受けて競技を行う。有田選手は妻の千穂さん、一戸選手は父親の賢司さんがランプオペレーターを務める。オペレーターはコートを見ることや助言することはできず、ランプの高さ、角度や戦略を考えるのはあくまで選手でなければならない。赤・青両チームとも6球ずつ投げて得点を競うが、持ち時間以内に全てのボールを投げ切る必要がある。そのため、2人が大事にしているのはイメージの共有。有田選手は「ボールを30cm押したいときにどの高さから投球するか。2人の中で“このへんだよね”というのがあるので、次の投球動作が短縮できる」と語る。イメージを共有し、初のパラリンピックとなったパリ大会に挑んだ2人は混合ペアで9位。有田選手は男子個人で12位、一戸選手は女子個人7位の成績を残した。
文/佐藤新